4月
監修:愛知県がんセンター 薬物療法部 医長 谷口 浩也
大腸癌
転移性大腸癌におけるベースラインのリキッドバイオプシーと組織ベースパラメータとの関連性:FIRE-4(AIO-KRK-0114)試験
Sebastian Stintzing, et al.: J Clin Oncol. Feb 4, 2025 [Online ahead of print]
背景
転移性大腸癌(mCRC)のガイドラインでは、DNAミスマッチ修復欠損、BRAFV600E変異の有無、RAS変異の有無を1次治療開始前に検査することが推奨されている1-3)。
BRAF遺伝子に関しては、BRAFV600Emut(変異型)のみが強力な予後不良因子として確立されており、BRAF阻害薬併用療法が既治療mCRCに使用される4)。
RAS変異の状態に関する情報は、exon 2(codon 12/13)、exon 3(codon 59/61)、exon 4(codon 117/146)の活性化KRASおよびNRASホットスポット変異の解析に基づいており、これらの変異はCetuximab(Cmab)やPanitumumab(Pmab)等の抗EGFR抗体薬を使用する際の負の効果予測バイオマーカーである5,6)。
RASwt(野生型)の左側原発のmCRCでは、右側原発のmCRCに比べ抗EGFR抗体薬の抗腫瘍効果が高い7)。いくつかの第III相試験で、左側原発のRASwt mCRCの1次治療でFOLFOXまたはFOLFIRI+抗EGFR抗体薬の併用療法はBevacizumab(BEV)併用療法と比べ優れた有効性が証明されており、左側原発のRASwt mCRCの1次治療でCmabまたはPmabの併用が推奨されている8,9)。
Adenoma carcinoma sequenceの中でRASmutは早期に発生する変異と考えられており10)、mCRCの原発巣と遠隔転移巣の比較においてRASmutの不一致は5~25%で認められる11)。リキッドバイオプシー(LB)技術の開発によりmCRC患者の血液中の腫瘍由来のセルフリーDNA(cfDNA)からRAS変異を調べることが可能となった12)。血液および組織ベースの高感度な方法を用いたDNA解析の結果、血液検体と組織検体間で同等の結果であった13)。血液検体の採取は低侵襲で出検から検査結果受領まで短期間であり、経時的に検査が可能である点が利点である。
そこで今回、FOLFIRI+Cmab療法を継続する対象群と維持療法中に分子標的治療をCmab からBEVに切り替える試験群を無作為化比較するFIRE-4試験を行い、ベースラインおよび治療中のLBによるRASmut、またはBRAFmutの検出の臨床的意義について検討した。
患者と方法
FIRE-4試験は第III相試験であり、2段階無作為化割付が行われた。全例が初回治療としてFOLFIRI+Cmab療法が最大12サイクル(24週間)投与された。
最初の無作為化割付で、病勢増悪または忍容できない有害事象が認められるまでFOLFIRI+Cmab療法を継続する群(対照群)と、Fluorouracil(FU)+BEV療法またはCapecitabine(Cape)+BEV療法のスイッチメンテナンス群(試験群)に割り付けられた。初回増悪後は抗EGFR抗体薬を使用しない“window therapy”を施行し、2回目の増悪後に初回治療で抗EGFR抗体薬に対し奏効が得られていたRASwtの症例ではCmabの再導入、または医師選択治療に無作為化割付された。
初回無作為化後の主要評価項目は無増悪生存期間(PFS)、副次評価項目は全生存期間(OS)、腫瘍奏効割合、安全性、有害事象とした。主な適格基準はRASwt(KRAS exon 2、exon 3、exon 4、NRAS exon 2、exon 3、exon 4)、ECOG PS 0-2、化学療法の前治療歴なし、RECIST v1.1における測定可能病変を有するmCRCの症例とした。dMMR/MSI-highおよびBRAFV600Eは無作為化割付前に未評価であった。
統計学的事項
