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演題速報レポート

Colorectal Cancer
Abstract #3523
IrinotecanにPanitumumabを併用する意義: 切除不能進行・再発大腸癌に対する無作為化比較第III相試験 (PICCOLO試験) の結果報告
Addition of panitumumab to irinotecan: Results of PICCOLO, a randomized controlled trial in advanced colorectal cancer (aCRC).
Matthew T. Seymour, et al.
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背景
 切除不能進行・再発大腸癌に対する細胞毒性抗癌薬に抗EGFR抗体薬を併用する第III相試験のレトロスペクティブな解析から、抗EGFR抗体薬はKRAS 野生型の大腸癌に有効であることが確認された。PICCOLO試験は2008年6月よりKRAS 測定をプロスペクティブに行うこととし、KRAS 野生型の切除不能進行・再発大腸癌に対する2nd-line以降の化学療法として、Irinotecan (CPT-11) 単剤へのPanitumumabの併用効果を検討する多施設共同無作為化比較試験である。
対象と方法
 主な適格基準は、測定可能病変を有する切除不能進行・再発大腸癌、フッ化ピリミジン系薬を含む化学療法の治療歴あり、CPT-11未治療例、PS0-2などである。
2008年5月までは、対象をCPT-11単剤群: CPT-11 + Panitumumab群: CPT-11 + Ciclosporin群に1:1:1に割り付けた (レトロスペクティブにKRAS 測定)。それ以降はKRAS をプロスペクティブに測定し、KRAS 野生型患者をCPT-11単剤群およびCPT-11 + Panitumumab群に1:1で割り付けた。各群の治療スケジュールは下記の通りである。

・ CPT-11単剤: 350mg/m2 (PS 2または年齢70歳以上の場合は300mg/m2)を3週間毎に投与
・ CPT-11 + Panitumumab療法: CPT-11 (単剤と同量) + Panitumumab 9mg/kgを3週間毎に投与

・ 主要評価項目: OS (overall survival)
・ 副次評価項目: PFS (progression-free survival)、RR (response rate)、毒性、QOLなど

結果
 2007年1月から2008年5月までに494症例が、2008年6月以降は704症例が登録された。全症例数は1,198症例で、KRAS 野生型の460症例について解析した。
 OS中央値はCPT-11 + Panitumumab群で10.4ヵ月、CPT-11単剤群では10.5ヵ月 (HR=0.91, 95%CI: 0.73-1.14, p=0.44) であり、CPT-11 + Panitumumab群におけるOSの改善は認められなかったが、12ヵ月以降は改善傾向が認められた。
Overall Survival
 PFS中央値は、CPT-11 + Panitumumab群が5.5ヵ月、CPT-11単剤群では4.7ヵ月 (HR=0.78, 95%CI: 0.64-0.95, p=0.01)、RRはそれぞれ34%、12% (p<0.0001) であり、PFSおよびRRともにPanitumumabの併用効果が認められた。
 KRAS 野生型460例のうち、BRAF 変異型が63例、NRAS 変異型が21例、KRAS 146 (codon146) 変異型が17例、このうちBRAF 変異型かつNRAS 変異型が1例、NRAS 変異型かつKRAS 146変異型が1例であった。すべて野生型 (all-wt) の症例は264症例であった。
 各populationにおけるOSの解析では、KRAS 野生型、double wt (KRAS 野生型およびBRAF 野生型; HR=0.87, 95%CI: 0.67-1.13, p=0.30)、all-wt (HR= 0.86, 95%CI: 0.63-1.16, p=0.32) において、Panitumumabの併用効果が認められる傾向があった。
Overall Survival-double wt
Overall Survival-all wt
 逆にいずれかが変異型である場合は、CPT-11単剤のほうが良好な傾向を認め、特にBRAF 変異型(HR=2.03, 95%CI: 1.13-3.64, p=0.02)、いずれかが変異型(HR=2.03, 95%CI: 1.26-3.28, p<0.01) ではCPT-11単剤がPanitumumab併用に比べ有意なOSの延長を認めた。
PFSにおいては、KRAS 146変異型ではPanitumumabの併用効果が認められる傾向にあったが、他はOSと同様であった。
Overall Survival-BRAF mut
結論
 PICCOLO試験では、KRAS 野生型におけるPanitumumab併用によるOSの改善は示せなかったが、12ヵ月以降は改善傾向が認められた。PFSおよびRRはPanitumumab併用による有意な改善(特にdouble-wt, all-wtのpopulation)が認められた。KRAS 野生型症例のなかで、BRAF 変異型症例は予後不良であり、Panitumumabの併用は逆に治療効果の有意な低下を認めた。また他の遺伝子の変異型においても同様の結果となった。
コメント
 本試験結果を解釈する場合、UKで実施された試験であることに注意を払う必要がある (後治療について演者に質問したところ、本試験の治療後はBSCとなる患者も多かったとのことである)。前治療の多くは5-FU系薬 + L-OHPでの治療が行われていたが、UKではBevacizumabが承認されていないため、Bevacizumabの使用頻度は各群で1%にすぎなかった。
 本試験ではCPT-11にPanitumumabを併用することによって、明らかにRRの上乗せならびにPFSの延長が認められたが、主要評価項目であるOSにおけるbenefitを示すことができなかった。この結果を見て、EPIC試験1)を思い出される先生も多いと思われる。しかしながら、両試験における抗EGFR抗体薬のクロスオーバー率に大きな違いがある。EPIC試験におけるクロスオーバー率が47%と高いのに比べて、本試験では演者によればわずか5%のクロスオーバー率にすぎなかったという (これにはUKにおける保険償還システムが影響していることが考えられる)。その違いが生存曲線にも反映されており、EPIC試験の生存曲線は両群ほぼ重なっていたのに対し、本試験における生存曲線は治療開始12ヵ月以降においてCPT-11 + Panitumumab群で良好なカーブとなっている。その理由について演者に質問したがわからないとの返事であったが、その解釈のヒントの1つとしてCRYSTAL試験のITT解析の生存曲線を思い出してほしい2)。これはまさしくクロスオーバーのない場合の抗EGFR抗体薬に特徴的なカーブであり、一部のpopulationにsuper responderがいることが予想される。
 今回の解析でも治療選択におけるnegative predictive markerはいくつか示唆されているが、真のpositive predictive markerについて新たな発見がないのが残念である。
(レポート: 松阪 諭 監修・コメント: 瀧内 比呂也)
Reference
1) Sobrero AF, et al.: J Clin Oncol. 26(14): 2311-2319, 2008 [PubMed][論文紹介]
2) Van Cutsem E, et al.: N Engl J Med. 360(14): 1408-1417, 2009 [PubMed]
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