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11月
愛知県がんセンター 薬物療法部 医長 谷口 浩也

食道癌

進行食道癌に対する一次治療としてPembrolizumab+化学療法と化学療法を比較したプラセボ対照無作為化第III相試験(KEYNOTE-590)


Sun JM, et al.: Lancet. 398(10302): 759-771, 2021

 進行食道癌に対する一次治療として、フッ化ピリミジン系薬+プラチナ系薬併用療法が推奨されている。免疫チェックポイント阻害薬は切除不能進行・再発食道癌(扁平上皮癌および腺癌)の二次治療以降において有効性が示されており、三次治療以降でのPembrolizumabの第II相試験(KEYNOTE-1801))において客観的奏効率(ORR)9.9%、全生存期間(OS)中央値5.8ヵ月、無増悪生存期間(PFS)中央値2.0ヵ月であった。そして二次治療として医師選択治療に対するPembrolizumabの優越性を検証する第III相試験(KEYNOTE-1812))が行われ、最終解析の結果、主要評価項目であるPD-L1陽性(CPS≧10)、扁平上皮癌、全患者のOS、いずれにおいても優越性は検証されなかったが、post-hoc解析において扁平上皮癌かつPD-L1陽性患者に限定するとOS中央値は化学療法で6.7ヵ月に対しPembrolizumabで10.3ヵ月(HR=0.64、95% CI: 0.46-0.90)と良好な結果であった。この結果から米国食品医薬品局(FDA)と同様に本邦でも上記集団に対する二次治療としてPembrolizumabが承認された。免疫チェックポイント阻害薬と化学療法の併用療法はいくつかの癌種で標準治療となっており、進行食道癌およびSiewert type 1食道胃接合部癌の一次治療としてPembrolizumab+化学療法の併用療法と化学療法単独を比較する本試験が行われた。

 KEYNOTE-590試験は切除不能進行・再発食道癌の一次治療における標準化学療法(FP療法)に対するPembrolizumab+化学療法の優越性を検証する国際共同プラセボ対照二重盲検無作為化第III相試験である。主な適格基準は、①18歳以上、②前治療歴がない、③局所進行切除不能または遠隔転移を有する、④組織学的に食道腺癌、食道扁平上皮癌もしくは食道胃接合部腺癌(Siewert type 1)と診断されている、⑤RECIST ver1.1で測定可能病変を有する、⑥ECOG PS(Eastern Cooperative Oncology Group Performance Status)0-1、⑦臓器機能が保たれている、であり、HER2陽性が判明している症例は除外された。Pembrolizumab(200mg、day 1、3週毎)+化学療法群(5-FU 800mg/m2、day 1-5+Cisplatin 80mg/m2、day 1、3週毎)(Pembro併用群)とプラセボ+化学療法群(5-FU 800mg/m2、day 1-5+Cisplatin 80mg/m2、day 1、3週毎)(プラセボ併用群)に1:1で無作為に割り付けられ、Cisplatinは6コースまで、その他は35コースまで施行された。層別化因子は、地域(アジアvs.非アジア)、組織型(扁平上皮癌vs.腺癌)、PS(0 vs. 1)であった。PD-L1免疫染色にはPD-L1 IHC 22C3 assayが用いられた。

 主要評価項目は、食道扁平上皮癌群、食道扁平上皮癌かつPD-L1 CPS≧10群、PD-L1 CPS≧10群、そして全患者でのOSおよび食道扁平上皮癌群、PD-L1 CPS≧10群、全患者でのPFSであった。副次評価項目はORR、奏効期間(DOR)、QOL、そして安全性と毒性であった。まず食道扁平上皮癌かつCPS≧10群のOS(α=0.012)および食道扁平上皮癌群のOS(α=0.011)、食道扁平上皮癌群のPFS(α=0.002)における優越性の仮説が並行して検証され、全体の有意水準を片側2.5%に制御しつつ先行する仮説が証明された場合にのみ残りの仮説が事前に規定された分析計画に従って検証された。統計解析は中間解析1回と最終解析が計画され、中間解析は少なくとも13ヵ月以上の追跡調査を行い、食道扁平上皮癌群においてPFSのイベントが460件、OSのイベントが391件確認された後に計画された。

