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12月
愛知県がんセンター 薬物療法部 医長 谷口 浩也

大腸癌

大腸癌、および、その関連死のリスクに対する大腸内視鏡検査によるスクリーニングの効果


Bretthauer M, et al.: N Engl J Med. 387(17): 1547-1556, 2022

背景
 大腸癌は、世界で3番目に多い癌種であり、癌死亡原因の第2位である1)。大腸癌は集団スクリーニングのターゲットであり複数のスクリーニング法が実施されているが、質の高いエビデンスは限られている。最も一般的に使用されるスクリーニング検査は、便潜血検査と、S状結腸鏡検査または大腸内視鏡検査などの内視鏡検査である。過去の無作為化試験では、大腸癌による死亡リスクは、グアヤック便検査によるスクリーニング被験者において、スクリーニングを受けなかった被験者に比し約15%低下した2)。一方で3つの無作為化試験では、S状結腸鏡検査の被験者では、10~12年の追跡調査で、大腸癌の発生率が最大25%低くなった3)。そして大腸内視鏡検査は、大腸全体を検査できるため、S状結腸鏡検査よりもさらに効果的であると考えられる。したがって、米国においては大腸内視鏡検査をスクリーニング検査として10年ごとに実施することが推奨されているが、大腸内視鏡検査は世界の他の多くの地域では採用されていない。その理由の1つとして大規模無作為化試験で証明されていないことが挙げられる。本研究では、大腸癌の発生および死亡に関して北欧で実施した10年の経過観察を行った大規模な多施設無作為化試験であるNordic-European Initiative on Colorectal Cancer (NordICC) Studyの結果を報告する。

方法
 2009年から2014年の間にポーランド、ノルウェー、スウェーデン、オランダのnational registryから抽出された55~64歳の健康な男女を対象に無作為化試験を実施した。参加者は、大腸内視鏡検査を1回受けるように推奨を受けたグループ(invited group)と、推奨もスクリーニングも受けないグループ(usual-care group)に1:2の比率で割り付けられた。本研究の主要評価項目は10~15年の経過観察における大腸癌の発生と死亡のリスクであり、副次評価項目はあらゆる原因による死亡とした。なおサンプルサイズは大腸癌死亡に両群に25%の差があると仮定し、50%の参加率、および50%のスクリーニング有効性と見積もり算出した。両側有意水準5%で検出力80%とし、invited groupで少なくとも22,800人の参加者、usual-care groupで45,600人の参加者が必要になると計算された。なおポーランドでは、大腸内視鏡のリソースに制限があり、スクリーニングへの参加も少ないと考えられたため、統計的検出力を維持するために、算出数よりも多くの参加者を集めた。

結果
 最終的にポーランド、ノルウェー、スウェーデンの84,585人が本研究に参加した。Usual-care groupは56,365人、invited groupは28,220人であり、そのうちわずか11,843人(42.0%)がスクリーニングの大腸内視鏡を受験した。そして内視鏡受験者では15人がポリープ除去後に後出血を起こしたが、大腸内視鏡検査から30日以内で穿孔や死亡は発生しなかった。経過観察中央値10年間で、usual-care groupの622人と比較して、invited groupでは259人の大腸癌が診断された。Intention-to-screen解析では、10年での大腸癌の発生率は、invited groupで0.98%、usual-care groupで1.20%であり、発生リスクの低下は有意であり18%減少した(リスク比[RR]=0.82、95%信頼区間[CI]: 0.70-0.93)。一方で大腸癌による死亡リスクは、invited groupで0.28%、usual-care groupで0.31%であり有意差を認めなかった(RR=0.90、95% CI: 0.64-1.16)。また大腸癌の発生を1症例予防するためにスクリーニングを受けるように勧めるのに必要な人数は455(95% CI: 270-1,429)であった。あらゆる原因による死亡のリスクは、invited groupで11.03%、usual-care groupで11.04%であった(RR=0.99、95% CI: 0.96-1.04)。

