消化器癌治療の広場

第16回座談会 Regorafenib承認を受けて 2013年5月13日 ストリングスホテル東京インターコンチネンタルにて

5.Regorafenibの有害事象とその対策−手足症候群

●手足症候群のコントロール

山崎 (直):続いて、RegorafenibによるHFSの代表的な症例を紹介します。
 60歳代の女性で、多発性の肝・肺転移を有するS状結腸癌の方です。標準療法に不応になったためRegorafenib治療を開始したところ、投与14日目に手足の痛みが出現し、疼痛のため歩行困難となったため、HFS grade 3診断として休薬しました。この時点で加重部に発赤がみられ、角化を起こし始めています (図9-1)。視診上の皮膚症状はむしろ休薬後に目立ってきて、休薬5日目には強い角化を起こし、膿疱のような状態に変化しましたが、自覚症状としての痛みはかえって軽減しgrade 2になりました (図9-2)。休薬16日目には、膿疱様の皮膚が乾燥して周囲皮膚との色調の差が目立ちますが、痛みはさらに軽くなりgrade 1となったため (図9-3)、翌日には、120mg/dayに減量してRegorafenibを再開しました。減量による再開後13日目ではgrade 1を保っており、強い角化を起こした皮膚は脱落しています (図9-4)。
 しかし、再開後16日目に再び痛みが増し、17日目に歩行困難のため車椅子で緊急受診されました。この時のHFSは再びgrade 3であると判断し、再休薬となりました (図9-5)。特に、角化し始めている部分の痛みが強いようです。再休薬4日目には痛みのピークは過ぎたようですが、まだ車椅子のためgrade 3であり、外用の保湿剤やステロイド以外に内服の消炎鎮痛剤を使用しています (図9-6)。再休薬12日目の写真では、角質が古くなりコントラストが強まりましたが、皮膚症状としてはピークを過ぎ、自覚症状も軽くなりgrade 2となりました (図9-7)。
 なお、2サイクル目の再休薬4日目時点 (図9-6) において、手の所見は軽く、自覚症状も痛痒い程度でした。足は歩行により大きな負担がかかるので、手足の症状に差があると推測します。実際、手でも「利き腕の3本指」に症状が発現することが多いですが、全般的に手の症状は軽いです。

馬場:1サイクル目 (図9-1) と2サイクル目 (図9-5) では、同じgrade 3でも症状発現部位の分布が少し違いますね。

山崎 (直):2サイクル目のほうが範囲は広いです。1サイクル目に受けた皮膚障害が残っているためと考えます。また、2サイクル目は減量したため、発現時期は少し遅れていたように思います。

室:この後、治療を続けるとしたら、さらに減量されますか。

吉野:CORRECT試験、GRID試験の減量基準では80mgまでとされていました。したがって、適切に減量していくことになると考えます。

山崎 (直):症状が強くなった場合は早めに休薬し、しっかりと減量して再開することが、結果的に治療継続を可能にすると感じています。また、手と足に負担をかけない生活を心掛けるよう、最初に指導することが重要です。

吉野:休薬後に角化した部分が脱落していますが (図9-4)、剥がしていいか聞かれた場合はどうしますか。

山崎 (直):角質自体は皮膚が死んでいるので剥がしてもいいのですが、古い角質と健康な表皮との境界は剥がすと痛いです。この境界は保湿剤などを使って徐々に処置したほうがいいと思います。

山崎 (健):角質には尿素軟膏などを塗布しているのですが、一度障害を起こして角質化した場合はしみるようです。

山崎 (直):HFSの予防からgrade 1までは、保湿剤の中でも尿素軟膏が使われることが多いと思いますが、尿素軟膏は皮膚に炎症が起こっている場合は刺激がありしみるので、赤みや痛みが出た時点で外用ステロイド (very strongクラス程度) を併用し、症状に応じて尿素軟膏から他の保湿剤に切り替えます。なお、保湿剤の変更についてはヘパリン類似物質よりもワセリンのほうがいいと思います。

吉野:予防段階では尿素軟膏ということでしょうか。

山ア(直)先生

山崎 (直):抗EGFR抗体薬などの皮膚乾燥にはヘパリン類似物質が使用されますが、キナーゼ阻害剤のHFSの予防には、角質軟化作用を優先して尿素軟膏が第一選択とされることが多いようです。

吉野:角質を軽石でこすってしまう人がいますが、先生はどう指導されますか。

山崎 (直):最近は治療前に角化性の皮膚病変があった場合は、物理的に適度に削って処置することが推奨されています。ただ、軽石など自己流の方法でこすると刺激が強すぎるので、やめたほうがいいと思います。また、胼胝 (タコ) などに絆創膏タイプの角質軟化剤を貼る方もいらっしゃいますが、角化の強い部分を中心に大きく貼りすぎると周囲の皮膚まで柔らかくなったり、貼付部位の固定が甘いと最も柔らかくしたいポイントからずれて、正常な皮膚が柔らかくなりすぎ、かえって痛みの出ることも多いです。基本的に患者さんの自己処置はあまり勧められません。

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