論文紹介 | 毎月、世界的に権威あるジャーナルから、消化器癌のトピックスとなる文献を選択し、その要約とご監訳いただいたドクターのコメントを掲載しています。

進行大腸癌においてKRASおよび BRAF変異は予後不良と関連するがoxaliplatinやirinotecanによる有用性を妨げない:MRC FOCUS試験の結果から

KRAS and BRAF mutations in advanced colorectal cancer are associated with poor prognosis but do not preclude benefit from oxaliplatin or irinotecan: results from the MRC FOCUS trial
Richman SD, Seymour MT, Chambers P, Elliott F, Daly CL, Meade AM, Taylor G, Barrett JH, and Quirke P.
J Clin Oncol. 2009; 27: 5931-5937.

 進行大腸癌に対する1st-line治療として5-FU(fluorouracil)単独、5-FU/irinotecan併用または5-FU/oxaliplatin併用の有用性を比較したMRC FOCUS(Medical Research Council Fluorouracil, Oxaliplatin and Irinotecan:Use and Sequencing)試験より、癌遺伝子KRASおよびその下流に位置するBRAFの変異と治療効果の関係を評価した。
 この結果、解析可能な進行大腸癌患者711例中308例(43.3%)でKRAS変異を、56例(7.9%)でBRAF変異を認め、360例(50.6%)でいずれか一方または両方に変異を認めた。いずれの遺伝子変異とも全生存(OS)との関連性が認められたが(ハザード比[HR]1.40、p<0.0001)、無増悪生存(PFS)に及ぼす影響は小さく(HR 1.16、p=0.05)(表)、3つの治療群間でのOS、PFSへの影響に差はみられなかった(p=0.87およびp=0.47)。
 以上より、KRASおよびBRAF変異は予後不良と関連しているが、irinotecanやoxaliplatinの治療効果に関連性は認められなかった。したがって、こうした遺伝子変異を有する進行大腸癌患者において、標準的化学療法薬による有用性が得られないという根拠はない。

監訳者コメント

 大腸癌に対する分子標的薬の登場により、抗がん治療をより効率的に行うことが検討されている。有効性と有害事象のバランス、さらには生存期間と医療費の兼ね合いなど治療薬の選択において単に生存期間の延長のみでの視点ではなくなりつつある。最近の生物科学的検討から、がん細胞特異的な遺伝子変異と予後や治療反応性に関する知見が蓄積されてきている。今後は、このような知見に基づき、手術検体や生検から”腫瘍プロファイリング”を行うことによって抗腫瘍効果、予後などの治療効果や有害事象発生を推定し、治療法の選択を行うことになると予想される。本論文では、KRASBRAFの2遺伝子に注目し、抗EGFR治療薬の使用されていないMRC FOCUS試験に登録された症例の検体をレトロスペクティブに解析している。2遺伝子変異は予後不良と関連しているが、治療薬剤の効果との関連性は認められないという結果である。今後抗がん剤治療選択前に、各種遺伝子検査が実施され分子標的薬が選択されることになると予想されるが、従来の抗がん剤の治療効果には影響は少なく、標準治療レジメンを基本に、分子標的薬を選択するという現在の治療方針を支持する論文である。

監訳・コメント:国立がん研究センター中央病院 島田 安博(消化器内科グループ長)

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