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緒言 / 再発形式と頻度 /
QOLと再発巣治療 / まとめ |
緒言 |
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大腸癌では術前診断能と手術手技の進歩により手術治療成績が向上してきた。しかし、肝、肺転移を主とする血行性再発と、直腸癌における局所(骨盤内)及び吻合部再発は防ぎきれていない。最近では患者の生活の質(QOL)を重視する治療方針が話題となっているが、QOLの観点からみると、特に局所(骨盤内)再発は憂慮すべき再発である。本稿では千葉県がんセンターにおける大腸癌再発例の状況を概説した上で、患者のQOLを主眼に大腸癌再発をどう考えるか述べてみたい。 |
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再発形式と頻度 |
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1988年1月から1999年12月までに千葉県がんセンターでCur B以上の根治性で切除された大腸癌症例709症例のうち再発例は132例(18.6%)である。再発形式と頻度を表1にまとめた。再発形式で最も多いのは血行性転移である。局所再発及び吻合部再発はほとんどが直腸癌であり、この再発形式の91%を占めている。再発治療は基本的に手術が行われているが、根治困難例が多いのが現状である。骨盤内局所再発例は再発巣切除が行われても全例が癌死しており、平均再発後生存期間は312日である。吻合部再発例は全例直腸癌で再発巣切除を含む根治手術が行われた。平均生存期間は1045日で予後においては骨盤内局所再発に比べ良いと言えるが、患者のQOLは損なわれる危険性がある。
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表1.大腸癌再発形式と頻度 |
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大腸癌
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709例 |
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直腸癌 |
273例 |
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再発例 |
132例 |
(18.6%) |
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71例 |
(26%) |
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肝転移再発 |
50例 |
(7.1%) |
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15例 |
(5.5%) |
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肺転移再発 |
19例 |
(2.7%) |
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15例 |
(5.5%) |
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局所再発 |
22例 |
(3.1%) |
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19例 |
(7.0%) |
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吻合部再発 |
12例 |
(1.7%) |
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12例 |
(4.4%) |
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腹膜再発 |
20例 |
(2.8%) |
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5例 |
(1.8%) |
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リンパ節再発 |
1例 |
(0.1%) |
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0例 |
(0%) |
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骨転移再発 |
3例 |
(0.4%) |
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2例 |
(0.7%) |
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他臓器再発 |
3例 |
(0.4%) |
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1例 |
(0.4%) |
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不明 |
2例 |
(0.3%) |
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2例 |
(0.7%) |
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QOLと再発巣治療 |