主要評価項目は1次治療におけるPFSとした。対照群の期待PFSはFIRE-3試験の結果から10.0ヵ月と想定し9)、試験群の期待PFSを13.0ヵ月とし、α(両側)=5%、β=0.8で必要イベント数は456イベントとなった。LBを用いた探索的研究において、p値はすべて両側法で計算した。標準的な記述統計がすべての関連データについて用いられた。カテゴリーデータは分割表で示され、各モダリティの度数%で表した。OSなどのイベントまでの期間はKaplan-Meier法とlog-rank検定で算出された。効果判定などの離散変数はFisher検定で行われた。死亡イベントのない症例では最終生存確認日をもってcensoredとした。
治療
全例でFOLFIRI(Irinotecan 180mg/m2、Leucovorin 400mg/m2、FU 2,400mg/m2 46時間持続)+Cmab(初回400mg/m2、その後250mg/m2、day 1 & day 8)療法を行った。標準治療群では、進行または忍容性がなくなるまで2週間に1回の治療が行われた。スイッチメンテナンス群ではFOLFIRI+Cmab療法を8~12サイクル投与後に、FU+Folinic Acid(FUFA)(Leucovorin 400mg/m2、FU 2,400mg/m2 46時間持続)+BEV(5.0mg/kg)療法を2週間毎、またはCape(1,250mg/m2、1日2回内服、days 1-14)+BEV(7.5mg/kg)療法を3週間毎に変更し維持療法を行った。
LBの評価
ストレック採血管は前向きに収集され、維持療法の開始時、またはFOLFIRI+Cmab療法12サイクル投与後、増悪時、または初回治療中止時に解析された。
cfDNAの分離
血漿分離は採血後3日以内に行った。1,600×gで10分間遠心分離し、さらに2回目は 6,000×g、10分間の遠心分離を行った14)。血漿は分析まで-80℃で保存した。cfDNAは、QiaAMP循環核酸キット(Qiagen, Hilden, Germany)を用いて抽出した。
変異の解析
LBにおけるRAS変異解析は、体外診断薬のONCOBEAM RAS(Sysmex Deutschland GmbH, Norderstedt, Germany)により実施した。KRASおよびNRASの34アレル変異を、0.02%をMAFの限界値として解析した15)。検査室間の再現性と精度が高いため、デジタル液滴ポリメラーゼ連鎖反応(ddPCR)を用いBRAFV600E変異の解析を行った16,17)。ddPCRは、変異型および野生型遺伝子に対して有効なBRAFアッセイを用いて、QX200(BioRad, Hercules, CA)で実施した。ddPCRによるBRAFV600E変異解析のcut offは、検出限界と偽陽性の結果を考慮し、0.17%をMAFの限界値とした(感度100%、特異度99.5%)。
再現性と精度はHorizon Discoveryの標準物質を用いた再現試験、Caco2の野生型バックグラウンドDNAにHT29細胞株(BRAFV600Emutを有する、ATCC[American Type Culture Collection, Manassas, VA])のゲノムDNA(gDNA)をスパイクして得た細胞DNAを用いた追加試験によって評価した。両細胞株はSTR分析によるCellosaurus Expasyデータベースの項目に従って認証された。
LBの結果RASmutとなった症例で保存用ホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)組織を用いた次世代シークエンシング(NGS)により、追加のRAS変異解析を、アーカイブ検体を用いて行った。GeneRead kit(Qiagen, Hilden, Germany)を用いてFFPE組織からgDNAを単離18)し、Illumina NextSeq550(Illumina, San Diego, CA)を用いてNGSが施行された。
結果
2015年8月から2021年2月にかけて、ドイツ120施設とオーストリア10施設の試験に672例の患者が無作為に割り付けられた。主要評価項目は達成せず、両群のPFS中央値は同程度であった(10.7ヵ月vs. 11.3ヵ月、p=0.36、ハザード比[HR]=0.92)19)。同様に、両群の客観的奏効率(ORR)は同程度であった(75.7% vs. 72.3%、p=0.43)。またOSの中央値は同程度であった(32.5ヵ月vs. 31.1ヵ月、p=0.81、HR=1.03)。以上の結果より、最初のアプローチとして、LBの治療経過に及ぼす影響を治療群に関係なく分析した。
