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4月
監修:愛知県がんセンター 薬物療法部 医長 谷口 浩也

胃癌 食道胃接合部癌

局所進行胃癌(cT4aN+M0またはcT4bNanyM0)に対する周術期SOX vs. 術後SOX vs. 術後CapOxの第III相試験(RESOLVE試験)における全生存期間のアップデート(最終報告)


Xiaotian Zhang, et al.: Lancet Oncol. 26(3): 312-319, 2025

 切除可能進行胃癌に対する標準治療は地域によって未だ異なっている。欧米では術前後の周術期化学療法が標準治療となっている一方、本邦を含むアジアではD2郭清を伴う手術+術後補助化学療法が標準治療となっている。しかし近年アジアからも術前化学療法の有用性に関する報告が相次いでいる。PRODIGY試験は手術+術後S-1に対する術前DOS(Docetaxel+Oxaliplatin[OX]+S-1)の優越性を検証した第III相試験であり、最終解析において無増悪生存期間(PFS)のみならず全生存期間(OS)の延長を示したことが注目された。その傾向はcT4で顕著であった。

 今回報告するRESOLVE試験は中国27施設で実施された非盲検無作為化第III相試験であり、 対照群の術後CapOxに対する周術期SOXの優越性ならびに術後SOXの非劣性が検証された1)。2012年8月から2017年2月までの間に局所進行胃癌または食道胃接合部癌1,094例が登録された。主な適格基準は、cT4aN+M0またはcT4bNanyM0の切除可能(D2郭清可能)な胃・食道胃接合部腺癌、Karnofsky performance score 70以上であった。層別化因子は施設およびLauren分類(腸型/びまん型)であり、3群にそれぞれ1:1:1で割り付けされた。術後CapOx群では手術および術後CapOx(OX:130mg/m2 day 1、Capecitabine[Cape]:1,000mg/m2 1日2回 days 1-14、3週毎)を8サイクル施行され、周術期SOX群では術前SOX(OX:130mg/m2 day 1、S-1:40~60mg 1日2回 days 1-14、3週毎)を3サイクル後に手術および術後SOXを5サイクル施行され、術後SOX群では手術および術後SOXを8サイクル施行された。主要評価項目は3年無病生存期間(DFS)であり、副次評価項目は5年OS、R0切除率、安全性であった。

 初回報告時に3年DFS、R0切除率ならびに安全性について示され、術後CapOxに対する周術期SOXの優越性、術後SOX群の非劣性は示されたが、OSについてはimmatureであった。今回の最終解析では、副次評価項目の1つである5年OSならびに5年時点でのDFSについて報告され、R0切除率と安全性についてはアップデートされなかった。

 ITT集団1,094例のうち何らかの治療を受けた1,022例(modified ITT集団)で有効性解析が行われた(術後CapOx:345例、術後SOX:340例、周術期SOX:337例)。最終追跡解析のカットオフは2022年4月であり、追跡期間中央値は62.8ヵ月であった。カットオフ時点において術後CapOx:159例(46.1%)、術後SOX:127例(37.4%)、周術期SOX:130例(38.6%)に死亡イベントを認めた。5年OS率は術後CapOxで52.1%(95% CI: 46.3-57.5%)、術後SOXで61.0%(同55.3-66.2%)、周術期SOXで60.0%(同54.2-65.3%)であった。周術期SOXは術後CapOxと比較して有意なOS延長を示し(HR=0.79[95% CI: 0.62-1.00]、p=0.049)、術後SOXも術後CapOxと比較して有意なOS延長を示した(HR=0.77[95% CI: 0.61-0.98]、p=0.033)。サブグループ解析の結果、周術期SOXは術後CapOxと比較して女性、胃癌、びまん型において良好なOS延長を示し、術後SOXは65歳未満、胃癌、びまん型、N+、cT4aにおいて良好なOS延長を示した。

 またDFSに関してカットオフ時点において術後CapOx:184例(53.3%)、術後SOX:160例(47.1%)、周術期SOX:151例(44.8%)にイベントを認めた。5年DFSは、術後CapOxで45.8%(95% CI: 40.2-51.2%)、術後SOXで50.8%(同45.2-56.2%)、周術期SOX群で53.2%(同47.4-58.6%)であった。周術期SOXは術後CapOxと比較して有意なDFS延長を示した(HR=0.79[95% CI: 0.63-0.98]、p=0.034)。また術後SOXは術後CapOxと比較しDFSの非劣性を示したが、優越性は示されなかった(HR=0.86[95% CI: 0.69-1.06]、p=0.16)。サブグループ解析の結果、術後CapOxと比較して周術期SOXは女性、びまん型、N+において良好なDFS延長を示し、術後SOXは全てのサブグループで術後CapOxと同程度であった。

