論文紹介 | 監修:財団法人癌研究会附属病院 藤田力也(消化器内科・部長/内視鏡部・部長)山口俊晴(消化器外科・部長)

2月

乳頭部癌の既往は大腸癌発生リスクを、大腸癌の既往は乳頭部癌発生リスクを、いずれも約2倍上昇させる。

Ananya Das, M.D., et al., Cancer 100(3),2004:524-530

 大腸癌は胆道疾患との関係が示唆されており、また家族性大腸腺腫症(FAP)では大腸癌と乳頭部腫瘍の合併の頻度は高い。本研究は癌登録データから乳頭部癌と大腸癌の関係を検討したものである。
 National Cancer InstituteのSurveillance, Epidemiology, and End Results(SEER)プログラムで、1973年1月から1999年12月までに登録された乳頭部癌ならびに大腸癌患者を対象に、一次診断後に発症した二次癌として乳頭部癌では大腸癌、大腸癌では乳頭部癌の発生率を人年法で検討した。FAP患者は除外され、FAP患者が含まれる可能性を減ずるため、50才以上を対象とした。また、乳頭部癌において白人以外では悪性の比率が低かったため、対象を白人に限定した。
 乳頭部癌患者2,043例での5,674人年の観察中、30例で大腸癌が発生し、標準化罹患比 (standardized incidence ratio:SIR)は2.14(95%CI:1.45-3.06)であった。大腸癌の発生部位は盲腸5例、上行結腸2例、肝弯曲3例、横行結腸1例、下行結腸2例、脾弯曲1例、S状結腸6例、直腸8例、不明2例であり、SEER登録大腸癌全体の分布と差はなかった。フォローアップの中央値は4.81年(25-75パーセンタイル,0.75-7.33年)で、大腸癌発生の中央値は5.25年(25-75パーセンタイル,2.42-10.25年)であった。一方、大腸癌患者262,066例では、1,270,255人年の観察中57例で乳頭部癌が発生し、SIRは2.18 (95%CI:1.69-2.85)であった。フォローアップの中央値は5.25年(25-75パーセンタイル,2.42-10.25年)で、乳頭部癌発生の中央値は7.58年(25-75パーセンタイル,2.33-13.3年)であった。
 これらの結果から、乳頭部癌と大腸癌は相互に発生のリスクを2倍ほど上昇させることが示唆された。

考察

共通した遺伝・環境因子をスクリーニングへどう活かすか

 大腸癌と乳頭部癌はAPC遺伝子変異を原因とするFAPで頻発し、遺伝子異常が原因の一つとしてあげられる。今回の対象中にもattenuated polyposis症例が含まれている可能性はあり、遺伝子解析も待たれるところではある。一方、本研究では背景にある環境因子にも共通するものがあることが示唆された。大腸癌、乳頭部癌とも早期発見・治療されれば予後は良いので、スクリーニングの意義は大きい。発生頻度を考えると、乳頭部癌患者の術後大腸スクリーニングは有用であろうが、大腸癌術後の乳頭部スクリーニングは効率的とはいえない。大腸癌と乳癌、前立腺癌などとの関連も報告されており、家族歴も加え、多因子による発生リスク評価を行い多臓器の効率的なスクリーニングに結びつける必要がある。

(消化器内科・小泉浩一)

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