ESMO 2011 演題速報レポート Stockholm, Sweden September 23-27, 2011
2011年9月23日〜27日にスウェーデン・ストックホルムにて開催されたThe European Multidisciplinary Cancer Congress 2011 - ESMOより、大腸癌や胃癌などの注目演題のレポートをお届けします。演題レポートの冒頭には、臨床研究の第一線で活躍する監修ドクターのコメントを掲載しています。
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大腸癌
Abstract #6007/6097
既治療の切除不能進行・再発大腸癌患者に対するIrinotecanとPanitumumabまたはCiclosporinの併用療法:PICCOLO試験の結果報告
 PICCOLO試験はイギリスの切除不能進行・再発大腸癌1,198例を対象に、2nd-line治療としてのIrinotecan (CPT-11) 単剤へのPanitumumabまたはCiclosporinの併用を検討した大規模無作為化比較第III相試験である。
 2007年に3群試験として開始されたが、2008年6月より前向きにKRAS 遺伝子検査を行うこととし、KRAS 野生型はCPT-11群またはCPT-11 + Panitumumab群に、変異型はCPT-11群または低用量CPT-11 + Ciclosporin群に無作為に割り付けられた。
 ESMO 2011では、CPT-11 ± Panitumumab療法の遺伝子変異による有効性の解析結果 (#6007) とCPT-11 ± Ciclosporin療法の結果 (#6097) が報告された。
Expert's view
Panitumumabのさらなるバイオマーカーの探索の必要性
江見 泰徳 先生 済生会福岡総合病院 外科 九州大学大学院 消化器・総合外科
 PICCOLO試験の主たる解析は2011年の米国臨床腫瘍学会年次集会 において発表されている。その結果は、progression-free survival (PFS) やRECIST responseはIrinotecan (CPT-11) に対するPanitumumabの有意な上乗せ効果が示されたが、主要評価項目であるoverall survival (OS) では有意差を示すことはなく、試験としてはnegativeであった。この試験においては、後治療における抗EGFR抗体薬の使用率は6%未満とされ、多くの症例がBSCを選択されたとしている (イギリスを中心に施行された試験であり、その医療事情による)。今回の発表 (#6009) では、BRAFNRASPIK3CAおよびKRAS codon 146の変異解析の症例を増やし追加解析が報告された。評価対象であるKRAS codon 12、13、61野生型460例のうち133例 (29%) にBRAFNRASPIK3CAおよびKRAS codon 146のいずれかの変異が認められた (Any mutation)。No mutation群とAny mutation群間では、OS、PFS、RRすべてにおいて、有意なinteraction (交互作用) を認め、CPT-11 + Panitumumab群が優れていた。これらBRAFNRASPIK3CAおよびKRAS codon 146のいずれかの変異が認められた Any mutation群を治療群の対象から除外することにより、二次治療におけるCPT-11 + Panitumumab併用療法の有用性を示すことができるかもしれない。また、OS、PFSの生存曲線からは、症例全体の約50%前後にresponderとnon-responderの境界を見て取ることができるように思われる。今回示されたAny mutation群が約30%であったことを考慮すると、さらなる症例の絞り込みが可能であり、不利益症例群を除外すると考えれば、さらなるresponderの絞り込みは必須である。
 #6097は基礎的研究から明らかにされたCiclosporinの作用を利用して、CPT-11の重要な有害事象のひとつである重度の下痢を予防しながら、その抗腫瘍活性を維持することを目的にデザインされた試験である。残念ながら本試験の結果は有効性における非劣性が証明されずnegative studyであったが、そのコンセプトは非常に重要であったと認識している。新薬の開発も当然重要であるが、既存の治療薬の有効性の向上、responderを絞り込むバイオマーカー等の開発、有害事象の軽減など、研究目標としなければならない項目は多数ある。
Abstract #6007
遺伝子変異によるCPT-11療法 vs. CPT-11 + Panitumumab療法の有効性の検討
Panitumumab in Combination With Irinotecan for Chemoresistant Advanced Colorectal Cancer - Results of PICCOLO, a Large Randomised Trial With Prospective Molecular Stratification
Matthew T. Seymour, et al.
photo