 なお、初回報告時の3年DFSは術後CapOxで51.1%、術後SOXで56.5%、周術期SOX群で59.4%であり、術後CapOxに対する周術期SOXのHRは0.77(95% CI: 0.61-0.97)、p=0.028、術後SOXのHRは0.86(95% CI: 0.68-1.07)、p=0.17であった。またOSはどの群も中央値に到達しておらず、それぞれのHRは0.81、0.77であった。

 その他のデータについて、R0切除率は術後CapOx、術後SOX、周術期SOXでそれぞれ87%、88%、93%であった。また毒性に関して全gradeでは62%、50%、68%であり、grade 3以上では17%、19%、21%であった。主な毒性は好中球減少、血小板減少、貧血であり、治療関連死亡はなかった。

 LimitationはSiewert分類およびBorrmann分類を評価していないこと、アジアでのみ試験が行われたこと、周術期SOX vs. 術後SOXの比較検討は行われていないこと、バイオマーカー解析を行っていないことであった。

 周術期SOXの術後CapOxに対するDFSの優位性は既報で示されているが、 今回の最終解析でOS延長も確認された。PRODIGY試験に続くpositiveな結果であった。PRODIGY試験との主な違いは、RESOLVE試験ではcT4のみを対象としていること、治療レジメンがSOXであることである。また、ほかに注目すべき点として、術後SOXは術後CapOxと比較してOS延長を示した一方で、周術期SOXと術後SOXで比べるとOSはほぼ同等であった。アジア人においてS-1の管理に長けている点が影響した可能性があり、さらにSOX自体が忍容性の高いレジメンであり、後治療が交絡した可能性がある。ただし周術期SOXと術後SOXを直接比較した解析は行われていないことに留意が必要であり、この数値だけで術前SOXの上乗せ効果がないと結論づけることはできない。

 まとめると、PRODIGY試験の結果も含めて解釈するとcT4など再発高リスクの集団には術前化学療法を行うことが望ましいと考える。


日本語要約原稿作成:大阪医科薬科大学 化学療法センター 児玉 紘幸



監訳者コメント:
切除可能胃癌(cT4)に対する周術期SOXは術後CapOxと比較して有意なOS延長を認めた

 本邦における切除可能胃癌に対する標準治療はあくまで手術+術後補助化学療法であり、術前化学療法のエビデンスは確立していない。今回の長期フォローアップの結果、短期成績だけではなくOSにおいても周術期SOXは術後CapOxと比較して有意な延長を認めており、術前治療が生存へも寄与することがPRODIGY試験に引き続き示された。PRODIGY試験でのサブグループ解析においてcT4でより顕著な生存延長が示されたが、今回のRESOLVE試験では対象がcT4に絞られた。一律な術前治療は推奨されていないが、少なくともこの集団に対しては有効であろう。また術後SOXについても術後CapOxと比較して有意なOS延長が示されており、本邦でも馴染みの深いSOXのエビデンスが示された意義は大きい。

 一方、直接比較することはできないものの、周術期SOXと術後SOXのOSは同程度であった。PRODIGY試験では5年よりも8年OSで差が大きくなったことから、この点についてはさらなるfollow upが必要なのかもしれない。

 現在、本邦では術前SOXに関するJCOG1509試験や術前SOX/FLOT(Fluorouracil[5-FU]+OX+Docetaxel)に関するJCOG2203試験がongoingであり、これらの結果が待たれる。また最近では術前治療にICIの上乗せ効果を検証する研究も行われている。周術期FLOTにDurvalumabの上乗せ効果を検証した第III相試験(MATTERHORN試験)について、つい先日、主要評価項目である無イベント生存期間(EFS)がmetした報告がなされた。Capecitabineまたは5-FU+CisplatinにPembrolizumabの上乗せ効果を検証した第III相試験(KEYNOTE-585試験)ではEFSがmetしなかっただけに注目すべき結果である。今後OSなどの結果も待ちたいが、ICI併用が生存延長にも寄与することが明らかとなった場合は術前治療がさらに変わる可能性があり、この領域からますます目が離せない。

  • 1) Zhang X, et al.: Lancet Oncol. 22(8): 1081-1092, 2021 [PubMed]

監訳・コメント:大阪医科薬科大学 化学療法センター 児玉 紘幸

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