論文紹介 | 監修:財団法人癌研究会附属病院 藤田力也(消化器内科・部長/内視鏡部・部長)山口俊晴(消化器外科・部長)

5月

結腸癌に対する腹腔鏡補助下結腸切除と開腹結腸切除の比較

Heidi Nelson, M.D. et al., N Engl J Med 350(20), 2004:2050-2059

 低侵襲手術である腹腔鏡補助下手術によって、結腸癌患者の結腸切除が初めて試みられたのは1990年である。しかしこの手術では、適切な癌病巣の切除や正確な病期判定ができなかったり、創部再発を増加させたりすることにより、生存率に影響を与えることが懸念されているため、無作為割付による比較試験が計画された。
 48施設で872名の結腸腺癌の患者を、外科認定医による腹腔鏡補助下結腸切除と開腹結腸切除に無作為に割り付けた。経過観察期間の中央値は4.4年で、再発までの期間をプライマリーエンドポイントとした。
 3年の観察期間で、両群の再発率は同等(腹腔鏡補助下群16%、開腹群18%)であった。創部再発はいずれの群でも1%未満であった。また3年の時点での生存率も両群とも同様(腹腔鏡補助下群86%、開腹群85%)で差がなかった。病期別の検討でも、再発までの期間や生存率は両群で差がなかった。一方、周術期の回復は腹腔鏡補助下群が、開腹群に較べて早く、在院日数が短く(5日 vs 6日)、非経口麻薬(3日 vs 4日)や経口鎮痛薬(1日 vs 2日)の使用期間がより短かった。術中合併症、術後30日以内の死亡、退院時および術後60日目の合併症、再入院、再手術の頻度は、いずれも両群で差がなかった。
 以上により、この多施設共同研究では、腹腔鏡補助下結腸切除と開腹結腸切除とではその再発率、生存率、合併症率が同じであることが示された。腹腔鏡補助下結腸切除は安全な手術であり、QOLも開腹手術に比較して優れている点のあることから、腹腔鏡手術が開腹手術に変わりうる治療法であることが示唆されたと結論づけている。

考察

腹腔鏡補助下結腸切除は生存率、再発率で開腹結腸切除と差がない

 結腸癌に対する腹腔鏡手術は、当初創部再発等が問題となり、その安全性の検証のためにrandomized controlled trial(RCT) の必要性が指摘されていた。これに対して近年2つのimpactの強い論文が発表された。ひとつは2002年Lancetに掲載されたAntonio M Lacyらの単一施設でのRCTの結果で、もうひとつが今回採り上げたHeidi Nelsonらによる多施設共同のRCTの結果である。共に腹腔鏡手術が普及する以前の1993-4年に計画され、進行癌をも対象に含んだものである。結果は、AM Lacyらは腹腔鏡補助下結腸切除の方が開腹結腸切除より生存率が高かった(stage IIIで特に腹腔鏡手術が成績がよい)と述べ、H Nelsonらは両者で生存率、再発率はまったく差がなかったと報告している。そして共に腹腔鏡手術では術後の回復が早くQOLがよいと報告しており、腹腔鏡手術の優位性を肯定するものであった。

(消化器外科・福永哲)

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