ESMO 2014 演題レポート
2014年9月26日〜9月30日にスペイン・マドリッドにて開催された ESMO 2014 Congressより、大腸癌や胃癌などの注目演題のレポートをお届けします。演題レポートの冒頭には、臨床研究の第一線で活躍する監修ドクターのコメントを掲載しています。
会場写真
このページを印刷する   表示文字サイズ変更 大 中 小
肝細胞癌

Abstract #LBA16

1st-lineにおいてSorafenibを投与した進行肝細胞癌に対する2nd-lineとしてのRamucirumab:無作為化第III相試験 (REACH試験)
Ramucirumab as Second-line Treatment in Patients with Advanced Hepatocellular Carcinoma Following First-line Therapy with Sorafenib: Results from the Randomized Phase III REACH Study
Andrew X. Zhu, et al.
photo

Expert's view

進行肝細胞癌の2nd-line治療開発においては治療の個別化が必要となるか?

仁科 智裕 先生

国立病院機構
四国がんセンター
消化器内科

 肝細胞癌は多血性腫瘍で、VEGFの発現が強力な予後因子であることが分かっており、全身化学療法の2nd-lineにおいてもVEGF経路を標的とした開発が行われてきた。RamucirumabはVEGFR-2に対する抗体薬であり、胃癌や肺癌において2nd-lineで生存期間の延長が報告されており、肝細胞癌においてもその効果が期待されていた。
 PFSでは有意に生存を改善し (HR=0.625)、ほとんどのサブグループで有用性がみられており、Ramucirumabは肝細胞癌に対して薬効があることは間違いない。しかし、OSではHR=0.866とPFSのベネフィットがそのまま反映されない結果となった。VEGF経路を標的とする低分子化合物であるBrivanib1)Axitinibにおいても本試験と同様の対象で第III相試験が行われたが、TTPやPFSでは有意差が認められた一方、OSでは良好な結果ではあるものの、やはり有意差が認められていない。副作用については腹水、血小板減少、肝障害/肝不全、肝性脳症がRamucirumab群で有意に多く、肝細胞癌に併存する肝炎等による背景肝の機能低下により、全身化学療法 (特に2nd-line) の困難さを示唆しているものと思われる。
 本試験のサブ解析では、AFP高値 (400ng/mL以上) の症例において有意なOSの延長を認めている。また、前述のBrivanibにおいてはAFP低値 (200ng/mL未満) の症例、Axitinibにおいてはアジア人でより良好な成績がでている。肝細胞癌に対する全身化学療法開発においては、背景肝の状態を考慮することに加え、多くの分子異常が報告されるなど多様性を持つ腫瘍であることから、腫瘍の状態やバイオマーカー等で対象を絞り込んでいくことが重要になってくると思われる。
背景と目的

 肝細胞癌に対する1st-line治療としてはSorafenibが使用されているが2, 3)、2nd-lineにおいて生存ベネフィットが確立された治療法は存在しない1, 4)。一方で、肝細胞癌の増殖にはVEGFおよびVEGFR-2を介したシグナルが関与することが知られ、これらが治療標的になり得ると考えられている。Ramucirumab (RAM) はVEGFR-2に対するヒト型IgG1抗体薬であり、未治療の肝細胞癌患者に対する単群第II相試験において抗腫瘍活性が示されている5)。今回、Sorafenibによる1st-lineが行われた進行肝細胞癌患者に対する2nd-lineとしてのRAMの有効性と安全性を評価する無作為化第III相試験 (REACH試験) が実施された。
対象と方法

 対象は、Sorafenibによる治療歴があり、Child-Pugh分類A、EGOG PS 0/1で、BCLC stage Cもしくはstage Bのうち局所治療の施行不能/無効な病変を有する肝細胞癌患者であり、RAM (8mg/kg, 2週毎) + BSC (best supportive care) を行う群 (RAM群) とプラセボ + BSCを行う群 (プラセボ群) に1:1で無作為に割り付けた (図1)。主要評価項目はOS、副次評価項目はPFS、TTP (time to progression)、奏効率、安全性、PRO (patient-reported outcome) であった。OS中央値がプラセボ群8ヵ月、RAM群10.67ヵ月 (HR=0.75) と仮定し、検出力85%、両側α=0.05で、必要症例数は544例であった。
図1
図1
結果

 565例が対象となり、RAM群283例、プラセボ群282例に無作為に割り付けられた。ベースライン時の患者背景は両群で同様であり、相対用量強度はRAM群98.5%、プラセボ群99.0%といずれも良好であった。
 OS中央値はRAM群9.2ヵ月、プラセボ群7.6ヵ月であり、有意差は認めなかった (HR=0.866, 95% CI: 0.717-1.046, p=0.1391) (図2)。なお、ベースライン時のAFPが400ng/mL以上であった症例 (250例) におけるOS中央値はRAM群7.8ヵ月、プラセボ群4.2ヵ月とRAM群で有意な延長を認めたが (HR=0.674, 95% CI: 0.508-0.895, p=0.0059)、AFPが400ng/mL未満の症例では両群間に差はみられなかった (HR=1.093, 95% CI: 0.836-1.428, p=0.5059)。
図2
図2
 PFS中央値はRAM群2.8ヵ月、プラセボ群2.1ヵ月とRAM群で有意な延長を認め (HR=0.625, 95% CI: 0.522-0.750, p<0.0001) (図3)、サブグループ解析においてもECOG PS 1を除くすべてのサブグループにおいて有意な改善を認めた。また、TTP (中央値3.5 vs. 2.6ヵ月, HR=0.593, 95% CI: 0.487-0.722, p<0.0001)、奏効率 (7.1 vs. 0.7%, p<0.0001) のいずれもRAM群で有意に良好であった。
図3
図3
 Grade 3以上の有害事象としては、高血圧、腹水、血小板減少、肝性脳症、好中球減少がRAM群で高い傾向にあった。また、特に注目すべき有害事象として、肝障害/肝不全、鼻出血、高血圧、蛋白尿、infusion-related reactionがRAM群で有意に多く認められた (表)
表
結論

 本試験では主要評価項目のOSにおいて有意な改善を示すことができなかった。一方、RAM群ではPFS、TTP、奏効率を含む副次評価項目で臨床的に意義のある改善が認められ、忍容性が高く良好な安全性プロファイルを示した。また、ベースライン時におけるAFP高値は、RAMによるベネフィットを享受できる患者選択の指標となる可能性がある。肝細胞癌に対する2nd-lineは治療法が確立していないため、RAMについてさらなる検討が必要であると考えられる。
1) Llovet JM, et al.: J Clin Oncol. 31(28): 3509-3516, 2013 [PubMed
2) Lencioni R, et al.: Int J Clin Pract. 68(5): 609-617, 2014 [PubMed
3) Iavarone M, et al.: Hepatology. 54(6): 2055-2063, 2011 [PubMed
4) Zhu AX, et al.: JAMA. 312(1): 57-67, 2014 [PubMed
5) Zhu AX, et al.: Clin Cancer Res. 19(23): 6614-6623, 2013 [PubMed
消化器癌治療の広場へ戻る このページのトップへ