●肝機能異常
吉野:続いて、小松先生から手足症候群以外の毒性のコントロールについてお願いします。
小松:Regorafenibの有害事象では、発現頻度の高さからも、最も問題になるのは手足症候群ですが、下痢、食欲減退、倦怠感なども高頻度に発現しており、添付文書には「重大な副作用」として、さまざまな皮膚症状、肝不全、出血、高血圧などが記載されています。
Regorafenibの第III相試験では肝機能異常が問題になり、肝不全による日本人の死亡例が大腸癌とGISTで1例ずつ報告されています21)。
大腸癌の日本人死亡例は60歳の肝転移例で、1サイクル目と2サイクル目の開始時は、AST、ALT、ビリルビン値いずれもほとんど異常はありませんでした。しかし、2サイクル開始2週間後 (43日目) に検査したところ、AST 1,311 IU/L、ALT 1,333 IU/L、総ビリルビン値8.9mg/dLと劇症肝炎に近い状況になっており、Regorafenibを中止したうえでさまざまな治療を行いましたが、1ヵ月後に死亡されました。治療前から総ビリルビン値が1.4mg/dLでしたが、体質性黄疸であれば普通にみられることで、現在のところ、それ以外に問題となる背景因子は見当たりません。2コース目開始時の血液データからは投与中止の判断がつかないため、対応が難しい状況です。
GISTの日本人死亡例は40歳代の男性で胆石症を併存しており、多くの薬剤を併用しています。1サイクル目は正常値で、15日目にgrade 3の皮疹のため休薬しました。休薬後の血液検査でもAST 119 IU/L、ALT 61 IU/Lに上昇していた程度だったため120mg/dayに減量して再開したところ、再開後13日目にはAST 2,435 IU/L、ALT 1,296 IU/L、総ビリルビン値20.8mg/dLと大きく上昇していました。すぐに入院してパルス療法や血漿交換など、さまざまな治療を施しましたが、2週間後に死亡されました。
これらの結果をもって、肝機能検査値異常の用量調節基準が出されました (表4)。ASTまたはALTが正常基準値上限の5倍以下の場合は投与を継続しますが、正常基準値上限の3倍未満または投与前値に回復するまで、頻回に肝機能検査を行います。また、ASTまたはALTが5〜20倍 (grade 2)になると休薬し、正常基準値上限の3倍未満または投与前値に回復すれば40mg減量して再開。同様のケースが2回起こったら、投与を中止します。
なお、ジルベール症候群の患者においてALTやASTが上昇した場合は、ビリルビン値の基準によらず、上記の基準に従うことを勧めています。
吉野:これらの死亡例は、防ぐことが非常に難しい症例です。偶然その施設で起こっただけで、誰にでも起こり得る事象と考えておいたほうがいいですね。敢えて対策を挙げれば、いずれも再開2週間後に異常値を示しているので、1週間後に検査することでしょうか。ただ、この後にプロトコールが変更になり、毎週経過を診ることになりました。毎週検査をすることでその後の死亡例は出なかったようですが、少数例の検討であり、肝不全での死亡が防げるかはまだわかっていません。
●高血圧
小松:高血圧も日本人では特に多い副作用の1つです。CORRECT試験の日本人患者において、全gradeの高血圧は60.0% (全対象27.8%)、grade 3も10.8% (同7.2%) に発現しています。用量調節基準には、grade 2 (無症候性) の場合はRegorafenibの投与を継続しながら降圧薬を投与し、それでも血圧コントロールができない場合は40mg減量するよう記載されています (表5)。また、grade 2 (症候性) の場合は、症状が消失するまでRegorafenibを休薬し、降圧薬による治療を行います。投与再開後、降圧薬で血圧がコントロールできない場合は、Regorafenibを40mg減量します。つまり、必要に応じて減量、降圧薬の併用を行って管理することが大切です。
降圧薬の種類については、私自身はARBを早い段階から使用します。Regorafenibは尿蛋白の副作用も報告されているので、尿蛋白抑制作用のあるARBを先行させ、それでコントロールできないときにはCa拮抗薬を上乗せしています。
●倦怠感
小松:倦怠感に対しては治療法がないため、Regorafenibを減量する必要があります。Grade 3以上の倦怠感ではgrade 2以下になるまで休薬し、場合によっては40mg減量して再開します。ただ、倦怠感はSunitinibよりも弱い印象があります。
QOLの評価も行っていますが、Regorafenib群とプラセボ群で有意差はありませんでした。ですから、副作用が強く出る人は少なく、多くは耐えられる範囲内です。起こりうる副作用について、患者さんにあらかじめ伝えておくことも大切です。
吉野:Sunitinibの倦怠感は甲状腺機能異常との相関がありますが、Regorafenibはどうですか。
小松:Sunitinibより甲状腺機能異常は弱いかもしれませんが、可能性はありますね。
西田:甲状腺機能低下や倦怠感は、特に長期投与になったときは問題ですね。
山崎 (健):倦怠感があって、甲状腺機能も低下している場合はRegorafenibを継続投与しますか。
小松:TSHが急激に上昇する場合は、早い段階から甲状腺剤を投与してマネジメントしています。