坂本(以下太字):パリに拠点を置き、癌治療の臨床研究を推進するワーキンググループGroupe Coopérateur Multidisciplinaire en Oncologie(GERCOR)の主要メンバーのお一人、Christophe Tournigand先生が来日されました。Tournigand先生は、進行結腸直腸癌のfirst line・second line治療として、FOLFIRI→FOLFOX6とFOLFOX6→FOLFIRIを比較した試験などの主任研究者として有名です。「一歩一歩、確実に進むことが肝心だ」と話すTournigand先生に、同試験やOPTIMOX試験の背景、および今後の展望などをお聞きしました。
Second line治療の重要性
まず、進行結腸直腸癌に対するFOLFIRIFOLFOX 6とFOLFOX 6→FOLFIRIを比較した試験(Tournigand et al.: J Clin Oncol, 22: 229-237, 2004)についてお聞かせください。FOLFOXとFOLFIRIの比較、あるいはFOLFOXとIFLの比較などが主に議論されていた当時、先生はこれらをfirst line・second lineとして順次施行する試験を開始されました。その狙いは何だったのでしょうか。
当時は、治療選択肢が5-FUあるいはLV/5-FUだけだった時代を経て、L-OHPやCPT-11の有用性が明らかになりつつありました。そこで私たちは、患者さんにはこの両方を試してみる価値があるのではないかと考えたのです。
それまでの試験では通常first lineを比較して、その後の治療は患者さんや主治医の判断次第でした。しかし、この試験では、私の知る限り初めてfirst lineとsecond lineを決めて治療したわけです。もう一点私たちがユニークであったのは、主要エンドポイントを無作為化からsecond line治療後の進行までの期間(second PFS)としたことです。つまり、first line治療の比較ということだけではなく、second line治療も含めてトータルな治療を比較する試験だったのです。
その結果、FOLFOX 6とFOLFIRIの投与順序よりも、むしろsecond line治療をきちんと行うことの重要性がはっきりしました。
Regimenを変更するポイント
first line治療からsecond line治療へとregimenを変更するポイントはどのようにお決めになったのですか。論文によると、first line治療の毒性による中止はFOLFIRIで6例(6%)、FOLFOX 6で12例(11%)に過ぎません。毒性によるtreatment failureよりも、病変の進行が主なregimen変更のタイミングだったのでしょうか。
そのとおりです。ただし、私たちが毒性によるtreatment failureと判断したのは、そのregimenのすべての治療を中止しなければならなかった場合です。Treatment failureとなるようなFOLFOXの毒性は主に神経障害ですが、そのためにL-OHPだけを休止してLV/5-FUを続けた場合は、treatment failureとみなしませんでした。
そうしたfirst line治療のregimenを厳密には維持できていない症例も、解析対象から除外してはいないのですね。
はい、していません。このような試験の解析で難しいのは、主としてfirst line治療後に転移巣の切除手術を受けているような患者さんもいらっしゃるということです。これらの患者さんのほとんどはその後の解析対象期間において再発がなく、非常に長いOSを達成しました。試験結果の解析に必要な数のイベントが生じた時点をcut off dateとして解析を行いましたが、これらの患者さんはその時点でもまだfirst line治療中とみなされたことになります。
データがすべて――FOLFOXとFOLFIRIのどちらが先か?
この試験の結果から私たちが受け取った1つのメッセージは、FOLFOX 6とFOLFIRIの一方をfirst line、他方をsecond lineとして治療すれば、どちらが先であろうとsecond PFSやOSなどに有意差はないということでした。しかし、先生の印象として、どちらかがよりよいだろうという感触はありますか。
いいえ、それを言うことはできません。データの示す結果がすべてであり、私たちはデータに忠実でなければなりません。おっしゃるとおり、FOLFOX 6とFOLFIRIのどちらを先にしようと、2 lines治療の結果、OSに有意差はありませんでした。私たちはこの結果をそのまま受け止めて、そのうえで一歩一歩、検証を進めていかなければなりません。この試験で最も重要なメッセージは、first line治療だけでなくsecond line治療も行う2 lines治療を実施しなければならないということなのです。
LV/5-FU、L-OHP、CPT-11という3剤を使って、ということですね。
そうですね。 FOLFOXとFOLFIRIのどちらが先かという順序に関しては、まず、L-OHPの毒性をいかに管理するかということを明らかにしなければならないでしょう。OPTIMOX試験の結果からいえるのは、L-OHPによる神経障害を減少させるために、おそらくL-OHPの投与期間を短くする必要があるということです。そのためにL-OHPをいったん休止して、その後、再開するという方法があります。私たちはこのL-OHPの“reintroduction”の概念をOPTIMOX試験(ASCO2004 #3525)で証明しました。このことがFOLFOXをfirst lineに持ってくる1つの根拠になりえます。
一方、FOLFIRIにおいては、CPT-11を休止・再開することの有用性や安全性についてデータがありません。おそらくL-OHPと同じようなことがいえるのではないかと思いますが、もしそうであれば、FOLFIRIをfirst lineにして、次にFOLFOX、さらにその後FOLFIRIを再開するというような方法も可能でしょう。しかし、これはまだわかりません。
現在わかっているのはL-OHPをfirst lineに持ってきて、それをいったん休止後に再開することの意義ですが、だからといってFOLFIRIをfirst lineにすることが誤りということにはなりませんし、何より2 lines治療で比較した結果、どちらが先でも良好なOSを達成したのです。
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