今後の試験の方向性
分子標的製剤の開発が進んでいますが、次の段階に向けて何か試験を計画されていますか。
まず、すべての新薬を検討しなければなりません。結腸直腸癌ではPTK/ZKがbevacizumabやerlotinibの競合薬剤として期待されていましたが、CONFIRM 1(ASCO2005 #LBA3)試験およびCONFIRM 2試験の結果は期待を裏切るものでした。理論的にはよいと思われても、臨床でOSを延長できるかどうかは別です。新薬の有用性を見極めるのは非常に興味深いことですが、今後も検討は慎重に進めていかなければなりません。
OPTIMOX 3試験でcetuximabを使わずにerlotinibを使うのはなぜですか。CetuximabはBOND試験などで有用性が報告されています。
それは経口薬を使うことにより、cetuximabを使うよりも簡便なregimenを検討したかったからです。また、この試験を計画した当時、bevacizumabの有用性はまだ報告されていませんでした。そこで、最初はmFOLFOX 7やXELOX 2にerlotinibをオン/オフするだけの予定でした。しかし、その後bevacizumabの有用性がわかったため、すべての群にbevacizumabを加えることになったのです。その結果、bevacizumabでVEGF(vascular endothelial growth factor)、erlotinibでEGFR(epidermal growth factor receptor)と、2つの分子を標的にすることになりました。
今後の試験の方向性としてはどのようなことをお考えでしょうか。
もちろん新薬に関しての検討は続けていかなければならないのですが、“new drug”だけではなく“new strategy”や“new idea”の開発を進めることも重要です。GERCORの理念もそこにあり、新薬も含めて単にある薬剤と薬剤を併用するだけではなく、薬剤同士の関連を考慮した治療の工夫をしていかなければなりません。また、例えば乳癌にはたくさんの治療薬がある反面、これといったsecond line治療、third line治療がなく、選択に困ってしまいます。結腸直腸癌でもそうした事態になりかねませんので、一歩一歩、着実に試験を重ねていくことが大事だと思います。
治療目的・対象の明確化
LV/5-FU、L-OHP、CPT-11の同時併用、あるいはこれにbevacizumabやerlotinibも加えたregimenなどはいかがですか。
根治が期待できない場合、私たちは慢性疾患に対処しているということをもう一度認識しなければなりません。もし、すべての有効な薬剤をfirst lineで一度に使ってしまったら、次に提供できる治療がなくなってしまいます。ですから、私はそうした一斉治療よりもmultilineの順次治療がよいと思います。手術可能症例や治療応答性の高いgood responderならば、一斉治療もよいかもしれません。しかし、その他の患者さんにおいてはmultilineの治療で生存期間を少しでも長くすることこそ重要なのです。
先生方が最近論文を発表されたFIREFOX試験では、5-FU抵抗性の進行結腸直腸癌のsecond line治療として、4サイクルのFOLFOX 6と4サイクルのFOLFIRIの交互実施を検討されています(Hebbar et al.: Cancer Invest, 24: 154-159, 2006)。そして、その結果が良好だったことから、次に切除可能な肝転移を有する進行結腸直腸癌を対象として、肝転移の切除後または切除前後に6サイクルのFOLFOX 7と6サイクルのFOLFIRIを順次実施する試験を実施されました。
これは転移巣の手術可能な患者さんをターゲットとしてFOLFOXとFOLFIRIの両方を施行しようという試みです。なかには手術と有効な治療薬をすべて投与することでほとんど根治できる患者さんもいらっしゃいます。
GERCORはオープンな組織
では、最後に先生が所属されるワーキンググループGERCORについて簡単に教えてください。
GERCORは癌治療の臨床試験を行いたいが時間がないという多くの医師が持つ現実的問題を解決しようと、私が勤めるSaint-Antoine病院のde Gramont教授がイニシアチブを取って結成されたグループです。多くの医師は診療に追われ、理論を構築したり、臨床試験を組織したりする時間がありません。興味深い考えを持っていても、それを実際に検証するには関係当局への許可申請などだけでも多大な時間を費やされます。
そこで、GERCORではメンバーから試験プロトコルの提案を受け、その良否を委員会で議論し、実施意義が高いと判断されればプロジェクトを立ち上げ、その承認を受けた後、行政機関や企業から資金を集め、試験を組織します。第III相大規模試験を実施するときなどはフランス国内にとどまらず国際的な連携も図ります。GERCORは硬直的な組織ではなく、プロジェクトに応じて連携を図り、また、GERCOR以外のプロジェクトに対しても、有意義と見ればメンバーに参加を促すオープンな組織なのです。私が現在カナダ・ケベック州に滞在しているのは、この地域とGERCORの連携をさらに深めるためでもあります。今年の8月まではモントリオールに滞在していますが、その後はまたパリのSaint-Antoine病院へ戻ります。
本日はTournigand先生の来日直後のお時間をいただいてインタビューさせていただきました。今回が初来日ということですが、今後もたびたび来日していただけるのはうれしい限りです。先生のご講演や先生との交流で日本の臨床腫瘍医も大いに刺激を受けることでしょう。本日は、本当にありがとうございました。
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