対象と方法
 対象と方法は既報 (2011 Annual Meeting of the American Society of Clinical Oncology®: abst #3525)1) の通りである。遺伝子検査にはpyrosequencing法を用いた。KRAS codon 12、13、61野生型でかつ抗EGFR抗体薬治療歴のない症例を主要評価対象とした。
結果
 696例がCPT-11群またはCPT-11 + Panitumumab群に割り付けられ、うち主要評価対象は460例 (各群230例)であった。クロスオーバーは許容されたが、イギリスでは抗EGFR抗体薬は保険償還サービスの対象外であるため、CPT-11群で試験終了後に抗EGFR抗体薬が投与された症例は6%未満であった。
 CPT-11へのPanitumumab併用によるOSの延長は認められなかったが、PFSおよびRRはCPT-11群に比べCPT-11 + Panitumumab群において顕著な改善を示した (PFS: HR=0.78 [95% CI: 0.64-0.95], p=0.01; RR: p<0.0001) 1)
 探索的解析においては、KRAS 変異型ではPanitumumab併用による生存のベネフィットが得られないこと、またBRAF 変異型では不利益となる可能性が示唆された。
 主要評価対象であるKRAS codon 12、13、61野生型460例のうち133例 (29%) にBRAF NRAS PIK3CAおよびKRAS codon 146のいずれかの変異が認められた (Any mutation)。これらの遺伝子変異のない群 (No mutation) とAny mutation群には、OS、PFS、RRにおいて有意なinteraction (交互作用) が認められた (OS: p for interaction=0.03, PFS: 同=0.02, RR: 同<0.01)。
図1
図2
図3
結論
 2nd-line治療におけるCPT-11へのPanitumumab併用によるPFSおよびRRの改善は認められたが、主要評価項目であるOSの有意な改善を示すことはできなかった。
 KRAS codon 12、13、61野生型の約30%に認められたBRAF PIK3CANRAS およびKRAS codon 146の変異がPanitumumabの効果に影響しており、これらの遺伝子変異のない症例ではPanitumumab併用によるPFS、RRの改善が得られたのに対し、これらの遺伝子変異を有する症例では、Panitumumab併用によるベネフィットが得られない、あるいは不利益となる可能性が考えられた。

Abstract #6097
CPT-11療法 vs. 低用量CPT-11 + Ciclosporin療法の検討
Ciclosporin in Combination With Irinotecan for Chemoresistant Advanced Colorectal Cancer - Results of PICCOLO, a Large Randomised Trial with Prospective Molecular Stratification
Gary W. Middleton, et al.

背景と目的
 Ciclosporinは、CPT-11やその活性代謝物であるSN38の胆汁排泄と再循環を阻害することが報告されている。そこで、Ciclosporinに標準用量の40%のCPT-11を併用することで少なくとも標準用量のCPT-11と同等の薬剤活性が得られ、かつ重度の下痢のリスクを軽減できると仮説を立て、検証を行った。
対象と方法
 対象は前述した通りである。CPT-11±Ciclosporin療法の検定には非劣性デザインを用いた。

■治療スケジュール
CPT-11群: 350mg/m2 (PS 2または70歳超の場合は300mg/m2) をday 1に投与。3週を1サイクルとして繰り返す
低用量CPT-11 + Ciclosporin群: CPT-11 140mg/m2 (PS 2または70歳超の場合は120mg/m2)をday 1に、Ciclosporin 3mg/kgをday 0-2に投与。3週を1サイクルとして繰り返す
■評価項目 (非劣性試験)
主要評価項目: 治療開始12週時点のPFS
副次評価項目: 治療12週間のGrade 3以上の下痢、Loperamideの使用、OS
 ベースライン推定値は63%、非劣性マージンは-10.6%、検出力80%、サンプルサイズ750例、有意水準は0.025 (片側検定) とした。
結果
 672例がCPT-11群 (335例) またはCPT-11 + Ciclosporin群 (337例) に無作為に割り付けられた。年齢中央値は64歳、PS 0-1は92%、L-OHP既投与症例は95%であった。

 ITT解析では、治療開始12週時点のPFSはCPT-11群で53.4%、低用量CPT-11 + Ciclosporin群では47.2%であった 。両群の差は-6.3%、95% CIは-13.8%から + 1.3%で非劣性マージン-10.6%を超えており、CPT-11群に対する低用量CPT-11 + Ciclosporin群の非劣性を証明することはできなかった。OSも同様であった。 
図4
図5
 忍容性は両群とも良好であった。Grade 3以上の下痢の発現頻度はCPT-11群で12.2%、低用量CPT-11 + Ciclosporin群では10.1%と同等であり (p=0.38)、過去の報告2-5) に比べて両群とも低頻度であった。Loperamideが必要となった症例はそれぞれ68%、52%であり、低用量CPT-11 + Ciclosporin群のほうが有意に低かった (p<0.001)。
図6
結論
 CPT-11群に対する低用量CPT-11 + Ciclosporin群の非劣性を証明することはできず、本試験の結果をもって低用量CPT-11 + Ciclosporin療法を切除不能進行・再発大腸癌の標準治療のオプションとして推奨することはできなかった。
 また、同治療によりGrade 3以上の下痢や早期死亡率を抑制することはできなかったが、発現頻度は両群ともにまれであった。低用量CPT-11 + Ciclosporin群ではGrade 1/2の下痢が少なく、Loperamideの使用率は有意に低かった。

Reference
1) Seymour MT, et al.: 2011 Annual Meeting of the American Society of Clinical Oncology®: abst #3525 [学会レポート
2) Cunningham D, et al.: Lancet 352(9138): 1413-1418, 1998 [PubMed]
3) Seymour MT, et al.: Lancet 370(9582): 143-52, 2007 [PubMed][論文紹介
4) Sobrero AF, et al.: J Clin Oncol. 26(14): 2311-2319, 2008 [PubMed][論文紹介
5) Peeters M, et al.: J Clin Oncol. 28 (31): 4706-4713, 2010 [PubMed
会場写真
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