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GI cancer-net 海外学会速報レポート 2015年6月 シカゴ

背景と目的

 一般に臨床試験では、有効性 (生存期間) および安全性 (有害事象) の比較解析は独立して行われるが、有害事象は生存ベネフィットに影響を与えると考えられる。生存に関する質的調整解析であるQ-TWiST (quality-adjusted time without symptoms or toxicity) は、増悪、生存、毒性などを1つの指標に組み入れて統合した臨床的ベネフィットの評価法の1つである1-7)。本評価法を用いてPRIME試験におけるRAS 野生型患者を対象に、Panitumumab + FOLFOX療法とFOLFOX単独療法の臨床的ベネフィットを比較した。

対象と方法

 切除不能進行・再発大腸癌の1st-lineとしてのFOLFOX療法 vs. Panitumumab + FOLFOX療法の第III相試験 (PRIME試験) のデータ (2013年1月) を解析対象とした。各群48ヵ月時点までの生存曲線を下記の3つの健康状態に分類した。
・TOX (toxicity) : 病勢進行前にgrade 3/4の有害事象が認められた期間
・TWiST (time without symptoms or toxicity) : 病勢進行前にgrade 3/4の有害事象がない期間
 TWiST平均値 = PFS平均値 - TOX平均値
・REL (relapse) : 病勢進行から死亡または追跡終了までの期間
 REL平均値 = OS平均値 - PFS平均値
  Q-TWiSTは3つの健康状態においてEQ-5Dで算出した平均効用値 (UTOX, UTWiST, UREL) を用いて、以下より算出した。
  Q-TWiST = (UTOX × TOX) + (UTWiST × TWiST) + (UREL × REL)

結果

 PRIME試験のITT集団1,183例のうち、RAS 野生型患者512例 (Panitumumab + FOLFOX群259例、FOLFOX群253例) をQ-TWiST解析の対象とした。病勢進行前に観察された有害事象がない期間は最長32.6ヵ月であり、PFS 48ヵ月以上は8例、OS 48ヵ月以上は80例に認められた。PRIME試験のQOL調査票から算出された3つの健康状態における平均効用値は、以下のとおりであった (表1)。

表1

 TOXはPanitumumab + FOLFOX群2.65ヵ月、FOLFOX群1.05ヵ月 (差1.60ヵ月, p=0.0003)、TWiSTはPanitumumab + FOLFOX群12.86ヵ月、FOLFOX群10.96ヵ月 (差1.90ヵ月, p=0.0611) であり、いずれもPanitumumab + FOLFOX群において延長する傾向があった。 Q-TWiSTはPanitumumab + FOLFOX群20.50ヵ月、FOLFOX群18.17ヵ月 (差2.33ヵ月, p=0.0249) であり、有意にPanitumumab + FOLFOX群で良好であった (表2)。

表2

 は、治療群特異的な生存率曲線 (Kaplan-Meier法) である。


 なお、TOXを病勢進行前にgrade 2以上の有害事象が認められた期間と定義して解析を行っても、Q-TWiSTはPanitumumab + FOLFOX群で良好であった (20.56ヵ月 vs. 18.16ヵ月, 差2.40ヵ月, p=0.0272)。

結論

 Q-TWiST解析において、RAS 野生型の切除不能進行・再発大腸癌に対するFOLFOX + Panitumumab の併用療法はFOLFOX単独療法と比較して質的調整生存期間を有意に延長した。

コメント

 PRIME試験の事後解析報告である。このような効用値を用いた評価報告は、散見されるようになってきている。本来、医療効果は患者の満足度で評価されるべきではあるが、集団としての普遍的な満足度の評価方法は依然見出せていない。癌領域では、生存期間とQOLの評価を真の評価項目とすることが共通認識になっているが、将来よりよい指標が見つけ出されるかもしれない。本報告のような評価手段は、まだ臨床試験の主要評価項目とするには十分に確立していないが、さまざまな示唆は与えてくれる。本報告では、RAS 野生型大腸癌患者に対して、Panitumumab併用による生存期間の延長が検証されるなか、上乗せされる副作用に悩む期間は長くなるものの、症状や副作用から解放された期間がそれ以上に延長していた。Panitumumab併用の意義を生存延長以外の観点から示唆したことになり、治療選択の妥当性を後押ししている。抗EGFR抗体薬の場合、スキンケアによる副作用防止を期待できることから、実臨床ではさらなる効用の改善も期待できる。

(レポート:谷口 浩也 監修・コメント:佐藤 温)

Reference
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