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結腸癌における5-FUベース術後補助化学療法の無効を予測するマーカーとしてのミスマッチ修復欠損

Defective mismatch repair as a predictive marker for lack of efficacy of fluorouracil-based adjuvant therapy in colon cancer
Sargent DJ, Marsoni S, Monges G, Thibodeau SN, Labianca R, Hamilton SR, French AJ, Kabat B, Foster NR, Torri V, Ribic C, Grothey A, Moore M, Zaniboni A, Seitz J-F, Sinicrope F, Gallinger S.
J Clin Oncol. 2010; 28(20): 3219-3226

背景大腸癌の発症の大部分は染色体不安定性(chromosomal instability)といった経路が関与しているが、約15%の腫瘍ではDNAミスマッチ修復(MMR)の欠損(dMMR)が認められる。こうしたdMMR腫瘍を有する大腸癌患者では、MMRの欠損がなくDNAミスマッチ修復良好(pMMR)な患者と比較し病期とは無関係により長い生存期間を認めることが、メタアナリシスを含む多くのレトロスペクティブ研究から明らかにされている。一方、MMRの役割を評価するため、いくつかの無作為化試験のデータを用いてDNA複製時に反復回数のエラーが生じやすいマイクロサテライト不安定性(MSI)を測定した結果、高頻度のMSI(MSI-H)を認める、すなわちdMMR腫瘍と考えられる患者ではマイクロサテライト安定性(MMS)もしくはpMMR腫瘍例と比較し5-FU(fluorouracil)ベースの術後補助化学療法による十分な有益性は得られないと報告されている。
 そこで今回、StageIIおよびIIIの結腸癌患者におけるMMRの状態から、5-FUベースの術後補助化学療法の有益性の予測が可能かどうかについて評価した。
対象と方法StageIIおよびIIIの結腸癌患者を対象に、手術単独に対する5-FUとLEV(levamisole)またはLV(leucovorin)併用による術後補助化学療法の有効性と安全性を比較した5つの無作為化試験(FFCD[Federation Francophone de la Cancerologie Digestive] 8802、NCCTG[North Central Cancer Treatment Group] 78-48-52、NCCTG 87-46-51、INT[Intergroup] 0035およびGIVIO[Gruppo Italiano Valutazione Interventi in Oncologia])より、組織標本が得られた457例を本検討における解析対象とした(補助化学療法施行群229例、手術単独群228例)。

 MMR状態はMSI検査または免疫組織化学(DNAミスマッチ修復関連タンパク質であるMLH1およびMSH2の発現低下の有無を確認)により測定した。dMMR腫瘍の定義は、MSI-HまたはMLH1あるいはMSH2の発現低下、pMMR腫瘍はMMS/低頻度MSI(MSI-L)またはMLH1およびMSH2の発現正常とした。

 1次エンドポイントは無増悪生存(DFS)、2次エンドポイントは全生存(OS)とし、MMR状態との関連性を評価した(観察期間中央値は6.1年)。

 さらに、StageIIおよびIII結腸癌患者570例における同様の検討データ(Ribic CM, et al. N Engl J Med 349(3): 247-257, 2003)を統合した計1,027例(補助化学療法施行群512例[dMMR 86例、pMMR 426例]、手術単独群515例[dMMR 79例、pMMR 436例])についても同様の解析を行った。
結果まず今回の5つの試験の解析では、457例中70例(15%)がdMMR腫瘍と判定された。これらはpMMR腫瘍例と比較しStageIIおよび低分化型腫瘍の占める割合が有意に高かった(p=0.0063およびp=0.0022)。

 dMMR腫瘍例において、5-FUベース化学療法によるDFSの改善は認められなかったが(多変量ハザード比[HR] 1.39[95%信頼区間(CI)0.46〜4.15]、p=0.56)、pMMR腫瘍例では有意な改善がみられ(多変量HR 0.67[95%CI 0.48〜0.93]、p=0.02)、StageIIIのpMMR腫瘍例で顕著であった(多変量HR 0.56[95%CI 0.37〜0.83]、p=0.004)。

 また、統合データの解析から、手術単独群ではdMMR腫瘍例でpMMR腫瘍例と比較し良好な予後が認められたが、補助化学療法施行群ではMMR状態が予後に影響を及ぼすことはなかった。なお、dMMR腫瘍例において5-FUベース化学療法によるDFSおよびOSの改善は認められず、Stage別にみてもDFS改善効果はなかった。一方、pMMR腫瘍例では5-FUベース化学療法によりDFSおよびOSの有意な改善が確認され、StageIIでのDFS改善は有意でなかったものの、StageIIIでの改善は顕著であった。
結論DNAミスマッチ修復欠損、すなわちdMMR腫瘍例では、5-FUベースの術後補助化学療法の有益性は得られないと考えられた。結腸癌患者、特にStageII症例においては、MMR状態の測定は有用であり、個別化療法の観点でも臨床上重要である。

監訳者コメント

 現在、大腸癌発生の約15%にミスマッチ修復系の異常(欠損)が関与していることが知られている。ミスマッチ修復系異常は、ゲノムDNA上の単純な反復配列の不安定性(microsatellite instability:MSI)として比較的簡便に診断可能であるが、このMSI陽性の大腸癌はMSI陰性の大腸癌に比べて予後の良いことが従来から報告されている。また、興味深いことに、このMSI陽性の大腸癌は5-FU系抗癌剤に感受性が低いことを示唆する報告も見られる。これらの知見を、StageII/III結腸癌術後患者を対象にした術後補助化学療法の5つの無作為割り付けの第III相臨床試験の総合結果から最初に示したのが、2003年のRibicらの報告であった(Ribic et al. New Engl. J. Med.349(3):247-257, 2003]。
 ただ、サンプル数の制限などから不確定な結果となっていたところ、今回、著者らは、Ribicらの過去の臨床試験も含めて新たにサンプル数を増やし、合計1,027例の大腸癌検体のミスマッチ修復異常のデータを元に、以下の事実を確認した。すなわち、ミスマッチ修復異常(MSI陽性とほぼ同義)の大腸癌は、修復異常(−)(MSI陰性とほぼ同義)のものに比べて予後が良いこと、しかし、それは5-FUの補助療法無しの手術単独群に限ることである。更にStage別での解析で、5-FUの補助療法によってbenefitがあるのは、StageIIIのミスマッチ修復異常(−)群であることを示した。また統計学的有意差を示すには至らなかったが、StageIIのミスマッチ修復異常(+)群においては5-FUの補助療法で逆に予後不良となる傾向が見られ、今後、このミスマッチ修復異常の解析によって大腸癌の術後補助化学療法の個別化が臨床応用されることが必要ではないかと思われる。
 無作為割り付けでの質の高い臨床試験は必要に応じて数試験を統合したpooled analysisが可能であり、それに付随した臨床検体の解析と合わせることによって、重要な臨床上のエビデンスが得られることを改めて示した論文である。

監訳・コメント:兵庫医科大学外科学講座 冨田 尚裕(下部消化管外科・主任教授)

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