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8月
国立がん研究センター中央病院 消化管内科/頭頸部・食道内科 科長 加藤 健

胃癌 食道胃接合部癌 食道癌

切除不能進行・再発胃/食道胃接合部/食道腺癌の1次治療におけるNivolumab+化学療法と化学療法を比較した国際共同無作為化オープンラベル比較第III相試験(CheckMate 649試験)


Janjigian YY, et al.: Lancet. 398(10294): 27-40, 2021

 胃癌における免疫チェックポイント阻害剤(Immune Checkpoint Inhibitor: ICI)の有効性は、3次治療以降においてNivolumabのプラセボに対する優越性が示され、標準治療となっている(ATTRACTION-2)1)。一方、2次治療において、Combined Positive Score(CPS)≧1以上の集団を対象としPembrolizumabのPaclitaxelに対する有効性が検証されたが、全生存期間(OS)および無増悪生存期間(PFS)の統計学的な優位性は示されなかった2)

 細胞傷害性抗癌剤によるimmunologic cell deathによって免疫活性が向上し、ICIの効果を高めることが示唆されている3-8)。先行する非小細胞肺癌を中心に、ICIと古典的な細胞傷害性抗癌剤の併用療法が試みられており、その有効性が次々と報告されている。HER2陰性胃癌においても、KEYNOTE-062試験において、1次治療におけるプラチナ併用療法に対するPembrolizumabの上乗せ効果、およびPembrolizumab単剤の優越性と非劣性が検証されたが、CPS≧1症例におけるPembrolizumab単剤の化学療法に対するOSの非劣性が示されたのみで9)、同対象における薬剤承認には至らなかった。

 CheckMate 649試験は、切除不能進行・再発胃/食道胃接合部/食道腺癌の1次治療における標準化学療法(FOLFOX/CAPOX)に対するNivolumab+化学療法および、Nivolumab+Ipilimumab併用療法の優越性を検証した国際共同無作為化オープンラベル比較第III相試験である。アジア(主に中国)、欧州、オーストラリア、北米、南米の29ヵ国が参加した。本論文では、試験途中でクローズされたNivolumab+Ipilimumab群を除く、化学療法+Nivolumab群と化学療法群のPFSの最終/OSの中間解析結果が報告された。

 主な適格基準は、ECOG PS 0-1、RECIST ver1.1における評価可能病変を有し、主要臓器機能が保たれた未治療の切除不能進行・再発胃/食道胃接合部/食道腺癌であり、最終治療から6ヵ月以上経過した周術期化学療法あるいは化学放射線療法もしくは放射線療法治療例は適格とした。HER2陽性が判明している症例が除外された。Nivolumab(240mg、2週毎もしくは360mg、3週毎)+化学療法群(FOLFOX[Leucovorin 400mg/m2、day 1、5-FU 400mg/m2、day 1および1,200mg/m2、day 1-2、Oxaliplatin 85mg/m2、day1、2週毎]もしくはCAPOX[Capecitabine 1,000mg/m2、1日2回、day 1-14、Oxaliplatin 130mg/m2、day 1、3週毎])、化学療法(FOLFOX 2週毎もしくはCAPOX 3週毎)に1:1で無作為に割り付けられた。層別化因子は、tumor cell PD-L1発現(<1% or indeterminate vs. ≧1%)、地域、PS(0 vs. 1)、使用される化学療法(FOLFOX vs. CAPOX)であった。なお本試験は、CheckMate 032試験などの結果を受け10)、試験途中から主要解析集団がCPS≧5に修正されたが、患者登録自体はCPSにかかわらず継続された。PD-L1免疫染色にはDako PD-L1 immunohistochemistry 28-8 pharmDx assayが用いられた。有害事象は、初回投与から最終投与30日以内の事象をCommon Terminology Criteria for Adverse Events ver4.0とMedical Dictionary for Regulatory Activities ver23.0に基づいて報告された。

 主要評価項目は、CPS≧5のコホートにおけるOSとPFSであった。副次評価項目には、CPS≧1のコホートおよび全体集団におけるOS、および中央判定によるCPSカットオフ毎のPFSと客観的奏効率(ORR)、奏効期間(DoR)、安全性、忍容性、QOL等が含まれた。

 Primary populationとしては無作為化されたCPS≧5の全患者が含まれた。データ解析時点において、化学療法+Nivolumab群の698例および化学療法群の728例において、治療が中止されていた。主な患者背景は両群で大きな偏りはみられなかった。

 本試験の統計設定は以下のとおりである。2つの主要評価項目に対して、両側検定の有意水準はOSに0.03、PFSに0.02が割り当てられた。CPS≧5における化学療法+Nivolumab群のOSの優越性が示された場合、階層的にCPS≧1および全体集団における解析が行われる計画であった。PFSの最終解析とOSの中間解析が、最短フォローアップ12ヵ月時点、OSの最終解析が24ヵ月時点で予定された。CPS≧5の患者は全体の35%と推定し、免疫療法のdelayed effectを考慮して、HRを2分割した方法を用いて算出した結果、サンプルサイズは主要解析集団が554例と見積もられた。事前に、PD-L1 CPS、tumor cell PD-L1、microsatellite instability(MSI)とPFS、OSのバイオマーカー解析が予定された。

