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未治療の転移を有する大腸癌患者に対する1st-line治療としてのpanitumumab+infusional 5-FU/LV/oxaliplatin(FOLFOX4)併用とFOLFOX4単独の比較:第III相無作為化試験(PRIME)の結果

Randomized, phase III trial of panitumumab with infusional fluorouracil, leucovorin, and oxaliplatin (FOLFOX4) versus FOLFOX4 alone as first-line treatment in patients with previously untreated metastatic colorectal cancer: the PRIME study
Douillard JY, Siena S, Cassidy J, Tabernero J, Burkes R, Barugel M, Humblet Y, Bodoky G, Cunningham D, Jassem J, Rivera F, Kocákova I, Ruff P, Błasińska-Morawiec M,
Šmakal M, Canon JL, Rother M, Oliner KS, Wolf M, Gansert J.
J Clin Oncol. 2010; 28(28): 4697-4705

背景PanitumumabはEGFR(epidermal growth factor receptor:上皮細胞増殖因子受容体)を標的とした完全ヒト型モノクローナル抗体製剤であり、化学療法抵抗性もしくは未治療の転移を有する大腸癌患者に対して単独または既存の化学療法との併用により優れた効果を発揮することが示されている。一方、レトロスペクティブな解析から、panitumumabやcetuximabといった抗EGFR抗体製剤はKRAS遺伝子変異型患者において十分な治療効果が期待できないことが示唆されており、転移を有する大腸癌に対するpanitumumab単独療法の有用性を検討した中心的な第III相試験のレトロスペクティブ解析においても、臨床的な有益性はKRAS遺伝子野生型患者においてのみ得られることが明らかになっている。
 今回、未治療の治癒切除不能な転移を有する大腸癌患者に対する1st-line治療として、infusional 5-FU(fluorouracil)/LV(leucovorin)/oxaliplatin(FOLFOX4)にpanitumumabを上乗せした化学療法レジメンの有効性および安全性を多施設オープンラベル無作為化法にてプロスペクティブに検討する第III相試験PRIME(Panitumumab Randomized Trial in Combination With Chemotherapy for Metastatic Colorectal Cancer to Determine Efficacy)を計画し、KRAS遺伝子変異状態ごとに有用性を評価した。
対象と方法未治療の治癒切除不能な転移を有する大腸癌患者1,378例中、本試験の選択基準に合致した1,183例をpanitumumab(6mg/kg点滴静注[2週間間隔])+FOLFOX4(oxaliplatin 85mg/m2点滴静注、LV 200mg/m2点滴静注、5-FU 400mg/m2 bolus+600mg/m2持続静注[2週間間隔])併用またはFOLFOX4単独に無作為に割り付け、病勢進行が認められるまたは本剤による忍容性が得られなくなるまで継続した。
 評価項目は1次エンドポイントとして無増悪生存(PFS)を、2次エンドポイントとして全生存(OS)を評価した。なお、成績はKRAS遺伝子変異状態別に、ITTに基づくプロスペクティブ解析を実施した。
結果Panitumumab+FOLFOX4併用群、FOLFOX4単独群にそれぞれ593例および590例が割り付けられた。このうちKRAS遺伝子解析はそれぞれ546例および550例において可能で、KRAS遺伝子野生型患者はpanitumumab+FOLFOX4併用群で325例、FOLFOX4単独群で331例、KRAS遺伝子変異型患者はpanitumumab+FOLFOX4併用群で221例、FOLFOX4単独群で219例となった。なお、観察期間中央値はそれぞれ13.2ヵ月、12.5ヵ月、10.8ヵ月および12ヵ月であった。
 KRAS遺伝子野生型患者において、PFS期間中央値はpanitumumab+FOLFOX4併用群で9.6ヵ月、FOLFOX4単独群で8.0ヵ月となり、併用群での有意な改善が認められた(ハザード比[HR] 0.80[95%信頼区間(CI) 0.66〜0.97]、p=0.02)。また、OS期間中央値はそれぞれ23.9ヵ月および19.7ヵ月となり、有意差はないものの併用群で約4ヵ月の改善が示された(HR 0.83[95%CI 0.67〜1.02]、p=0.072)。なお、こうした併用群での優位性が認められる患者は、PFSに関しては肝転移あり、ECOG PS 0、年齢65歳未満、男性であり、OSに関しては肝転移あり、肝転移以外にも転移あり、転移部位3ヵ所以上、ECOG PS 0であることが判明した。
 一方、KRAS遺伝子変異型患者においては、panitumumab+FOLFOX4併用群でのPFSおよびOSの改善は認められなかった。
 KRAS遺伝子野生型患者において認められた有害事象のうち、治療との関連が否定できないgrade 3/4の副作用はpanitumumab+FOLFOX4併用群で40%、FOLFOX4単独群で36%であった。また、KRAS遺伝子変異型患者におけるgrade 3/4副作用の発現頻度はそれぞれ47%および29%であった。
結論FOLFOX4にpanitumumabを併用する化学療法レジメンは、未治療の転移を有する大腸癌のなかでもKRAS遺伝子野生型患者に対する1st-line治療として、優れたPFSの改善と良好な忍容性を示すことが証明された。したがって、抗EGFR抗体製剤の投与を考慮する場合はKRAS遺伝子検査が重要であることが示唆される。

監訳者コメント

 PRIME試験は、主要評価項目を無増悪生存期間とし、panitumumabとFOLFOX4併用療法の一次治療としての有効性を検証した第III相試験である。本試験では、KRAS遺伝子野生型患者の無増悪生存期間中央値はpanitumumab+FOLFOX4併用群で9.6ヵ月、FOLFOX4単独群で8.0ヵ月となり、併用群での有意な改善が認められ、positiveな結果であった。したがって、panitumumabのFOLFOX4との併用による有効性が検証された。全生存期間中央値では、23.9ヵ月および19.7ヵ月と有意差はないものの併用群で約4ヵ月の改善が示されていることから、2011年ASCOにおける全生存期間中央値のupdateが期待される。しかし、実地診療における1次治療の位置づけを得るためには、現在進行中のPEAK試験、1次治療としてKRAS遺伝子野生型患者を対象にしたFOLFOX+bevacizumabとFOLFOX+panitumumabとを直接比較した試験の結果が待たれるところである。

監訳・コメント:国立がん研究センター東病院 吉野 孝之(消化管内科・医長)

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