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肝転移;
手術によるQOLの低下は少なく、また切除可能症例の予後も望める。 肺転移;
片側再発例のみが以前は手術されていたが、最近では局所の根治性がある症例では両側肺転移再発例も切除の対象となっている。部分切除を基本に行われるため、QOLの低下は少ない。
局所(骨盤内)再発;
直腸癌局所再発例19例(直腸癌症例中7.0%)では再発巣切除を行った症例は7例にしか満たない。再発巣切除例の再発後における平均総入院日数は120日に及び、特に骨盤死腔炎などの感染巣を合併した症例では退院が長引く傾向にある。非切除例を含めた局所再発例全体で人工肛門を造設した症例は5例、また何らかの尿路変更や持続導尿を強いられた症例は10例であった。切除以外の治療方針として放射線治療も行っているが、人工肛門の造設は不可欠であり、また根治治療は難しい。しかし放射線療法による疼痛のコントロールは比較的良好で持続的な症例が多く、この期間では社会復帰した症例もある。
4回以上再入院した症例は7例あり、退院後も様々な愁訴に悩んでいる。切除例でも骨盤内再々発例が多く、このための疼痛と下肢の浮腫、しびれが多い。特に疼痛のコントロールは経口鎮痛剤だけでは難しく、麻酔薬(lidocaine、ketamineなど)の持続微量静注を要する例があり、著しくQOLを低下させる。仙骨合併切除による歩行障害も同様である。QOLを深く考えさせられた2例を提示する。 |
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症例1:35歳男性。
下部直腸癌の診断で直腸低位前方切除術施行。1年後下肢のしびれと脱力を訴えた。MRIで仙骨に腫瘍を認め(図1)、骨盤内局所再発と診断し直腸仙骨合併切除(S1下端以下)を施行した(図2)。病理診断にてew(+)であったが、家族の強い希望により患者には診断結果は伏せられた。尿路変更は拒否したため術後持続導尿となり、かつ起立障害、歩行障害を生じた。病状説明に対する患者の不満感が強いままリハビリによる歩行訓練を行うが、腫瘍再燃に伴うMRSA性骨盤死腔炎を併発し腹臥位のままの入院が余儀なくされ、術後230日後に腫瘍死した。 |
図1. 術後1年のMRI像(左) 図2. 直腸仙骨合併切除後のX線像(右) |
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症例2:71歳女性。
下部直腸癌の診断で他院にて直腸低位前方切除術施行。5年後下肢のしびれを訴え、MRIで仙骨局所再発(図3)と診断された。放射線治療と人工肛門を造設され退院。病状説明を受け、9ヶ月間無病悩であった。現在疼痛はあるものの外来通院中。 |
図3. 術後5年のMRI像 |
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吻合部再発;
直腸癌吻合部再発例は12例(直腸癌症例中4.4%)あり、全例に再切除が行われ、経仙骨的局所切除例1例を除く11例は再発巣切除と人工肛門を造設された。また何らかの尿路変更や持続導尿を強いられた症例は6例あり、うち1例は尿道骨盤死腔に瘻孔が生じ著しくQOLを低下させた。骨盤死腔炎を併発した例は6例にも及び、再発後の平均総入院期間は感染巣を生じた症例では250日であった。再入院回数は4回以上の症例は7例にも及び特に尿路変更、持続導尿の症例では入院回数が多く、尿路系の愁訴が退院後も認められた。仙骨合併切除例は2例あり、1例はS2以下の合併切除で術後に歩行障害をきたした。
吻合部再発例は再切除により予後が期待できる例がある。しかし、術後の合併症や排尿障害、歩行障害などによるQOLの低下も認められ、拡大切除の方針はQOLの面から考慮すれば慎重にならざるを得ない。高位仙骨合併切除例では重い歩行障害と排尿障害を引き起こす。入院中はリハビリによるADLの改善に努めることができても、退院後寝たきりの状態に戻ってしまった例もあり、患者個人だけではなく家族の心労も思い図るべきである。
骨転移;
当科での初発骨転移再発症例は3例のみであるが、予後は悪く再発後生存期間は短かった。骨折を伴う症例と脊椎転移による神経麻痺例では著しいQOLの低下が認められる。
リンパ節転移;
拡大手術によりリンパ節再発は少ない。大動脈周囲リンパ節転移例では外来での放射線治療と経口鎮痛剤によりQOLの比較的良好な例もあるが、気管、食道の狭窄症状により入院を強いられ、在宅期間が短くなった例もある。
腹膜転移;
多くの症例が腸閉塞症状を呈し、入院を強いられる。しかし埋込み式中心静脈栄養の補助により在宅療養が可能になる症例では在宅期間も長く、この意味ではQOLの改善が見込まれる。QOLを長く保つためには家族の協力と訪問看護が必要となる。
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まとめ |
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大腸癌の再発例のQOLを中心に考えると、憂慮すべきは骨盤内局所再発と直腸癌吻合部再発であろう。再発巣切除後の予後は吻合部再発例では期待できる症例がある以上、積極的な切除の方針が第一に考えられる。しかしながら、骨盤内局所再々発では著しいQOLの低下を覚悟しなければならない。また、骨盤内再発例では拡大切除に伴うQOLの低下を考慮に入れて治療方針を決定すべきであり、外科医単独ではなく、放射線科医、整形外科医、泌尿器科医、麻酔科医さらに看護担当者との綿密な協議の上に行うべきと思われる。また、患者本人への病状説明は相互の信頼関係を保つために必須であり、患者が自身の病状を理解し、治療へ積極的に参加することはQOLの向上に必要である。 |
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2001年4月発行 |