論文紹介 | 監修:財団法人癌研究会附属病院 藤田力也(消化器内科・部長/内視鏡部・部長)山口俊晴(消化器外科・部長)

6月

胃癌に対する拡大リンパ節郭清は誰にとって有益なのか?:
オランダ胃癌グループトライアル最終報告

H.H. Hartgrink, et al., J Clin Oncol 22(11), 2004 : 2069-2077

 オランダ胃癌グループのD1 vs D2の最終報告である。D1とは胃周囲のリンパ節のみを郭清するもの、D2は日本の胃癌取り扱い規約に準じた2群リンパ節郭清を行うものである。手術は、1989年8月から1993年7月までの4年間に行われ、計1078例の胃癌患者がランダムに前記の2群の手術に振り分けられた。この報告は、10年後の長期治療成績を解析したものである。
 1078例中711例に治癒切除術が施行されている。711例のT因子別の比率は、T1 25.7%、T2 46.8%、T3 24.8%、D1群380例、D2群331例である。術後合併症は、D1群で25%にみられたのに対し、D2群では43%と優位に高率であった。また、在院死が、D1群では4%であったのに対し、D2群では10%とこれも優位にD2群で高率であった。
 11年生存率は、D1群30%、D2群35%で差は見られなかった(5年生存率は、両群ともおよそ50%弱)。根治切除例についてリンパ節転移度別に治療成績を解析したところ、N2グループにおいてD2群の治療成績が良好となる傾向がみられた(p=0.078)が、他のグループでは成績に差は見られなかった。
 最終的にD1とD2の治療成績に差は見られなかった。D2において、術後合併症、手術死亡が極めて高率なため、治療の優位性が打ち消されている。リンパ節転移がN2の患者には、D2が有効な可能性があるが、N2患者と特定することはきわめて難しい。従って、D2手術が有効とは言えない。しかしながら、手術を安全に遂行できるという条件下では、D2は有効かもしれない。

考察

胃癌において手術・術後管理の習熟度に差がある欧米と日本

 外科手術におけるRCT、しかも我が国の外科医が参加しているということで、非常に注目された臨床研究である。D2手術は、我が国では胃癌の標準的手術であるが、欧米では胃癌症例が少ないこともあって、手術・術後管理の習熟度が低く、手術死亡率10%となってしまった。最終的にこの数字が、D2が優位かもしれないという可能性を打ち消してしまった。我が国では、手術死亡はほとんどの施設で1%以下である。T因子別の治療成績も欧米と我が国では相当に差がある(生存率、欧米 vs 日本=T1:55-57% vs 94%、T2:28-35% vs 80%、T3:8-17% vs 43%)。従って、本試験の結果のみから、我が国における胃癌のリンパ節郭清を変更する必要はない。薬剤の比較試験と異なり、高度の技術を伴う手術の臨床試験の難しさが明らかになったと言えよう。

(消化器外科・大山繁和)

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