 2017年3月から2019年4月までに、2,687例がスクリーニングされ1,581例が無作為化された(化学療法+Nivolumab群789例、化学療法群792例)。解析時の観察期間中央値は化学療法+Nivolumab群で13.1ヵ月、化学療法群で11.1ヵ月であった。CPS≧5は化学療法+Nivolumab群で473例(60%)、化学療法群で482例(61%)であった。70%が胃癌、16%が食道胃接合部癌、13%が食道腺癌であった。

 主要評価項目の1つであるCPS≧5の解析集団におけるOSについて、化学療法+Nivolumab群(OS中央値14.4ヵ月[95% CI: 13.1-16.2])は有意に化学療法群(OS中央値11.1ヵ月[95% CI: 10.0-12.1])を上回った(HR=0.71[98.4% CI: 0.59-0.86]、p<0.0001)。12ヵ月生存率は化学療法+Nivolumab群で57%(95% CI: 53-62)、化学療法群で46%(95% CI: 42-51)であった。また、CPS≧5におけるPFSについて、PFS中央値は化学療法+Nivolumab群において7.7ヵ月(95% CI: 7.0-9.2)、化学療法群において6.0ヵ月(95% CI: 5.6-6.9)であり、統計学的に有意な改善が認められた(HR=0.68[98% CI: 0.56-0.81]、p<0.0001)。12ヵ月無増悪生存率はそれぞれ36%(95% CI: 32-41)、22%(95% CI: 18-26)であった。

 CPS≧1の集団において、化学療法+Nivolumab群(OS中央値14.0ヵ月[95% CI: 12.6-15.0])は化学療法群(OS中央値11.3ヵ月[95% CI: 10.6-12.3])と比較して有意にOSを改善した(HR=0.77[99.3% CI: 0.64-0.92]、p<0.0001)。また、無作為化された全集団において、化学療法+Nivolumab群(OS中央値13.8ヵ月[95% CI: 12.6-14.6])は化学療法群(OS中央値11.6ヵ月[95% CI: 10.9-12.5])と比較して有意にOSを改善した(HR=0.80[99.3% CI: 0.68-0.94]、p=0.0002)。治療と生存期間の間に有意な交互作用は認められなかった。事前に規定されていない解析ではあるが、CPS≧1の集団において、化学療法+Nivolumab群(PFS中央値7.5ヵ月[95% CI: 7.0-8.4])は化学療法群(PFS中央値6.9ヵ月[95% CI: 6.1-7.0])と比較してPFSの改善を示した(HR=0.74[95% CI: 0.65-0.85])。また、無作為化された全集団において、化学療法+Nivolumab群(PFS中央値7.7ヵ月[95% CI: 7.1-8.5])は化学療法群(PFS中央値 6.9ヵ月[95% CI: 6.6-7.1])と比較してPFSの改善を示した(HR=0.77[95% CI: 0.68-0.87])。

 CPS<1の集団において、化学療法群に対する化学療法+Nivolumab群におけるOSのHRは0.92(95% CI: 0.70-1.23)、CPS<5の集団では0.94(95% CI: 0.78-1.13)であった。また化学療法群に対する化学療法+Nivolumab群におけるPFSのHRはそれぞれ、CPS<1で0.93(95% CI: 0.69-1.26)、CPS<5で0.93(95% CI: 0.76-1.12)であった。PD-L1 CPSとOSにおける交互作用は、cut-off 5において有意差を認めた(p=0.011)。

 CPS≧5の集団において、MSI-high(MSI-H)症例のサブグループ解析では、化学療法群に対する化学療法+Nivolumab群におけるOSのHRは0.33(95% CI: 0.12-0.87)、microsatellite stable(MSS)症例のサブグループ解析では0.73(95% CI: 0.62-0.85)であった。全体集団において、MSI-H症例のサブグループ解析では、化学療法群に対する化学療法+Nivolumab群におけるOSのHRは0.37(95% CI: 0.16-0.87)、MSS症例のサブグループ解析では0.80(95% CI: 0.71-0.91)であった。

 CPS≧5の集団におけるORRは化学療法+Nivolumab群で60%、化学療法群で45%であった。CRはそれぞれ12%、7%に認められた。DoR中央値は9.5ヵ月(95% CI: 8.0-11.4)、7.0ヵ月(95% CI: 5.7-7.9)であった。

 全体集団において、何らかの後治療を受けた割合は化学療法+Nivolumab群で38%、化学療法群で41%であった。後治療としてICIの投与を受けた割合はそれぞれ2%、8%であった。

 頻度の高い有害事象は悪心下痢末梢性感覚ニューロパチーであった。化学療法+Nivolumab群、化学療法群それぞれにおけるgrade 3以上の有害事象の頻度は、59%、44%であった。治療中断を要する有害事象はそれぞれ36%、24%に認められた。化学療法+Nivolumab群の16例(2%)、化学療法群の4例(1%)は治療関連死亡と考えられた。免疫関連有害事象が疑われる毒性のうちgrade 3以上の頻度はそれぞれ5%未満であった。