 2017年7月25日から2019年6月3日までに1,020例がスクリーニングされ、Pembro併用群373例、プラセボ併用群376例の計749例が無作為に割り付けられた。患者背景はPembro併用群、プラセボ併用群でそれぞれ、年齢中央値(範囲)64歳(28-94)vs. 62歳(27-89)、扁平上皮癌73% vs. 73%、腺癌27% vs. 27%、食道胃接合部腺癌11% vs. 13%、PD-L1 CPS≧10 50% vs. 52%であった。データカットオフ(2020年7月2日)の時点で、観察期間中央値は22.6ヵ月であった。Pembro併用群、プラセボ併用群でそれぞれ43%、47%で後治療が行われ、うち免疫療法はそれぞれ6%、9%であった。

 第1回目の中間解析で食道扁平上皮癌かつPD-L1 CPS≧10群のOSにおいて、Pembro併用群(中央値13.9ヵ月[95% CI: 11.1-17.7])はプラセボ併用群(中央値8.8ヵ月[95% CI: 7.8-10.5])を有意に上回った(HR=0.57[95% CI: 0.43-0.75]、p<0.0001)。また、食道扁平上皮癌群(OS中央値12.6ヵ月[95% CI: 10.2-14.3]vs. 9.8ヵ月[95% CI: 8.6-11.1]、HR=0.72[95% CI: 0.60-0.88]、p=0.0006)、PD-L1 CPS≧10群(OS中央値13.5ヵ月[95% CI: 11.1-15.6]vs. 9.4ヵ月[95% CI: 8.0-10.7]、HR=0.62[95% CI: 0.49-0.78]、p<0.0001)、全患者(OS中央値12.4ヵ月[95% CI: 10.5-14.0]vs. 9.8ヵ月[95% CI: 8.8-10.8]、HR=0.73[95% CI: 0.62-0.86]、p<0.0001)のいずれにおいても統計学的に有意な改善を認めた。24ヵ月OS率(Pembro併用群vs.プラセボ併用群)は食道扁平上皮癌かつPD-L1 CPS≧10群で31% vs. 15%、食道扁平上皮癌群で29% vs. 17%、PD-L1 CPS≧10群で31% vs. 15%、そして全患者で28% vs. 16%であった。

 PFSは食道扁平上皮癌群においてPembro併用群(中央値6.3ヵ月[95% CI: 6.2-6.9])が有意にプラセボ併用群(中央値5.8ヵ月[95% CI: 5.0-6.1])を上回った(HR=0.65[95% CI: 0.54-0.78]、p<0.0001)。また、PD-L1 CPS≧10群(PFS中央値7.5ヵ月[95% CI: 6.2-8.2]vs. 5.5ヵ月[95% CI: 4.3-6.0]、HR=0.51[95% CI: 0.41-0.65]、p<0.0001)、全患者(PFS中央値6.3ヵ月[95% CI: 6.2-6.9]vs. 5.8ヵ月[95% CI: 5.0-6.0]、HR=0.65[95% CI: 0.55-0.76]、p<0.0001)のいずれにおいても統計学的に有意な改善を認めた。

 OSとPFSのサブグループ解析でもPembro併用群はほぼ全ての項目で良好な傾向を認めた。腺癌サブグループにおいてPembro併用群はプラセボ併用群に対してOS(中央値11.6ヵ月[95% CI: 9.7-15.2]vs. 9.9ヵ月[95% CI: 7.8-12.3]、HR=0.74[95% CI: 0.54-1.02])、PFS(中央値6.3ヵ月vs. 5.7ヵ月、HR=0.63[95% CI: 0.46-0.87])ともに良好な結果であった。

