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8月
国立がん研究センター中央病院 消化管内科 医長 加藤 健

食道癌 胃癌 食道胃接合部癌

HER2陽性食道癌・胃癌・食道胃接合部癌に対する1次治療としてのPembrolizumabとTrastuzumabの併用療法:非盲検単群第II相試験


Janjigian YY, et al.: Lancet Oncol. 21(6): 821-831, 2020

 HER2タンパク過剰発現のある進行胃癌・食道胃接合部癌の患者では、抗HER2抗体であるTrastuzumabと殺細胞性抗癌剤(白金製剤とフッ化ピリミジン系薬剤)の併用が1次治療として勧められる。ToGA試験においては、この併用療法で治療された患者の全生存期間の中央値は13.8ヵ月、全奏効率は47%であった1)。一方、抗PD-1抗体であるPembrolizumabは、第II相試験(KEYNOTE-059)において、単独投与で、PD-L1陽性の進行胃癌・食道胃接合部癌の23%で奏効をもたらした2)。しかしながら、第III相試験(KEYNOTE-062)において、HER2陰性・PD-L1陽性の進行胃癌・食道胃接合部癌の1次治療では、殺細胞性抗癌剤との併用は生存に寄与しなかった3)

 HER2陽性癌に対するTrastuzumabおよび殺細胞性抗癌剤とのPembrolizumabの併用については、前臨床および実臨床におけるエビデンスによって支持されている4-9)

 PembrolizumabをTrastuzumabと殺細胞性抗癌剤に安全に併用できるかどうか、またその併用療法が既存の標準治療との比較検討をするのに十分に有効かどうかを判断するために、HER2陽性食道癌・胃癌・食道胃接合部癌に対する1次治療としてのPembrolizumab、Trastuzumab、殺細胞性抗癌剤の併用療法の第II相試験を実施した。また治療前に腫瘍と血液サンプルを採取し、HER2ステータスや奏効にかかわる分子決定因子の同定を試みた。

 本試験は米国ニューヨーク州のMemorial Sloan Kettering Cancer Center(MSKCC)で行われた、医師主導型の非盲検非無作為化単群第II相試験である。

 対象は18歳以上、組織学的にHER2陽性(免疫組織染色3+または2+かつFISH≧2.0)と診断された切除不能の食道癌・胃癌・食道胃接合部癌の患者で、主要な適格基準は、RECIST ver. 1.1での評価で、測定可能もしくは測定不能だが評価可能な転移性病変を有する、ECOG PS 0-2であった。また、治療開始前の血液検査データが正常、心エコー検査で左心室駆出率が53%以上、であることなどを必要とした。

 治験担当医師の裁量で、導入サイクルとしてPembrolizumab(200mg/body)とTrastuzumab(8mg/kg)が投与され、3週間後に次のサイクルを行った。2サイクル目として day 1にOxaliplatin(130mg/m2、3週間毎)またはCisplatin(80mg/m2、3週間毎)、同時にCapecitabine(850mg/m2、2投1休)または5-Fluorouracil(800mg/m2、5日間持続)が投与され、Pembrolizumab(200mg/body、3週間毎)およびTrastuzumab(6mg/kg、3週間毎)はday 1より7日以内に投与された。許容できない毒性が発現するまで、または疾患が進行するまで治療を継続した。フォローアップ期間中および試験治療の最後の投与後30日間、有害事象の有無をモニターされた。

 主要評価項目は6ヵ月時点での無増悪生存期間(PFS)で、副次評価項目は、安全性と忍容性、奏効割合(ORR)、病勢制御割合(DCR)、全生存期間(OS)の中央値と12ヵ月時点でのOS、およびPFSの中央値とした。さらに事前に指定された探索的なエンドポイントとして、PD-L1ステータス、血中循環腫瘍DNA(ctDNA)シーケンスでのHER2遺伝子増幅、遺伝子変異量(TMB)、コピー数変化、ネオアンチゲンなどとPFSとの関連性を設定した。