結論
 今回の多施設大規模無作為化試験では、スクリーニングにて大腸内視鏡検査を受けるように推奨を受けた参加者は、スクリーニングを受けなかった参加者よりも、10年後の大腸癌の発生リスクが有意に低かった。一方で死亡リスクの減少は認められなかった。研究立案時には発生および死亡リスクの高度の減少が期待されたが、invited groupのわずか42%が大腸内視鏡検査を受けるにとどまり、実際の大腸癌の発生および死亡リスクの低下は、以前のスクリーニング試験の研究結果よりも低い結果となった。しかしながらinvited groupにおいて全員がスクリーニングの大腸内視鏡検査を受けた際には、大腸癌の発生リスクを1.22%から0.84%に、死亡リスクを0.30%から0.15%に低下しうることが示唆された。
 また他の研究と比較しての本研究でのリスク軽減効果の低下には、近年多くの国での大腸癌の発生リスクの低下やより良い治療選択による大腸癌の予後の改善が影響している可能性が考えられた。これにより、大腸癌の発生を1症例予防するためにスクリーニングを受けるように勧めるのに必要な人数は、相対効果は類似していたが、より古い時期のS状結腸内視鏡検査のそれよりも高い結果となった。
 今回の調査結果は、癌検診プログラムを計画する際のリスクと種々の影響の重要性を強調した。また大腸内視鏡検査、S状結腸鏡検査、およびその他のスクリーニング検査の利益と負担の比較について、各個人の価値観や好みを考慮し最適な検査をみつけるために患者と話し合う必要も示唆された。
 最後に本研究の最大の強みは、その独創性、無作為化デザインと参加者の多さ、参加者全員が以前にスクリーニングを受けたことがないということが挙げられる。また内視鏡医には検査にあたりトレーニングプログラムが実施され、品質指標は試験全体で監視された。さらに長期間の追跡調査はほぼ完了し、死因分類の精度が全参加国で高いことが挙げられた。

日本語要約原稿作成:京都府立医科大学 消化器内科 吉田 直久



監訳者コメント:
受験率を改善できれば大腸内視鏡検査には確固たる効果があることが証明された

 大腸癌は2020年のGLOBOCANの統計で各種癌腫の中で罹患数3位および死亡数2位と患者数が多く世界的な規模で問題解決が望まれる1)。癌検診として便潜血検査が各国で実施され成果を挙げているものの、低い受験率や発生抑制が困難であることが指摘されている2)。大腸内視鏡検査による大腸癌発生および死亡への有用性はこれまでにも指摘されており、米国からの大規模コホート研究では全大腸で発生・死亡リスクともにリスク比=0.44(95% CI: 0.38-0.52)、0.32(95% CI: 0.24-0.45)と有意に減少することが報告されている4)。しかし検診として実施するには大規模無作為化比較試験が望まれ、2012年にNordICC Studyのデザインが報告され結果が長らく待たれていた5)。NordICC Studyが3ヵ国84,585人の参加のもとで10~15年間の確実な経過観察を終え報告されたことはたいへん意義深い。一方で内視鏡検査受診率が50.0%に満たなかったことは検診として大腸内視鏡検査を実装する上での課題と考えられる。Intention-to-screen解析では、大腸癌の発生抑制はリスク比=0.82、95% CI: 0.70-0.93と有意であったものの死亡リスクは有意には至らなかったが、per-protocol解析では発生および死亡ともに抑制効果が示されており、受験率を改善できれば大腸内視鏡検査には確固たる効果があることが証明されたことはたいへん重要である。
 本邦での内視鏡検査による大腸癌検診においては、本邦におけるエビデンスが必須であるが、現在、昭和大学横浜市北部病院の工藤進英先生のもとで2009年より逐年の便潜血検査と1回の大腸内視鏡検査を各群5,000名で比較する大規模無作為化試験であるAkita pop-colon trialが実施されており、その結果が待たれる6)。また現在の検診陽性者の精密検査である内視鏡検査受診率は70%弱であり内視鏡検診が導入された際の受診率向上にも対策が望まれる。そして膨大な内視鏡検査を実施するためのリソースの確保、さらには実施する年齢の決定も重要である。70歳以上の高齢者への検診としての内視鏡検査の安全性の検証が望まれるが、われわれは本邦の民間利用可能な500万人規模のビッグデータを用いて大腸内視鏡検査の高齢者における安全性を検証しており、今後の高齢者への内視鏡検診実施にも期待がもたれる7)

  • 1) Sung H, et al.: CA Cancer J Clin. 71(3): 209-249, 2021 [PubMed]
  • 2) Lauby-Secretan B, et al.: N Engl J Med. 378(18): 1734-1740, 2018 [PubMed]
  • 3) Holme ø, et al.: BMJ. 356: i6673, 2017 [PubMed]
  • 4) Nishihara R, et al.: N Engl J Med. 369(12): 1095-1105, 2013 [PubMed]
  • 5) Kaminski MF, et al.: Endoscopy. 44(7): 695-702, 2012 [PubMed]
  • 6) Saito H, et al.: Int J Colorectal Dis. 35(5): 933-939, 2020 [PubMed]
  • 7) Yoshida N, et al.: Cancer Prev Res (Phila). 15(12): 837-846, 2022 [PubMed]

監訳・コメント:京都府立医科大学 消化器内科 吉田 直久

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