 本試験ではFACT-Gaを用いた治療中のQOL評価がなされ、化学療法+Nivolumab群と化学療法群の間でスコアに差はみられず、治療中の経過においてベースラインと比較して各群でスコアの改善が認められた。化学療法+Nivolumab群は化学療法群と比較して、治療中の症状悪化リスクが減少した(CPS≧5、HR=0.64[95% CI: 0.49-0.83]、全体集団、HR=0.77[0.63-0.95])。

まとめ
 本試験では、切除不能進行・再発胃/食道胃接合部/食道腺癌に対して、主要評価項目であるCPS≧5の集団において、化学療法に対するNivolumabの上乗せは、統計学的かつ臨床的に有意なOSおよびPFSの延長効果を示した。また、事前に設定された副次評価項目に関しても、CPS≧1および全体集団における化学療法+Nivolumab療法の優越性が示された。化学療法+Nivolumab併用療法によって新たな有害事象は認められなかった。以上を踏まえて化学療法+Nivolumab療法は、切除不能転移・再発胃/食道胃接合部/下部食道腺癌の1次治療における新しい標準治療と考えられる。

 本試験の結果の妥当性は、KEYNOTE-062、ATTRACTION-4試験など、同様に初回治療でのICI併用化学療法の意義を検証した試験結果と合わせて検討されるべきであるが、統計学的設定、バイオマーカー、地域、バックボーンの化学療法などの多くの点で相違がある。FDAは本試験の結果に基づいて、PD-L1発現の程度によらず、化学療法+Nivolumab併用療法を承認した。本試験では、主要解析集団がCPS≧5に変更されてからも、層別化因子はtumor cell PD-L1であったが、群間でのCPS≧5%の割合は同等であった。また、本試験では事前のHER2検査がルーティンに行われていない地域でも実施されたため、HER2 status unknownが40%程度含まれていることはlimitationである。群間のバランスがとられていたことは重要な点である。


日本語要約原稿作成:がん研究会有明病院 消化器化学療法科 下嵜 啓太郎



監訳者コメント:
HER2陰性切除不能進行胃/食道胃接合部/下部食道腺癌の初回化学療法へのNivolumabの上乗せ効果が、グローバル試験で初めて証明された

 本試験は全登録例の76%がアジア圏外で行われたグローバル試験で、切除不能進行・再発胃/食道胃接合部/下部食道腺癌の初回治療において、抗PD-1抗体+化学療法が化学療法単独に対して、OS/PFSで優越性を示した初めての大規模試験となった。KEYNOTE-062試験では、Pembrolizumab+化学療法の化学療法単独に対する優越性は統計学的に示されなかったため、本試験の結果の妥当性を懸念する見方もあるが、これは多分に試験デザインの違いによるであろう。KEYNOTE-062試験でも、PD-L1 CPS≧1%/≧10%の主解析集団でPembrolizumab併用群は、OS中央値で上回り、ともにHR=0.85で良好な傾向は示した9)。さらにKEYNOTE-590のサブグループ解析でも腺癌(HR=0.74)と扁平上皮癌(HR=0.72)と同程度のリスク低減効果が示されている11)。よって、グローバル試験では再現性をもって、胃/食道胃接合部/下部食道腺癌の初回化学療法に免疫チェックポイント阻害剤を併用する有用性が示されていると考える。本邦での承認を考える上では、本試験の結果だけでは本邦の実情にはそぐわない。本試験は、適格基準にHER2陰性を含まず(HER2陽性が除外基準、unknown 40%を含む)、アジアの主体は中国で、食道胃接合部/下部食道腺癌を30%、diffuse typeは30%の患者集団を対象にして行われた。化学療法群での後治療としての免疫療法施行は64人(8%)にとどまった。一方、本邦から約半数が参加したATTRACTION-4試験でOS benefitが示されず、日本人の化学療法群のサブグループでは点推定値で19ヵ月と驚異的で、Nivolumab併用群(17ヵ月)を上回ったことは、Nivolumabを含む後治療の威力を示した結果であろう12)。ただ、FDAが承認し、グローバル標準としてNivolumabが初回治療のデフォルトになる中で、本邦特有の事情をどの程度優先すべきか重要な論点ではないだろうか。規制当局の判断が注目される。日常臨床の経験でも免疫療法は、恩恵を受ける人と受けない人の乖離が甚だしい。その点で、適切な患者選択は重要であると思うが、本試験で全登録例でもOS benefitが示されたことは、PD-L1の患者選択のバイオマーカーとしての価値を低めたのではないかと思う。一方、KEYNOTE-059、-061、-062、-158で一貫して示されてきたMSI-highのバイオマーカーとしての意義はより強固になった13,14)。今後は、MSI検査のタイミング、MSI-high症例には化学療法併用の意義があるのかどうかも重要な論点である。また今回の結果はPFSの最終解析/OSの中間解析で、OS最終解析が予定されているが、初回治療から抗PD-1抗体に曝露されることでの長期的な毒性も合わせて検証されるべきではないかと思う。

監訳・コメント:がん研究会有明病院 消化器化学療法科 中山 厳馬

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