論文紹介 | 監修:財団法人癌研究会附属病院 藤田力也(消化器内科・部長/内視鏡部・部長)山口俊晴(消化器外科・部長)

7月

切除可能胃癌患者における術前化学放射線療法の多施設共同試験

J.A. Ajani, et al., J Clin Oncol 22 (14), 2004 : 2774-2780

 欧米では、局所胃癌患者のほぼ半数で治癒切除が行われているが、いまだその内の60%以上の症例で再発し死亡している。そこで本研究では、切除可能胃癌に対して術前化学放射線療法の多施設共同試験を行い、治癒切除の施行率、病理学的著効率(pCR)、安全性、生存への影響を検証した。
 CT、EUSの他、全例で診断的腹腔鏡が施行され、T2-3ないしはT1N1と診断された症例を対象とした。化学療法は5-FU(200 mg/m2/日)を21日間連続投与、leucovorin(20 mg/m2)をbolusで1、8、15日に投与、cisplatin(20 mg/m2/日)を5日間投与し、これを1コースとして、29日目からさらに1コース追加した。その後最低1週間おいて、5週にわたって総量45Gyの放射線を照射した。照射期間中5-FU(300 mg/m2/日)を週5日間連続投与した。手術は、腫瘍の部位により、2群リンパ節郭清を伴う幽門側切除あるいは全摘出が施行された。
 33例で術前治療が行われ、うち28例(85%)が手術をうけた。治癒切除率は70%であった。奏効率は54%(CR:30%、PR:24%)であり、EUSによる術前stagingと術後のstagingとでは有意にdown stagingが認められた。また生存期間中央値は33.7ヵ月であったが、responder(CR例+PR例)では63.9ヵ月と、non-responderの12.6ヵ月より有意に延長していた。本研究の3段階による術前化学放射線療法は良好な奏功率を示し、かつ生存期間の大幅な延長が認められた。今後は、術後化学放射線療法との比較が必要であると考えられる。

考察

responderとnon-responderの見極めと、non-responderへの治療方法が課題

 欧米と我が国では手術の質が異なるといわれており、本報告で示された程度の成績は手術単独でも得られると考える者もあろう。しかし、我が国でも進行胃癌のすべてが治癒するわけではなく、別な観点からmulti-modality therapyとしての術前化療をじっくり検討しなければならない時期にきていると考える。実際日本でも、放射線療法は加味されないものの、切除可能高度進行胃癌に対して術前化学療法が行われるようになってきており、著効を示す症例も認められている。なお、食道癌などの他癌種でも報告されているのと同様、本報告でも術前化療に対するresponderとnon-responderで術後予後に明らかな差異があることが示された。今後、responderとnon-responderの見極め、さらにnon-responderへの追加治療をどうするかが、検討課題になることは間違いない。

(消化器外科・瀬戸泰之)

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