論文紹介 | 毎月、世界的に権威あるジャーナルから、消化器癌のトピックスとなる文献を選択し、その要約とご監訳いただいたドクターのコメントを掲載しています。

7月
2014年

監修:東海中央病院 坂本純一(病院長)

Oxaliplatinによる感覚神経障害予防のためのカルシウム+マグネシウム静注に関する第III相二重盲検プラセボ対照ランダム化比較試験(N08CB/Alliance)

Loprinzi C., et al. J Clin Oncol, 2014 ; 32 : 997-1005

 Oxaliplatin(L-OHP)関連の急性神経障害は大腸癌に対するFOLFOX療法の重大な問題であり、これに対しカルシウム+マグネシウム(CaMg)静注が広く普及している。しかしCaMg療法の神経障害予防効果に関してはレトロスペクティブな3試験では成否が分かれ、プロスペクティブなCONcePT試験とN04C7試験でも異なる結果が報告されている。CONcePT試験においてはCaMg群の抗腫瘍効果低下が指摘され、両試験とも早期終了に至った。さらにCONcePT試験ではその後のデータ解析から、CaMgを用いてもL-OHP関連の急性/慢性神経障害発症率は低下しないことが報告された。一方で、N04C7試験では急性神経障害については同様に発症低下がみられないものの、蓄積性の感覚神経障害発症率は治療後100日間で低下したと報告している。早期に終了したこの2つの試験の結果の差を鑑み、また臨床の場でのCaMg療法への期待を込めて、CaMgのL-OHP関連神経障害予防効果について検討する試験を行った。
 対象は治癒的切除術後補助療法として12コースのFOLFOXまたはmFOLFOX療法を受ける予定になっていた結腸癌患者である。すでに末梢神経障害を発症している患者、神経毒性を有する薬剤の投与歴のある患者は不適格とした。
 患者はL-OHP投与直前直後にCaMg(CM/CM群)またはプラセボを投与する群(P/P群)またはL-OHP投与直前にCaMgを、直後にプラセボを投与する群(CM/P群)にランダムに割り付けた。CaMgは各1gずつをD5W100mLにて希釈し30分で静注した。CaMgまたはプラセボに起因する臨床的に重要な有害事象がみられたら投与を中止し、その後はプロトコルに従い観察とした。神経障害の評価はEORTC QLQ-CIPN20を用いた患者自身の報告に基づいた。質問用紙にはFOLFOX各コースの実施前日と実施後5日間に記入してもらった。
 主要評価項目は、化学療法期間中のEORTC QLQ-CIPN20感覚神経障害スケールの曲線下面積(AUC)である。副次評価項目はCTCAEで評価したGrade 2以上の慢性感覚神経障害発症率とした。
 2010年6月〜2012年6月に353例をCM/CM群118例(年齢中央値57.0歳、男性48%)、P/P群119例(57.0歳、48%)、CM/P群116例(56.0歳、48%)に割り付けた。3群の背景因子に差はなかった。
 患者自身の報告によるL-OHP投与各コース後5日間の急性感覚神経障害は、冷感過敏、冷たい液体の飲みにくさ、筋痙攣には3群間の差はなく、喉の不快感のみCM/CM群で改善されていた(P=0.036)。
 EORTC QLQ-CIPN20感覚神経障害スケールのAUCは、3群間で有意差は認められなかった(CM/CM群vs P/P群 p=0.292、P/P群 vs CM/P群 p=0.727)。また、同じく運動神経障害スケール(p=0.251、p=0.294)、自律神経障害スケール(p=0.270、p=0.054)にも有意差はなかった。
 さらに医師がCTCAEを用いてGrade 2以上の神経障害発症までの期間を調べた結果でも、3群間に有意差はみられなかった(p=0.338)。Grade 2以上の神経障害発症率はCM/CM群43%、CM/P群46%、P/P群45%であり、L-OHP特異神経障害スケールを用いてもGrade 2以上の神経障害発症までの期間に有意差はなかった(p=0.972)。なお、薬剤投与コース数、減量、コース減、中止率は3群とも同様であった。
 神経障害以外のCaMg関連副作用としての下痢、便秘、胃痙攣、腸障害、その他臨床検査項目に関しても3群間に差はなかった。
 年齢、性別、病期、FOLFOXレジメンで評価したサブグループ解析では、どのサブグループにもベネフィットはみられなかった。
 このように、本試験ではCaMgによる神経障害予防効果はみられなかった。ここ数年、世界各地の腫瘍学者の約半数がCaMgを使用しているという調査報告があり、CaMgのL-OHP関連神経障害予防効果を認めているUpToDateもこれを支持している。しかし本試験のみならずCONcePT試験などの結果を考えれば、L-OHP関連神経障害予防のためにCaMg静注を実施するという推奨は覆るであろう。今後は、遺伝子学的に神経障害を起こすリスクのある患者を特定し、神経毒性を阻害する他の薬剤を見つける必要があるだろう。現在、セロトニン/ノルエピネフリン再取込み阻害薬によるL-OHP関連神経障害予防効果が試験中である。

監訳者コメント

L-OHPによる末梢神経障害の予防に対するCa/Mg投与の効果

 大腸癌に対するFOLFOX療法等のL-OHPをベースとした化学療法は有効性も高く、日常診療でも広く行われている。しかし、有害事象としてL-OHPによる末梢神経障害が急性障害だけでなく、長期間投与による蓄積毒性からも生じることが継続投与を難しくしている。また、神経障害は投与終了後も数年間持続することがあり、患者のQOL低下の一因ともなっている。このため、神経障害予防を目的としてこれまで様々な薬剤が検討されてきた。中でもCa/Mg投与が最有望視されていたが、今回行われた臨床試験ではCa/Mg投与による神経障害予防効果は認められなかった。現時点では、神経障害予防についてはstop-and-goにより一時中断するのが最も有効な手段であるが、今後は現在試験中であるセロトニン/ノルエピネフリン再取込み阻害薬や遺伝子学的なリスク因子の検索などに期待が持たれる。

監訳・コメント:公立学校共済組合近畿中央病院 外科 武元 浩新(医長)

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