論文紹介 | 毎月、世界的に権威あるジャーナルから、消化器癌のトピックスとなる文献を選択し、その要約とご監訳いただいたドクターのコメントを掲載しています。

5月
2015年

監修:東海中央病院 坂本純一(病院長)

最近の無作為化比較試験における切除不能進行・再発大腸癌1st-line治療のエンドポイントとしてのPFSとOSの相関関係を評価した患者の個別データに基づく解析 : Analysis and Research in Cancers of the Digestive System Databaseから得られた知見

Shi Q, et al. J Clin Oncol, 2015 ; 33(1) : 22

 癌領域の第III相試験における臨床的な主要評価項目はOSが標準であるが、1999年以前に発行された進行大腸癌の試験に基づくメタアナリシスではPFSが妥当な代替エンドポイントであることが示された。しかし、新たな作用機序による治療法、患者ケアの進歩、臨床試験実施上の進展などにより、これまで検証されてきた代替エンドポイントが果たして適切なのかどうかという問題が生じてきた。そこでAnalysis and Research in Cancers of the Digestive System(ARCAD)グループでは、大腸癌の新しい1st-line治療のエンドポイントとしてPFSにOSの代替性があるかどうかをメタアナリシスにて検討した。
 1997〜2006年に行われ、2003〜2012年に論文として発表された、切除不能進行・再発大腸癌の1st-line治療に関する無作為化比較試験をARCADデータベースから抽出し、試験群 vs. 対照群の比較でPFSの代替性を評価した。真のエンドポイントであるOSと代替エンドポイントであるPFSは個々の患者データに基づいて計算し、OSは無作為化から死亡まで(死因問わず)、PFSは無作為化から病勢進行または死亡(死因問わず)までとした。PFSの代替性は、試験レベル(ハザード比[HR]間の相関)および患者レベル(エンドポイント間の相関)の両方について検討した。OSとPFSの相関は各試験のHRの重み付き最小二乗回帰から算出したR2WLSまたはCopula法を用いて算出したR2Copulaによって評価した(数値が1に近いほど、相関が強いことを示す)。
 22試験、16,762例のデータを利用した。年齢中央値は62歳、男性は61.5%で、53.4%がベースライン時のECOG PSは 0であった。試験群と対照群の年齢、性別、ECOG PSは同等であった。データカットオフ時に生存していた患者の追跡期間中央値は17.6ヵ月、2年データは患者の77%、3年データは71%から得られた。
 まず患者レベルでPFSとOSの相関に関する評価を行った。死亡または病勢進行は6ヵ月時点で5,565例、12ヵ月時点で11,613例にみられた。このうち5,063例は12ヵ月時点で、9,240例は24ヵ月時点で死亡していた。PFSとOSの関係をみると、無作為化後6ヵ月以内に生じたPFS関連イベントはOS不良に強く関連していた(HR=3.87,95%CI:3.72-4.03,P<0.0001)。この関係は12ヵ月時点でも同様であった。
 生物学的薬剤が治療レジメンに含まれていなかった患者(非生物学的薬剤群)と含まれていた患者(生物学的薬剤群)を比べると、6ヵ月時点でのPFS関連イベントの有無による長期死亡リスクの違いは後者のほうが大きかった(非生物学的薬剤群のHR=3.51,95%CI:3.34-3.69,p<0.0001 vs. 生物学的薬剤群のHR=4.67,95%CI:4.63-5.00,p<0.0001)。しかし個々の患者については早期の病勢進行/死亡が長期OSの強力な予後因子でありながら、全追跡期間を考慮するとPFSとOSの患者レベルでの関連はごく軽微なものとなった。順位相関係数ρは全例で0.51、生物学的薬剤群0.55、非生物学的薬剤群0.47であった。
 時点を区切って治療群別にPFSとOSの関連を評価すると、6ヵ月PFSと12ヵ月OSの関係はR2WLS 0.69(95%CI 0.58-0.79)と強い傾向にあるが、6ヵ月PFSと18ヵ月OSの関係はR2WLS 0.51(95%CI 0.35-0.67)と少し弱くなった。PFSとOSの関連は生物学的薬剤が治療レジメンに含まれていた群(R2WLS 0.70)のほうが含まれていなかった群(R2WLS 0.59)に比べて強かった。
 最後に試験レベルでのPFSに対するHRとOSに対するHRの相関に関して評価した。PFSのHRとOSのHRの関係はR2WLS 0.54(95%CI 0.33-0.75)、R2Copula 0.46(0.24-0.68)と中程度であった。非劣性試験、治療戦術を比較した試験を除いた感度解析でも代替性は中程度のままであった。
 2000年以前に行われた切除不能進行・再発大腸癌の試験の解析では、OSとPFSの間に強い代替関係がみられた。近年の試験では初回病勢進行後の生存期間は初回病勢進行までの期間を超えてきているにもかかわらず、本解析でも引き続き患者レベルでも試験レベルでもOSとPFSとの間に中程度の正の相関がみられた。この関係性は生物学的薬剤使用の有無にかかわらず認められた。治療ライン数、2nd-line以降の治療のタイプなどによってOSを直接予測する能力は低下していると考えられるが、PFSにおいて臨床的にロバストな治療効果(HR<0.57程度の効果)が確認されるのであれば、OSに対してネガティブな結果となる可能性は低く、1st-line治療の優越性の試験に関して未だ適切なエンドポイントだと考えられる。とはいえ、複数の因子を組み合わせたような、より信頼のおけるエンドポイントが早急に求められていることに変わりはない。

監訳者コメント

PFSより良いOSの代替エンドポイント開発は可能か?

 大腸癌領域におけるPFSの代替性評価は、他癌種と比べても早くから行われている。Buyseらによる以前の評価では、治療効果の相関は0.99と高く、PFSでの効果からOSでの効果が十分に予測できることが知られてい
1。しかし、近年、PFSでは有意差があるにも関わらず、OSで有意差が消えるといった事例が散見され、PFSを代替エンドポイントとして利用してよいのか、再び議論されるようになってきた事が本研究の背景にある。結果としては、以前に比べてやはり関連性は薄まっていることが明らかになった。進行大腸癌の1st-line治療のPureな有効性を評価するためには、現状、PFSを利用せざるを得ないが、OSでの有意差につながるPFSでの効果がHRで0.57未満となっており、PFSをエンドポイントとしたとしてもOSにつながる優越性を示すためのハードルは高い。
 相関が薄まる理由としては、本当にOSへの寄与が薄い可能性も否定できないが、OSでの評価における検出力の不足、病勢進行後の生存期間(Survival Post Progression; SPP)の延長による相関の希薄化という統計的な問題も考えられる。PFS自体にも評価に伴う不確実性が存在することから、著者らは、予後に関連する因子を複合した、より予測性の高い代替エンドポイント開発の必要性を訴えており、統計学的にも興味深い。今後、ARCADデータベースに基づいて、そのような検討が行われていくのか引き続き注目したい。

1. Buyse M, Burzykowski T, Carroll K, et al. Progression-free survival is a surrogate for survival in advanced colorectal cancer. J Clin Oncol 2007;25:5218-24.

監訳・コメント:東京大学大学院 医学系研究科 生物統計学分野 大庭 幸治(准教授)

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