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10月
国立がん研究センター中央病院 消化管内科/頭頸部・食道内科 科長 加藤 健

胃癌 食道癌

進行胃・食道癌におけるPD-L1発現、および、その他の因子と免疫チェックポイント阻害薬の効果との関連:17の第III相試験のシステマティックレビュー&メタアナリシス


Yoon HH, et al.: JAMA Oncol. 8(10): 1456-1465, 2022

 現状、米国食品医薬品局(FDA)による進行胃・食道癌(aGEC)に対する免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の承認はPD-L1ステータスによらず行われている。個々の臨床試験の探索的な解析では、PD-L1陰性例または低発現例においてICIのベネフィットが得られない可能性が示されてきたが、より他の因子も含めたより頑健な解析が必要である。

 本研究では、17の第III相無作為化比較試験(RCT)についてメタアナリシスとシステマティックレビューを行い、aGECにおけるICIの治療効果予測因子を検討した。PD-L1発現だけでなく、報告されたその他の因子についても検討を行い、他の因子と比較したPD-L1の治療効果予測能を評価した。適格基準は、aGEC患者においてICI(単独もしくは化学療法との併用療法)と標準化学療法(SOC)を比較したRCTであること、全生存期間(OS)が報告されていること、ICIにPD-1抗体薬もしくはPD-L1抗体薬が用いられていること、対象症例が100例以上であること、腺癌(AC)もしくは扁平上皮癌(SCC)と組織学的に診断されていることである。2000年1月1日から2021年7月27日までにMEDLINE、Embase、Scopus、Web of Science、Cochrane Central Register of Clinical Trialsで公開された文献に対し検索が行われた。5,752試験がスクリーニングされ、最終的に17試験が解析に含まれた。事前に規定された主要評価項目はOSであった。対象試験からICIとSOCのハザード比(HR)および95% CIを抽出し、ランダム効果モデルを使用して平均HRを推定した。Predictive valueはその因子の2つのレベル間の平均HRの比率として定量化された。

 CheckMate 6481)、ESCORT-1st2)、ORIENT-153)、JUPITER-064)、ATTRACTION-35)、ESCORT6)、RATIONALE 3027)、CheckMate 6498,9)、KEYNOTE-06210)、ATTRACTION-411)、ORIENT-1612)、JAVELIN gastric 10013)、KEYNOTE-06114)、ATTRACTION-215)、JAVELIN gastric 30016)、KEYNOTE-59017)、KEYNOTE-18118)の17試験が抽出された。登録患者は計11,166例であり、SCC患者が45.4%、AC患者が54.6%であった。男性77.6%、女性22.4%、65歳未満が59.5%、65歳以上が40.5%であった。対象とする組織型は、7試験がSCC、8試験がAC、2試験がSCCおよびACであった。治療ラインは、9試験が1次治療、8試験が2次治療以降であった。8試験がアジアのみの試験であり、9試験はアジアと非アジア地域を対象とした。対照群はATTRACTION-2を除くすべての試験で化学療法であり、試験群は9試験でICI+化学療法併用療法、10試験でICI単独療法であった(2試験でICI+化学療法併用療法およびICI単独療法の両方を試験群とした)。ICIは15試験でPD-1抗体薬、2試験でPD-L1抗体薬が用いられていた。また、CheckMate 648では抗PD-1抗体薬と抗CTLA-4抗体薬が併用されていた。

 OSは、すべての試験で主要評価項目もしくは副次評価項目であった。抽出された試験で、OSに関連していた因子は計33因子あり、そのうち18因子が3つ以上の試験で報告された。比較に適した14因子(組織型を含む)を抽出し、組織型ごとにその他13因子について検討を行った。ICIはSCC(9試験)のOS延長に関連しており、平均HRは0.71(95% CI: 0.67-0.77)であった。AC(10 試験)では、平均HRは0.87(95% CI: 0.80-0.96)であった。組織型のpredictive valueは22%(0.87/0.71-1)となり、SCCで高い結果であった。PD-L1の発現はACよりSCCで多くみられており、CPS≧10の症例が40%以上の試験数はAC:3/7、SCC:6/7であり、TPS≧1の症例が40%以上の試験数はAC:0/5、SCC:5/5であった。