 副次評価項目のORRは全患者においてPembro併用群で45.0%(95% CI: 39.9-50.2)、プラセボ併用群で29.3%(95% CI: 24.7-34.1)であり群間差15.8%(95% CI: 9.0-22.5、p<0.0001)と有意な差を示した。腺癌においてもPembro併用群(48.5%)がプラセボ併用群(24.5%)と比較して群間差24.3%(95% CI: 11.1-36.7)と良好であった。DOR中央値(Pembro併用群vs.プラセボ併用群)は8.3ヵ月(1.2+-31.0+)vs. 6.0ヵ月(1.5+-25.0+)、24ヵ月以上の奏効持続は18.1% vs. 6.1%であった。

 PD-L1 CPS<10の症例を対象とした探索的解析では、Pembro併用群とプラセボ併用群それぞれでOS中央値は10.5ヵ月、10.6ヵ月(HR=0.86、95% CI: 0.68-1.10)、PFS中央値は6.2ヵ月、6.0ヵ月(HR=0.80、95% CI: 0.64-1.01)とPembro併用群で良好な傾向であった。Post-hoc解析ではPembro併用群とプラセボ併用群の組織型およびPD-L1ステータス別のOSおよびPFSの中央値は全集団における生存期間の結果と同様であった。また、アジア地域と非アジア地域の症例の治療効果も全集団で観察された結果と同様の結果であった。

 Grade 3以上の有害事象(Pembro併用群vs.プラセボ併用群)は86%と83%に発生し、主な有害事象として好中球減少症(15% vs. 16%)、貧血(17% vs. 22%)を認めた。Grade 3以上の治療関連有害事象(Pembro併用群vs.プラセボ併用群)は72%と68%に発生し、治療関連死は9例(2%)、5例(1%)であった。免疫関連有害事象(Pembro併用群vs.プラセボ併用群)は26%と12%に発生し、甲状腺機能低下症(11% vs. 7%)、肺炎(6% vs. 1%)、甲状腺機能亢進症(6% vs. 1%)を認めた。Grade 3以上の免疫関連有害事象はPembro併用群7%とプラセボ併用群2%に発生し、肺臓炎による死亡はそれぞれ2例(1%)と1例(1%未満)であった。

まとめ
 本試験では、切除不能進行・再発食道腺癌/扁平上皮癌/食道胃接合部腺癌に対して、一次治療におけるPembrolizumab+化学療法はプラセボ+化学療法に対してOS、PFS、ORRにおいて組織型やPD-L1 CPSにかかわらず、統計学的に有意な上乗せ効果を示した。

 本試験では約15%が食道腺癌、約12%がSiewert type 1の食道胃接合部癌であったのに対して、CheckMate 649試験3)では食道腺癌が約12%、食道胃接合部癌が約18%含まれていた。本試験の腺癌患者でのPembro併用群の生存ベネフィット(HR=0.74)は本試験の全患者(HR=0.73)やCheckMate 649試験の腺癌患者(HR=0.80)と同等であった。一方、PD-L1 CPSによるOSベネフィットに関してCPS<10(HR=0.86)はCPS≧10(HR=0.62)と比較して上乗せ効果が乏しいことが示唆され、CheckMate 649試験においてもOSベネフィットはCPS≧5(HR=0.71)の集団で良好であった。

 KEYNOTE-180試験1)、KEYNOTE-181試験2)でPembrolizumabの効果は三次治療以降および二次治療として限定的であった。原因として、化学療法の既往がない患者はlate lineの患者に比べて免疫抑制性の腫瘍微小環境が少なく免疫チェックポイント阻害薬の有効性が高く現れたことが考えられる。また、一次治療であるKEYNOTE-590試験やCheckMate 649試験3)と比較して二次治療以降での試験であるKEYNOTE-181試験2)やATTRACTION-2試験4)ではPD-L1 CPSの発現率が低かった。原因は明らかではないが、過去の化学療法後にPD-L1の発現が変化したことが原因であると考えられる。

 Limitationとして腺癌、扁平上皮癌の両方の組織型が含まれていることが挙げられる。両群間で治療効果が異なる可能性があり、本研究では腺癌患者が少数であったためサブグループによる違いを検討するための十分な検出力がなかった。また、PD-L1発現に基づいた層別化を行っていないこと、食道胃接合部腺癌患者の34%でHER2 status unknownであることが挙げられる。