 2016年11月11日から2019年1月23日までの間に41例の患者が登録され、そのうち4例が適格基準に基づいて除外された。

 37例の患者における、研究の治療期間の中央値は10ヵ月(IQR: 5.7-13.7)であり、データロック時点の生存患者(25例)の追跡期間の中央値は13.0ヵ月(IQR: 11.7-23.5、範囲5.9-31.4)であった。Oxaliplatinのサイクル数の中央値は6(IQR: 5-8)で、Pembrolizumab、Trastuzumab、およびフッ化ピリミジン系薬剤の併用投与のサイクル数の中央値は10(IQR: 7-17)であった。37例の患者のうち26例(70%、95% CI: 54-83)は6ヵ月時点で生存し、無増悪であった。37例の患者のうち3例(8%)が6ヵ月以内に疾患によって死亡し、37例中8例(22%)の病状が進行した。PFSの中央値は13.0ヵ月(95% CI: 8.6-NR)、6ヵ月時点のPFS割合は推定で75%(95% CI: 63-91)、OSの中央値は27.3ヵ月(95% CI: 18.8-NR)で、12ヵ月時点のOS割合は80%(95% CI: 68-95)であった。

 最良効果がSDである37例において、DCR 100%を達成した。測定可能な病変を有する35例の患者すべてで、-20%から-100%の範囲で腫瘍の縮小を示した。35例の患者のうち32例(91%、95% CI: 78-97)で奏効を達成し、最良効果として6例(17%)はCR、26例(74%)はPR、3例(9%)はSDを達成した。CRまたはPRを達成した患者で、事後解析により奏効が持続する期間の中央値は9.4ヵ月(95% CI: 4.2-NR)で、奏効までの期間の中央値は2ヵ月であった(IQR: 1.9-4.0)。データロック時には、35例の患者のうち13例(37%)が治療を継続していた。治療を中止した患者のうち、22例が疾患の進行、2例が治療に関連した有害事象による中止で、そのうち12例は追跡調査中に原病により死亡した。18例は2次治療を受け、9例が3次治療を受けた。治療に関連した死亡はなかった。

 抗HER2療法と抗PD-1療法の組み合わせの有効性を調査するために、治験担当医師の裁量により、生物学的製剤のみの初期導入サイクルが認められた。25例の患者は、TrastuzumabとPembrolizumabのみの導入サイクルを受け、2サイクル目から殺細胞性抗癌剤との併用療法を受けた。12例の患者は、導入サイクルからTrastuzumabとPembrolizumabと殺細胞性抗癌剤との併用療法を受けた。PFSの中央値は13ヵ月(95% CI: 6.45-NR)vs. 14.6ヵ月(95% CI: 8.59-NR)、12ヵ月時点のOSは91%(95% CI: 75-100)vs. 75%(95% CI: 60-95)と、両群間で有意差はなかった。PembrolizumabとTrastuzumabの初回投与の3週間後、殺細胞性抗癌剤併用前のCT評価で、TrastuzumabとPembrolizumabのみの導入サイクルを受けた25例の患者のうち、2例の患者がPRを達成し、12例がいずれかの標的病変で縮小を示した。

 治療に関連する有害事象は37例中36例(97%)に発生し、最も頻度の高い事象は神経障害、高血糖、倦怠感悪心、貧血、下痢などであった。毒性のため、3例がフッ化ピリミジン系薬剤を中止し、25例が白金製剤を中止したが、そのうち3例は改善後に再開した。重篤な有害事象として、grade 3の腎炎を2例が発症し、治療を中止した。37例の患者のうち4例(11%)は、Pembrolizumabの中止を必要とする免疫関連の有害事象があったが、Trastuzumabとフッ化ピリミジン系薬剤の継続は可能であった。免疫関連の有害事象は、間質性腎炎(3/37:8%)、高トランスアミナーゼ血症(2/37:5%)、および大腸炎(1/37:3%)であった。頻度の高いgrade 3または4の非免疫関連の有害事象は、リンパ球減少症(9/37:24%)、電解質異常(6/37:16%)、貧血(4/37:11%)、悪心(2/37:5%)などであった。