 SCCでは手術歴(1試験以外データなし)、Lauren分類、化学療法の種類、MSI(0%)、腫瘍局在(すべて食道)の5つの因子が除外され、腫瘍細胞における発現量(tumor proportion score: TPS)、腫瘍および免疫細胞での発現量(combined positive score: CPS)、性別、年齢、転移個数、地域、肝転移、ECOG PSの8つの因子について解析を行った。最も強い予測因子はTPSであった。ORIENT-15(TPS≧10)以外の試験ではTPS≧1をTPS highと定義した。全体のICIによるOSのHRは、TPS high群0.60(95% CI: 0.53-0.68)、TPS low群0.84(95% CI: 0.75-0.95)であり、predictive valueは41.0%でTPS highで高い結果であった(他の因子は16%以下)。TPSのpredictive valueはICI+化学療法併用療法と化学療法との比較(43.9%)、ICI単独療法と化学療法との比較(38.4%)のいずれでも他因子より高かった。2番目にpredictive valueが高いのはCPSであった。JUPITER-06(CPS≧1)以外の試験ではCPS≧10をCPS highと定義した。全体のICIによるOSのHRはCPS high群0.62(95% CI: 0.54-0.69)、CPS low群0.82(95% CI: 0.72-0.94)であり、predictive valueは34.3%であった。CPSのpredictive valueはICI単独療法と化学療法の比較試験で高く(44.3%)、ICI+化学療法併用療法と化学療法との比較試験ではCPSのpredictive value(26.0%)は性別、転移個数、年齢などの因子のpredictive value(19.0~24.7%)とより近い値であった。ICI+化学療法併用療法と化学療法を比較した2試験(CheckMate 648、ESCORT-1st)、ICI単独療法と化学療法を比較した2試験(ATTRACTION-3、ESCORT)において、どのTPSカットポイントが最も予測に適しているかを評価した。TPS≧1群でHR=0.61(95% CI: 0.53-0.69)、TPS<1群でHR=0.89(95% CI: 0.78-1.01)であり、predictive valueは47%であった。TPS≧5およびTPS≧10のpredictive valueは24~26%であり、TPS≧1が最もカットポイントとして適していることが示唆された。ただしTPS≧5やTPS≧10はTPS≧1よりも頻度が低いため単純に統計的検出力が低下した可能性がある。

 ACでは、MSI、CPS、性別、地域、TPS、転移個数、手術歴、肝転移、Lauren分類、ECOG PS、化学療法の種類、腫瘍局在、年齢の13因子について解析した。最も高いpredictive valueを示したのはMSI(135.8%)であり、2番目はCPSであった。CPS≧10の頻度は25~49%であった。CPS highの定義はCPS≧10、CPS≧5、CPS≧1がそれぞれ2試験であった。全体のICIによるOSのHRは、CPS high群でHR=0.73(95% CI: 0.66-0.81)、CPS low群で0.95(95% CI: 0.84-1.07)であり、predictive valueは29.4%であった(他の因子は12.9%以下)。ICI+化学療法の併用療法と化学療法の比較試験においてCPSのpredictive valueは18.8%(他の因子は14.7%)とMSIを除いて最も高かったものの、ICI単独療法と化学療法の比較試験よりは低かった。一方、ACにおけるTPSのpredictive valueは、全体で10.1%であった。

