論文紹介 | 毎月、世界的に権威あるジャーナルから、消化器癌のトピックスとなる文献を選択し、その要約とご監訳いただいたドクターのコメントを掲載しています。

11月
2015年

監修:東海中央病院 坂本純一(病院長)

切除不能進行・再発大腸癌のKRAS野生型高齢虚弱患者に対するPanitumumab単剤による1st-line治療と予後不良因子 : Spanish Cooperative Group for the Treatment of Digestive Tumoursによる第II相試験

Sastre J., et al. EJC, 2015 ; 51(11) : 1371-1380

 高齢の切除不能進行・再発大腸癌患者に対する治療には長年にわたって議論がある。現行のガイドラインでは高齢者と同じ状態の非高齢者に適用される多剤併用化学療法を推奨しているが、単剤に比べて併用療法は効果やQOLが低いこと、また毒性の問題から、虚弱な高齢患者は化学療法の適応とはならないと考えられる。ターゲット療法、とくに抗EGFR抗体は毒性が弱く、虚弱な患者に適する可能性がある。PanitumumabはKRAS野生型の切除不能進行・再発大腸癌に対して1st-line治療でも2nd-line治療でも単剤・併用とも有効であり、単剤であれば毒性も強くないことが示されている。そこで、切除不能進行・再発大腸癌のKRAS野生型高齢虚弱患者の1st-line治療において、Panitumumab単剤の有効性と安全性および予後因子を検討する第II相前向きオープンラベルシングルアーム試験を行った。
 対象は70歳以上、KRAS exon 2野生型、ECOG PS≦3、KPC(Kohne Prognostic Classification)で化学療法の対象とならないintermediate/high-risk患者および/または「虚弱」な手術不能進行・再発大腸癌患者である。虚弱は、Katz Indexの基本的ADLで依存が1項目以上、Charlson Indexで併存疾患が3つ以上+Lawton indexで手段的ADL依存が1項目以上、老年症候群が1つ以上のいずれか1つを満たすものとした。
 Panitumumab投与は6mg/kgを14日ごとに、病勢進行または忍容不能の副作用がみられるまで続けた。
 主要評価項目は6ヵ月時点でのPFS、副次評価項目は奏効率(CR+PR)、OS、病勢コントロール率(DCR;CR+PR+SD)、奏効までの期間、奏効期間、病勢進行までの期間、治療成功期間、安全性とした。
 適格患者は33例で、年齢中央値は81歳(73〜89歳)、85歳以上は5例(15.1%)、男性66.7%、KPC high-riskは45.4%であった。また、化学療法未施行の患者は除外した。全例が主に依存および/または併存症および/または老年症候群≧1に基づく「虚弱」であった。
 Panitumumabの投与期間中央値は14週で、追跡期間の中央値は7.1ヵ月である。追跡期間中に全例が病勢進行(66.7%)、死亡(6.1%)などにより投与を中止した。
 奏効率は9.1%(3例、すべてPR)、病勢コントロール率は63.6%(うちSD 54.6%)、PDは21.2%で、PR 3例の奏効までの期間中央値は3.1ヵ月、奏効期間中央値は4.7ヵ月、治療成功期間中央値は3.3ヵ月であった。
 6ヵ月PFSは36.4%(12例)、PFS中央値は4.3ヵ月で、12例中5例(全例の15.2%)は追跡終了時もPFSを維持していた。OS中央値は7.1ヵ月であった。
 試験中、28例(84.9%)が死亡した。主な死因は病勢進行(21例、75.0%)、疾患関連合併症(3例、10.7%)で、Panitumumab投与に関連する死亡はみられなかった。Gradeを問わず最も高頻度に発生した有害事象はざ瘡様発疹(72.7%)で、ほかに疲労(48.5%)、低マグネシウム血症(48.5%)、皮膚乾燥(30.3%)などが多かった。Grade 3の有害事象は、ざ瘡様発疹(15.2%)が最も高頻度で、他は3%以下であった。Grade 4/5の有害事象は認められなかった。
 次に、EGFRシグナル伝達経路に関連するバイオマーカー別にPanitumumabの有効性を評価した。評価可能21例中15例はKRASNRAS野生型であったが、6例にKRAS exon 3、4および/またはNRAS exon 2、3、4の変異が発見された。RAS野生型15例と変異6例で有効性を比較すると、奏効率は13.3% vs. 0%、6ヵ月PFSは53.3% vs. 0%(p<0.05)、OS中央値は12.3ヵ月 vs 7.3ヵ月であった。RAS以外に予後を予測する因子は認められなかった。
 進行大腸癌高齢患者の虚弱の定義に統一見解はなく、化学療法の適応性を判断するのは難しい。また、これらの患者に関する様々な臨床試験の結果を比較することも困難である。本試験で対象とした症例は、治療効果に対して重篤な副作用のリスクがあること、およびQOLが低いことから、化学療法の適応とならない患者群を代表すると考えられ、抗EGFR抗体単独療法が有望な治療オプションであるとされている。本試験では6ヵ月PFS 30%をPanitumumabの臨床効果ありと想定していたが、36.5%という結果が得られ、この目標は達成された。OS中央値7ヵ月はFOCUS2試験(フッ化ピリミジン系製剤、10〜11ヵ月)やAVEX試験(フッ化ピリミジン系製剤±Bevacizumab、16〜20ヵ月)に比べて劣っているが、これは本試験での患者選択が予後不良因子を有する例に限定されていることによると思われる。副作用は予想されたものであり、RAS野生型の切除不能進行・再発大腸癌高齢虚弱患者に対するPanitumumab単独療法は忍容性に優れ、臨床的な有用性を示した。したがって、本治療法は化学療法の適応とならない患者の治療オプションとして考慮されてよいであろう。

監訳者コメント

状態不良例に対する1st-line Panitumumab単剤投与は許容される

 本臨床試験は、通常の化学療法が適応とならない状態不良の症例に対して、Panitumumab単剤を1st-lineで投与することの有効性・安全性を検証した第II相試験である。
 通常Best Supportive Careでの生存期間中央値が6ヵ月程度と考えると、DCR 63.6%、6ヵ月PFS 36.4%が得られたことは、その有効性を示したものと言える。症例数が限られるが、RAS野生型に限ればPFS中央値 7.9ヵ月、OS中央値 12.3ヵ月とさらに良好な成績である。忍容性に関しては、Grade 4/5の有害事象は認めず、Panitumumabに関連したGrade 3の有害事象を12例(30.3%)に認め、重篤な有害事象2例(6.1%)に認めるも、その多くは皮疹であり忍容性は高いと考えられる。これらのことから、通常の化学療法が適応とならない状態不良の症例に対して、1st-lineとしてのPanitumumab単剤投与は治療オプションの一つと考えられる。

監訳・コメント:熊本大学医学部附属病院 消化器外科 坂本 快郎(特任助教)

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