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周術期における血管内皮増殖因子を標的とした治療:患者管理への影響

Vascular endothelial growth factor targeted therapy in the perioperative setting: implications for patient care
Bose D, Meric-Bernstam F, Hofstetter W, Reardon DA, Flaherty KT, Ellis LM. Lancet Oncol. 2010; 11(4): 373-382.

 VEGF(vascular endothelial growth factor:血管内皮増殖因子)は多くの腫瘍組織で過剰発現しており、腫瘍血管新生の中心的役割を果たしている。VEGFを標的とした治療は大腸癌、腎細胞癌、乳癌などの固形癌に有効とされる。現在、抗VEGF抗体のbevacizumab、チロシンキナーゼ阻害薬のsorafenibやsunitinibなどがFDAによって承認されており、第III相試験が進行中の薬剤も数多くある。しかし一方で、VEGFは正常組織における血管新生の主要な調節因子でもあり、創傷治癒過程に重要な役割を担っているため、VEGFの阻害は手術による創傷関連合併症を招くことが懸念されている。そこで今回、周術期のこうした合併症に焦点を当て、特に転移性大腸癌に対するbevacizumabの投与についての留意点を概説する。
 まず、肝転移巣の切除に対する術前の既存抗癌剤と本剤の併用投与による安全性を示す。Gruenbergerらの報告は唯一のプロスペクティブ研究であり、術後合併症の頻度は21%となったが、創傷血腫は1例のみであった。KesmodelらやReddyらのレトロスペクティブ解析からは、本剤併用による術後合併症(49%および44%)は化学療法単独(43%および30.4%)と同等と報告され、また観察的研究における術後合併症は6.2%と報告されている。
 次に、術後補助療法の見解をまとめると、Scappaticciらは2つの第II相無作為化試験の統合解析から、創傷関連合併症の頻度は本剤併用と化学療法単独とで有意差がないと報告している。一方、創傷関連合併症は手術と本剤投与の間隔が60日以内の場合で最も多く認められ、また手術から6週間経過後でも本剤投与によるリスクがあることが大規模試験などから示されている。
 Bevacizumab投与と手術の間隔に関する評価はさまざまで、また合併症全体および創傷関連合併症の頻度は各種研究で大きく異なる。しかも、本剤の血漿中薬物濃度半減期は約20日と、sorafenibの24〜48時間やsunitinibの40〜60時間と比べてきわめて長い。一般に、本剤投与と手術は28日の間隔をおくことが推奨されているが、個々の患者、すなわち糖尿病や末梢血管疾患を合併する大腸癌患者での間隔は6〜8週程度とすることが望ましいと思われる。

監訳者コメント

 VEGF(血管内皮増殖因子)抗体薬であるbevacizumabは、わが国では2007年大腸癌で承認され、2009年非小細胞肺癌に対して適応追加となり、本年になりプラチナダブレットとの併用のファーストライン治療薬として本格的に臨床導入された。本剤と、最近、腎細胞癌や肝細胞癌、GIST等で承認されたVEGF(血管内皮増殖因子)を標的とした新規チロシンキナーゼ阻害薬 (sorafenib, sunitinibなど)の最も大きな相違点はその半減期である。約20日と半減期が非常に長いbevacizumabを使用する際には、創傷治癒遅延等の合併症を有するため、周術期管理には細心の注意が必要であり、一般に、大手術の際にはその前後最低4週間は本剤の使用を控えるべきである。
 本論文は、術前化学療法+bevacizumab療法が行われた転移性大腸癌患者における術後合併症の発現率とbevacizumab休止期間との関係に関する報告をレビューしたものである。一般には最低4週間の休止期間が推奨されるが、糖尿病や末梢血管疾患を有する患者では6〜8週間程度のより長い休止期間が必要である。周術期の使用に関して、VEGFを標的とした新規チロシンキナーゼ阻害薬とbevacizumabを混同してはいけない。

監訳・コメント:愛知県がんセンター中央病院・薬物療法部 室 圭(部長)

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