 以上から、SCCではTPSのpredictive valueは比較対象の治療に関係なく他因子より一貫して高かったが、CPSのpredictive valueは一貫性が低く、ICI単独療法と化学療法を比較した試験では高いもののICI+化学療法併用療法と化学療法を比較した試験では他の因子と近い値であった。ACではICIの最も強力な治療効果予測因子はMSIであったが、患者選択の際にこれを使用する際の欠点はMSI-highの頻度が低いことである(食道癌/食道胃接合部AC/SCCではほぼ0%、胃癌で3~10%)。ACで2番目に強い予測因子はCPSであり、その予測効果はICI単独療法と化学療法の比較試験で最も顕著であった。最適なCPSカットポイントを特定するには、データが不十分であった。TPSはAC患者においてはpredictive valueが高くなく、TPS≧1の患者が CPS≧10の患者より少ないことを考慮すると、統計的検出力が低かったと考えられる。なお、CheckMate 649は複数のCPSカットポイントを用いてOSを報告した唯一の試験であり、カットポイントが1→5→10と上昇するにつれてpredictive valueが上昇することを示した。また、同試験はTPS(≧1)とCPS(≧10)の両方で結果を報告した唯一の試験であり、predictive valueはTPS 44.2%、CPS 37.9%であった。

 本研究はこの論点における最大の症例数の研究であり、複数のカットポイントでPD-L1発現の評価を行ったこと、SCC・AC両方の組織型における評価を行ったこと、試験デザイン毎の評価を行ったことが評価される。Limitationとしては試験によって因子の欠落があること、試験間で治療ラインの不均一があることが挙げられる。

 本研究から、17のRCTにおけるaGEC患者に対するICIを含む治療とSOCの比較ではMSIを除くとPD-L1発現がICIの治療効果と最も関連があることが明らかとなった。ICIを用いた治療前にPD-L1発現状況を検査することが望ましいと考えられる。


日本語要約原稿作成:国立がん研究センター東病院 消化管内科 佐藤 清哉



監訳者コメント:
17の第III相試験のシステマティックレビュー&メタアナリシスにより、食道癌・胃癌におけるPD-L1発現とICIの効果の関連がMSI-highを除く他の因子より強いことが示された

 現状、CheckMate 648、CheckMate 649に基づき、食道癌診療ガイドライン2022では、「切除不能進行・再発食道癌に対して一次療法として、ペムブロリズマブ+シスプラチン+5-FU療法を行うことを強く推奨する」(エビデンスの強さA)、「切除不能進行・再発食道癌に対する一次療法として、ニボルマブ+シスプラチン+5-FU療法もしくは、ニボルマブ+イピリムマブ療法を行うことを強く推奨するが、患者の全身状態および、PD-L1発現状況(TPS)、忍容性等を考慮する」(エビデンスの強さA)、胃癌学会ガイドライン速報では、「ガイドライン委員会は、HER2陰性の治癒切除不能な進行・再発胃癌/胃食道接合部癌におけるニボルマブと化学療法を含む治療を推奨する。CPSが治療効果と関連することから、一次治療前に可能な限りPD-L1検査を実施することが望ましい」、「HER2陰性の胃癌・胃食道接合部癌に対する一次治療において、CPS5以上の症例には、化学療法+ニボルマブ併用を推奨する。CPS5未満の症例、もしくはPD-L1検査実施が不可能な場合は、全身状態や後治療への移行可能性などを考慮して、有効性とニボルマブ併用による副作用増加について十分説明を行った上で、化学療法単独の選択肢も含めて一次治療でのニボルマブ併用を検討することが望ましい」、と記載されている。本研究では、食道癌、胃癌を対象にした17の第III相試験のシステマティックレビュー&メタアナリシスを行い、他の因子と比較して、SCCではTPS、ACではCPSがICIのベネフィットと関連が強いことを改めて示した。しかし、特にCPSではheterogeneityがTPSより顕著であることが報告されており19)、病理医間、施設間で陽性割合の差異が生じている可能性もある。食道癌、胃癌の一次化学療法前にTPSやCPSによって、ICIを上乗せするかどうかは永遠に答えの出ないテーマと思われるが、データを蓄積するためにも、一次化学療法前にTPSやCPSを測定することが望ましいと考えられる。さらに、例えば、PD-L1発現や遺伝子変異量(TMB)、MSI-highを組み合わせたより至適なバイオマーカーの開発や、さらにはPD-L1低発現・陰性例においても明らかなベネフィットが認められるICI併用療法の開発が望まれる。

  •  1) Doki Y, et al.: N Engl J Med. 386(5): 449-462, 2022 [PubMed]
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監訳・コメント:国立がん研究センター東病院 消化管内科 川添 彬人

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