無作為に割り付けられた672例の患者のうち、540例の患者がベースライン時にLBを実施し、357例の患者が治療中にLBを実施した。ベースライン時に70例がRASmut、38例がBRAFV600Emutを示した。
一方、BRAFwt、かつRASwtの合計は432例、RASmutの頻度は左側原発と右側原発で同程度であった。一方、BRAFmutは右側原発、女性、高齢者でより頻度が高かった。術後補助化学療法の有無も転移のパターン(同時性、異時性)も変異には影響しなかった。
LBによる遺伝子変異の有無別の奏効率は、BRAFmutと比較しBRAFwtで有意に良好であった(73.1% vs. 51.7%、p=0.018)のに対し、RASmutの有無によらず同程度であった(72.7% vs. 65.6%、p=0.28)。またBRAFwt/RASwtはRASmut、またはBRAFmutと比較して有意に高い奏効率を示した(74.2% vs. 61.8%、p=0.025)。
LBでのBRAFwt/RASwt、RASmut、BRAFmutのPFS中央値はそれぞれ11.5ヵ月、9.0ヵ月(HR=1.66、p=0.0006)、5.4ヵ月(HR=1.61、p<0.0001)であり、OSの中央値は33.6ヵ月、22.1ヵ月(HR=1.85、p=0.0003)、12.0ヵ月(HR=1.83、p<0.0001)であった。
BRAFwt/RASwt群とBRAFmut群では対照群と試験群のPFSとOSは同程度(BRAFwt/RASwtのPFS:11.6ヵ月vs. 11.5ヵ月、p=0.34、BRAFwt/RASwtのOS:34.7ヵ月vs. 31.6ヵ月、p=0.76、BRAFmutのPFS:5.4ヵ月vs. 4.0ヵ月、p=0.93、BRAFmutのOS:9.8ヵ月vs. 14.5ヵ月、p=0.85)であったが、RASmut群では、試験群でOSが良好であった(24.9ヵ月vs. 16.3ヵ月、p=0.10、HR=0.57)。
ベースライン時にRASwtであった患者のうち、300例が増悪時にLBを提供した。このうち254例(84.7%)はRASwtのままであったのに対し、46例(15.3%)でRASmutが認められた。Cmab継続群では、LBにおけるRASmut割合が高値であった(19.4% vs. 11.8%)。実際、RAS変異状態の変化は、Cmabの投与継続期間と有意に関連していた(12.1ヵ月vs. 6.9週間、p=0.0013)。LBでRASmutを認めた場合、Cmab継続群においてPFSが良好であったが(p=0.04、HR=0.78)、OSには影響がなかった(p=0.73)。
ベースライン時にBRAFwtであった患者のうち、329例が増悪時にLBを提供した。このうち316例(96.0%)はBRAFwtのままであったが、13例(4.0%)はBRAFV600Emutであった。BRAFV600Emutの発生確率に治療群間差は認められなかった(4.5% vs. 3.4%、p=0.78)。BRAFmutの出現はCmab投与期間の延長と関連していた(11.8ヵ月vs. 8.5ヵ月、p=0.60)。
ベースライン時にLBでRASmutと診断された70例のうち46例で組織検体を用いたNGSが行われた。22例(48%)でLBと同様のRASmutが明らかになったが、3例で異なるRASmutとなり、21例でRASmutが検出されなかった。RAS変異状態別のOSとPFSの結果は組織由来の解析結果と同様の傾向を示した。
考察
cfDNAを高感度で分析するLBの確立により、患者血液中の腫瘍由来の遺伝子変異を検出可能となり新たな診断正確性の向上につながった20,21)。
腫瘍組織検査でRASwtと診断されていた患者の13%(70例)がRASmutであり、7%(38例)がBRAFmutであるとLBで認められた。新規のRASmutを7.4%に、BRAFV600Emutを10.6%に認めたPARADIGM試験と同様の結果であった22)。
ベースライン時のLBでRASmutと認められた患者のうち腫瘍組織検体を用いたNGSで52%のみがRASmutであり、48%はRASwtであった。LBは全ての腫瘍の性質を反映し、その不均一性を網羅する点において腫瘍組織解析より有用かもしれない23)。