 ターゲットDNAシークエンス解析をされたのは32例で、そのうち31例は全エクソームシークエンスでも解析がされた。いずれかの解析で、HER2遺伝子の増幅あるいは活性化が21/32例(66%)で検出された。次世代シークエンスでHER2遺伝子の増幅を認めた患者20例中20例(100%)が免疫化学的に3+と判定されたHER2タンパク過剰発現を有していたのに対し、HER2遺伝子の増幅がない患者12例においては、免疫化学的に3+と判定された患者は6例(50%)のみであった。2+かつFISH≧2.0であった6例では、組織の次世代シークエンスによるHER2遺伝子の増幅は陰性であった。一方、ctDNAの変異アレル頻度で調整されたHER2遺伝子の増幅の有無とPFSとは有意な関連を示したが(p=0.013)、その他のシグナル経路との関連は検出されなかった(p=0.03[TP53]、p>0.05[その他])。組織と血漿の次世代シークエンスでは、HER2遺伝子の増幅の有無について高い一致を示した。

 PD-L1の発現、遺伝子変異量(TMB)、奏効の程度や期間とDNAコピー数変異もしくは強力な癌細胞に共通するネオアンチゲンの数との関連も認められなかった。TrastuzumabとPembrolizumabの導入サイクルを受け、腫瘍に一致するベースラインのctDNA変化が検出された16例の患者のうち13例(81%)が、初回投与後かつ化学療法開始前にctDNAの低下を示した。これら13例のうち、10例の患者が6ヵ月時点で無増悪であった。その10例のうち、9例で持続的なctDNAの除去を達成した。

 本試験はその主要なエンドポイントを達成し、Trastuzumabと殺細胞性抗癌剤とのPembrolizumab併用療法を受けた37例の患者のうち26例(70%)が6ヵ月時点で無増悪であり、17%がCRを達成した。また、奏効率91%と全生存期間の中央値27.3ヵ月は、ToGA試験で報告された、殺細胞性抗癌剤とTrastuzumab併用の奏効率47%と全生存期間の中央値16ヵ月よりも高かった。治療関連の有害事象はほぼすべての患者で観察され、化学療法関連および免疫療法関連のgrade 3以上の毒性の頻度は、Trastuzumabと殺細胞性抗癌剤の併用あるいはPembrolizumabと殺細胞性抗癌剤で報告されたものと同程度であった。これらの結果は、Trastuzumabと殺細胞性抗癌剤の併用療法へのPembrolizumabの追加が切除不能の食道癌・胃癌・食道胃接合部癌患者で安全かつ有効であることを示唆している。


日本語要約原稿作成:千葉県がんセンター 消化器内科 古賀 邦林



監訳者コメント:
HER2陽性胃癌に対する新たな選択肢となるか?

 本試験は、単施設で行われた第II相試験であるが、既存のTrastuzumab+殺細胞性抗癌剤の併用療法へのPembrolizumabの追加により、奏効割合91%・病勢制御割合100%、全生存期間中央値27.3ヵ月と、極めて有望な成績を示した。これだけでも試験の価値は十分あるところだが、本試験ではTranslational Research(TR)として、現在ホットな話題であるctDNAを用いた解析を行っているため、紹介したい。

 患者の腫瘍組織と血液を用いた本試験のTRでは、リキッドバイオプシーによるctDNAの診断精度に加え、治療効果との関連性を調べている。その結果、腫瘍組織と血漿ctDNAとのHER2遺伝子増幅が高い一致率を示し、その遺伝子増幅がPFS、すなわち奏効の持続とも相関していることを明らかにした。血漿ctDNAが従来の腫瘍組織におけるHER2陽性/陰性の診断の代替手段として利用できるだけでなく、さらに治療効果予測にも利用できる可能性を示唆しており、しばしばheterogeneityが問題となる胃癌において、その意義は大きいと考える。本邦においても固形癌を対象に、Guardant360アッセイを用いて血漿ctDNAの遺伝子解析を行う、GOZILA試験(UMIN000029315)が国立がん研究センター東病院主導で進められており、今回得られた結果と再現性のある結果が得られるかどうか、非常に興味深い。

 HER2陽性胃癌に対する1次治療として、Pembrolizumab+Trastuzumab+殺細胞性抗癌剤のレジメンが本邦で承認されるためには、現在実施されている第III相試験(KEYNOTE-811試験:NCT03615326)がポジティブとなる必要があるだろう。今後の試験の動向に注目していきたい。

監訳・コメント:千葉県がんセンター 消化器内科 今関 洋

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