論文紹介 | 監修:財団法人癌研究会附属病院 藤田力也(消化器内科・部長/内視鏡部・部長)山口俊晴(消化器外科・部長)

8月

切除可能直腸癌に対するUFT併用術前化学放射線療法
:多施設共同臨床第II相試験の3年経過報告

Carlos Fernández-Martos, et al., J Clin Oncol 22 (15), 2004 : 3016-3022

 進行直腸癌患者(T2N+、T3-T4)に対して、術前化学放射線同時併用療法(UFT 400 mg/m2/日、週5日間投与×5週間+全骨盤腔照射 45Gy:1.8Gy/日、週5日間投与×5週間)+5-6週後の切除術(TME)+術後補助化学療法(LV/5-FU療法:LV 20 mg/m2+5-FU 425 mg/m2、週5日間投与×4コース)を行い、その効果と安全性を検討したスペインの多施設共同第II相試験である。病期別分布T2N+ 4例、T3 77例、T4 13例の計94例の患者が登録され、primary endpointである down staging率は54%であった。病理学的著効率(pCR)は9%、癌細胞の変性過程を考慮に入れたpCRは15%であった。著効あるいは腫瘍の顕微鏡的残存のあった例の割合は23%であった。11例で肛門括約筋温存術が可能であった。術前療法でのgrade 3以上の有害事象は、下痢14%、骨髄抑制2%であった。全例で放射線照射は完遂されたが、15例(16%)でUFTの減量が行われ、その内13例が下痢によるものだった。
 手術は、腹会陰式直腸切除術が48例に、低位前方切除術が43例に行われた。術後有害事象は、腹会陰式切除術例で創治癒遷延(33%)、膿瘍(4%)、低位前方切除術例では縫合不全(11%)が認められた。術後補助化学療法は有害事象によって24%で完遂できなかったが、その内分けは、下痢8%、粘膜炎9%、白血球減少7%であった。全例の3年生存率は75%であった。down stagingが得られた例では、他に比べて有意に高い無再発生存率(92% vs 51%、p<0.00001)を示した。経過観察3年での再発様式は骨盤部が5%、遠隔転移が11%であった。術前UFT放射線同時併用療法は、進行直腸癌に対する治療法の選択肢になりうるものと考えられる。

考察

外来治療可能な術前化学放射線療法の効果が示されたが、
手術成績に課題が残る。

 この試験は、経口抗癌剤であるUFTを術前骨盤照射と同時併用した場合、Inter-group trialで有効性が証明されている5-FU持続点滴法と同等の効果が期待できることを明らかにした。外来投与可能という患者の利便性の高い術前治療に効果を認めたことは、意義が大きい。短期経過観察であるが生存率が高いこと、特にdown stagingが得られた症例での無再発生存率の大幅な改善は注目に値する。術前化学放射線療法の有害事象は容認できる範囲であるが、本試験の術後合併症の頻度は我が国での頻度に比べて高く、また期待された肛門括約筋温存率は決して高くないなど、課題も残されている。UFTによる術前化学放射線療法の有効性と安全性については結論を急ぐべきでない。進行直腸癌の臨床試験では、温存肛門機能やQOLを踏まえた総合評価(Q-TWiST)をendpointとすべきである。

(放射線治療科・小口正彦)

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