 両群の治療関連およびgrade 3以上の有害事象においては既報通りであり、新たな有害事象の報告はなかった。また、Pembro併用群で報告された免疫関連有害事象の大多数はgrade 1-2であった。

 以上より、食道胃接合部腺癌を含む切除不能・進行再発食道癌に対してはPembrolizumabと化学療法併用療法を一次治療の選択肢として考慮するべきである。


日本語要約原稿作成:愛知県がんセンター 薬物療法部 熊西 亮介



監訳者コメント:
進行食道癌(扁平上皮癌/食道腺癌/食道胃接合部腺癌)に対する一次治療として初めて免疫チェックポイント阻害薬の生存延長効果が示された

 食道癌二次治療として免疫チェックポイント阻害薬による生存延長が示されていたが、本試験は一次治療としてPembrolizumabの化学療法に対する生存延長効果を検証した国際共同第III相試験である。食道扁平上皮癌かつPD-L1 CPS≧10、PD-L1 CPS≧10、全患者においてOS延長、さらに食道扁平上皮癌、PD-L1 CPS≧10、全患者でPFS延長が示された。この結果により、Pembrolizumabは2021年3月にFDAで承認され、本邦でも2021年11月に「根治切除不要な進行/再発食道がんの一次治療として化学療法との併用療法」での承認を得た。長らく進歩がなかった食道癌一次治療の標準治療を変える極めて意義のある臨床試験といえる。

 腺癌(27%)と扁平上皮癌(73%)が含まれていたが、OSのHRはそれぞれ0.74、0.72、PFSのHRは0.63、0.65と組織型によらず効果を認めた。ORR(Pembro併用群vs.プラセボ併用群)についても腺癌(48% vs. 25%)と全患者(45% vs. 29%)と同程度であった。KEYNOTE-062試験5)での食道胃接合部癌(CPS≧1)におけるOSのHR(0.96)やCheckMate 649試験3)での食道胃接合部癌や食道腺癌でのOSのHR(それぞれ0.90、0.82)から腺癌での有効性に懸念があったが、本試験では腺癌においても有効性が示された。いずれの試験も後治療として免疫療法が行われた頻度は10%前後と低く要因は不明である。

 一方、全体集団でCPS別(CPS<10/CPS≧10)のHRをみると、OS(0.86/0.62)およびPFS(0.80/0.51)においてCPS<10でのリスク低下が低く、さらに扁平上皮癌でOS(0.99/0.57)、PFS(0.83/0.53)およびORR群間差(2.7%/22.8%)の結果をみると、その差がより明確であった。EMAの評価資料においても治療効果とCPSとの交互作用が示唆されており6)、EMAでは2021年6月に「CPS≧10の進行食道癌の一次治療として化学療法との併用療法」としてPembrolizumabを承認しており、NICEも同様の見解を示している。進行食道扁平上皮癌一次治療例を対象に化学療法単独(Cisplatin+5-FU)を対照治療、Nivolumab+IpilimumabおよびNivolumab+化学療法併用療法を試験治療としたCheckMate 648試験が2021年のASCOで報告され、腫瘍細胞PD-L1≧1%および全患者でいずれの試験治療も生存延長効果を示した7)。しかし、腫瘍細胞PD-L1<1%の集団では試験治療群のOS延長効果(HR 0.96/0.98)が乏しく、CheckMate 649試験でもCPS<5の集団での生存延長効果が乏しいことが示唆されており(HR=0.94、交互作用p=0.0107)、CPSの位置づけに関しては検討の余地がある。

 2021年11月に食道癌術後補助療法としてNivolumabが承認されたことから、周術期を含め食道癌の治療体系が大きく変わることが予想される。再発時の免疫チェックポイント阻害薬リチャレンジの意義、Nivolumab+Ipilimumab併用療法やNivolumab併用化学療法との使い分け、さらにJCOG1314試験でDocetaxel+Cisplatin+5-FU併用療法の生存延長効果が示された場合にその使い分けなどが臨床的課題になることが予想される。

監訳・コメント:愛知県がんセンター 薬物療法部 門脇 重憲

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