論文紹介 | 監修:財団法人癌研究会附属病院 藤田力也(消化器内科・部長/内視鏡部・部長)山口俊晴(消化器外科・部長)

6月

局所限局型食道癌と食道胃接合部癌患者に対する術前CPT-11+cisplatin導入
化学療法とそれに引き続く放射線化学療法

Jaffer A. Ajani, M.D. et al., Cancer 100(11), 2004 : 2347-2354

 局所限局型食道癌患者はしばしば局所再発と遠隔再発をきたす。今回の研究では、放射線化学療法の導入療法としての新しい併用化学療法を検討した。
 切除可能な食道癌または食道胃接合部癌患者43例が登録された。多くの腫瘍は超音波内視鏡(EUS)でT3(84%)とN1(63%)であった。患者は最大2コースの術前CPT-11+cisplatin化学療法(6週毎)と、それに引き続き放射線化学療法(45Gy照射と5-FU+paclitaxel)を受けた。放射線化学療法終了5-6週後にstagingの上、手術を行った。実行可能性、治癒切除率、全生存率、無病生存率、病理学的奏効率、再発形式を評価した。
 43例中39例(91%)でR0の手術が行われた。2例(5%)が術後死亡した。病理学的完全効果(pathCR)は手術例39例中11例(28%、全43例中で26%)で得られた。16例(手術例39例中41%、全43例中37%)で手術標本にviableな腫瘍が10%未満(pathPR)しか残存しなかった。治療前のEUSと手術時のTN stageを比較すると明らかにdown stagingがなされた(p<0.01)。全43例の全生存期間中央値は22.1ヵ月であった。pathCRあるいはpathPRの得られた症例はpathPRに至らなかった症例に比べ長い生存期間を示した(25.6ヵ月 vs 18.5ヵ月、p=0.52)。臨床的な背景因子で生存期間と病理学的効果とに関連するものは見出されなかった。
 CPT-11による導入化学療法により、高いpathCR、pathPR率が得られ、その結果良好な予後につながった。

考察

本法の有用性を確実に示すためには比較試験が必要

 従来の欧米での成績は術前放射線化学療法によりpathCRが20-25%、3年生存率が25-30%という成績で、それに比較して今回の成績は良好と思われる。しかし、これまでの無作為比較試験では術前の化学療法や放射線化学療法の優位性は手術単独と比べて証明されておらずcontroversialであることから、今回の方法が有用かはさらなる検討が必要である。本報告はいくつかの点で必ずしも日本の現状に応用できない。まず、日本での手術単独による成績は対象のstageII-IIIでは今回の報告よりも良好である。また、対象とした食道胃接合部腺癌の中には日本では噴門部胃癌と言えるものも多く含まれること、90%以上の組織型が扁平上皮癌である日本とは背景が同じとはいえない点などからである。
 筆者がdiscussionで言及しているように、新しい分子標的療法の開発により今後こうした3段階治療は有用性が増すと思われる。

(化学療法科・陳 勁松)

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