ベースライン時にLBでRASwt/BRAFwtと診断された症例では、治療群間に差はなく、ORR、PFS、OSは同等であり、RASwt/BRAFwt例において、FOLFIRI+Cmab療法後のBEV併用維持療法への切り替えの有効性は限定的であった。しかし、LBでRASmutと判明した症例においてCmabからBEVへの変更はPFSおよびOSの延長と関連していた。この結果はLBでRASmut判明例の治療ではCmab併用療法を避けるべきであることを示唆した。
予後良好な性質を有するRASwt/BRAFwt症例のLBの経時的解析で、抗EGFR抗体薬の投与期間が長い患者ほどRASmutおよびBRAFmutの新規獲得耐性の頻度が高くなったが、LBにおけるRASmutまたはBRAFmutの新規獲得耐性は予後に影響を及ぼさなかった。抗EGFR抗体薬治療中に出現したRASmutは、抗EGFR抗体薬の中止後に指数関数的に減衰するため、抗EGFR抗体薬併用1次治療中に施行するLBは治療選択に追加の指針を与えないことが示唆される24)。
RASmut、またはBRAFmutが少数例であったこと、LBにより判明した変異別の臨床経過において事前の統計学的設定がされておらず探索的性質が強いことが本論文の制約事項である。
結論
本研究により、治療開始前に行われるLBの臨床的意義と組織検査の精度への疑問が示唆された。組織検査でRASwtと診断された一定数がLBでRASmutであり、RASmut検索においてLBがより有用であることが示唆された。1次治療開始前のLBにより抗EGFR抗体の効果が期待できる対象の特定が高精度で可能となることが示唆された。
日本語要約原稿作成:東邦大学医療センター大森病院 薬剤部 川上 達也
監訳者コメント:
LBによるprecision medicineの可能性
LBの治療応用の可能性を示した点で本試験の果たした役割は大きい。本試験の意義は次の2点である。
まず、ベースライン時に組織検査でRASwtと診断された症例のうち13%がLBでRASmutの診断となり、LBによるRASmutの拾い上げの可能性が示唆された点である。組織検体を用いてNGSを施行した場合でもRASmutと追加診断された症例は約半数に留まっていた。これは腫瘍内の不均一性や、原発巣と遠隔転移巣の腫瘍間の不均一性が影響を及ぼしている可能性がある。本試験ではLBでRASmutと診断された症例の生存アウトカムは組織解析でRASmutと診断された症例と同様であり、スイッチメンテナンス群で良好な結果が示されたことから、正確にRASmutの診断が成されていたと推察される。
次に、抗EGFR抗体薬治療中のLBによるスイッチメンテナンスへの治療変更の効果は限定的であることが示唆された点である。これは、RASwt mCRCは抗EGFR抗体薬による良好な予後が期待できる集団であり、特にRAS変異において抗EGFR抗体薬の治療期間と新規獲得耐性の出現が相関していたためである。FOLFIRI+Cmab継続群においてRASwt→RASwt集団よりRASwt→RASmut集団で良好なPFSを示した(10.4ヵ月vs. 15.1ヵ月、p=0.04、HR=0.78[0.61-0.99])。一方で、スイッチメンテナンス群では同程度の結果であった(12.5ヵ月vs. 13.8ヵ月、p=0.47、HR=1.10[0.85-1.42])。
実地臨床ではMEBGEN RASKETTM-Bキットによる腫瘍検体のRAS/BRAF解析とOncoBEAMTM RAS CRCキットによる血中のRAS解析が可能である。後者は組織検体検査が実施困難な場合の施行に留意する必要がある。両者とも患者1人につき1回算定可能であり同月内の同時検査は査定対象となる。医療経済を加味する必要があるが、抗EGFR抗体薬の良好な抗腫瘍効果が期待可能な患者集団を特定できるprecision medicineにつながる可能性があり、1次治療開始時の組織検体解析とLBの同時施行が可能となるのか保険上の運用を今後注視していきたい。
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監訳・コメント:東邦大学医療センター大森病院 消化器内科 若林 宗弘
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