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8月
国立がん研究センター中央病院 消化管内科 医長 加藤 健

胃癌

進行胃癌を対象とした1次治療または2次治療におけるLenvatinibとPembrolizumab併用療法を検証した第II相試験


Kawazoe A, et al.: Lancet Oncol. 21(8): 1057-1065, 2020

 抗PD-1抗体などの免疫チェックポイント阻害薬は、胃癌を含めたさまざまな固形癌において予後の改善をもたらした。胃癌においては、3次治療以降において、第III相試験(ATTRACTION-2)で抗PD-1抗体Nivolumabがプラセボに対して全生存期間の延長を認め、本邦でも承認されている。また、第II相試験(KEYNOTE-059)の結果により、PD-L1 CPS(combined positive score)1以上の胃癌に対して、抗PD-1抗体Pembrolizumabが米国食品医薬品局(FDA)より承認されている。しかし、Nivolumabの奏効割合は11%に留まり、Pembrolizumabの奏効割合もCPS 1以上で15%程度であり、半数程度の症例では初回評価時に病勢増悪を示す1,2)。したがって、胃癌において、抗PD-1抗体単剤への耐性を克服するための新たな併用療法の開発が急務である。

 LenvatinibはVEGFR1-3、FGFR1-4、PDGFRα、RETKIT等に対する経口のマルチキナーゼ阻害薬であり、現在、甲状腺癌・腎細胞癌・肝細胞癌で承認されている。固形腫瘍患者を対象としたLenvatinib単剤療法の第I相試験では、胃癌6例中3例で長期間の病勢安定を示した。また、前臨床試験においてLenvatinibは腫瘍関連マクロファージを減少させ、in-vivoモデルで抗PD-1抗体の抗腫瘍活性を増加させたと報告されている3)。実際、LenvatinibとPembrolizumab併用はさまざまな固形癌に対して有望な結果を示し、子宮体癌に対しては奏効割合40%を認め、2019年9月、FDAにより迅速承認されている4,5)

 本試験は、1次/2次治療における胃癌に対するLenvatinibとPembrolizumab併用の有効性と安全性を評価するための非盲検第II相試験である。

 主たる適格規準は、組織学的に確認された進行ならびに転移性の胃癌/食道胃接合部癌、標準治療に不応もしくは不耐、ECOG PS 0-1、骨髄機能ならびに肝腎機能が保たれている等であった。主たる除外基準は、Lenvatinib・抗PD-L1/PD-1抗体の投与歴、慢性的もしくは再燃性の自己免疫性疾患、重篤な合併症を有する等であった。

 試験治療は1サイクルを21日間として、Lenvatinib: 20mg、1日1回内服、Pembrolizumab: 200mg、3週間毎点滴静注が投与された。治療は病勢増悪もしくは不耐な有害事象が生じるまで行われた。ベースラインの分子生物学的特徴としてミスマッチ修復[deficient MMR(dMMR)またはproficient MMR(pMMR)]、HER2、EBV、PD-L1 CPS、tumor mutation burden(TMB)が解析された。PD-L1 CPSはPD-L1 22C3 pharmDX抗体(Agilent Technologies, Carpinteria, CA)を用いて評価された。また、TMBは、409の遺伝子をターゲットとするOncomine Tumor Mutation Load Assay(Thermo Fisher Scientific, Waltham, MA)を用いて測定された。腫瘍生検は試験治療開始前と治療開始の4?6週間後に施行された。

 本試験の主要評価項目は、主治医評価による客観的奏効割合(ORR)であった。副次評価項目は、安全性、immune-related ORR(irRECIST)、病勢制御割合(DCR)、無増悪生存期間(PFS)、全生存期間(OS)であった。

 2018年10月15日から2019年3月25日までに計29例が登録された。大部分の症例はECOG PS 0(90%)であり、14例(48%)は1次治療として、15例(52%)は2次治療として試験治療が行われた。MMR statusとしては、pMMR: 27例(93%)・dMMR: 2例(7%)であった。また、1例(3%)はEBV陽性であった。TMB中央値は10.0[Interquartile range(IQR): 5.0-15.9]であり、dMMRの2例を除外すると8.3 Muts/Mb(IQR: 4.6-12.5)であった。安全性と有効性のデータカットオフは2020年3月20日で、追跡期間の中央値は12.6ヵ月(IQR: 10.5-14.3)であった。治療サイクルの中央値は10(7-18)コースであり、データのカットオフ時には、8例(28%)が治療継続中であった。試験治療の中止理由は、病勢増悪(n=19、66%)、患者拒否(n=1、3%)、conversion surgery(n=1、3%)であった。

 主要評価項目であるORRは、全体で69%(95% CI: 49-85)であった。dMMRを除いたpMMR症例(n=27)におけるORRは70%であった。1例のEBV陽性胃癌では奏効を認めた。1次治療と2次治療においてORRの差はなかった(71% vs. 67%)。DCRは100%(95% CI: 88-100)であり、病勢安定の9例中8例で腫瘍縮小が認められた。PFSの中央値は、7.1ヵ月(95% CI: 5.4-13.7)であった。OS中央値は、未到達(95% CI: 11.8ヵ月-未到達)であり、データカットオフの時点で、全体で20症例が生存していた。CPSによるPD-L1評価は29症例で行われ、TMB解析は21症例で行われた。ORRは、PD-L1 CPS≧1群(n=19)において84%(95% CI: 60-97)、CPS<1群(n=10)で40%(95% CI: 12-74)であった。また、5例のCPS≧10では全例で奏効を認めた。TMB解析(≧10 mutation/MbをTMB-Highと設定)における奏効割合の評価では、TMB-High群(n=11)で82%、TMB-Low群(n=10)で60%であった。PFS中央値に関しては、PD-L1 CPS≧1群において9.1ヵ月、CPS<1群で5.9ヵ月であり、TMB-High群で9.8ヵ月、TMB-Low群で9.5ヵ月であった。

 全gradeの治療関連有害事象では、高血圧(83%)、蛋白尿(55%)、手掌足底感覚異常症候群(48%)、甲状腺機能低下症(45%)、食欲低下(41%)の頻度が高かった。Grade 3以上の治療関連有害事象は全体の48%で認められ、高血圧(38%)、蛋白尿(17%)、血小板減少(7%)が認められた。重篤な有害事象は4例に認められたがいずれも治療との因果関係はなかった。治療関連死は認めなかった。2例(7%)で治療関連の有害事象のためにLenvatinibが中止された(1例はgrade 3の蛋白尿、もう1例は持続的なgrade 2の食欲低下)。治療関連の有害事象により、28例(97%)で投与中断を認め、29例(100%)でLenvatinibの1段階以上の減量を要した[1段階減量(14mg):9例(31%)、2段階減量(10mg):14例(48%)、3段階減量(8mg):5例(17%)、4段階減量(4mg):1例(3%)]。Lenvatinibの減量の主な原因は、高血圧蛋白尿手掌足底感覚異常症候群、および食欲低下であった。

 LenvatinibとPembrolizumabの併用は、胃癌の1次治療および2次治療において、有望な抗腫瘍効果と忍容可能な安全性を示した。これらの結果に基づいて、第III相無作為化試験が計画中である。また、胃癌に対するLenvatinibとPembrolizumabの併用療法の詳細な作用機序も、本試験内の進行中のバイオマーカー分析によって解明されることが期待される。


日本語要約原稿作成:国立がん研究センター東病院 消化管内科 千田 圭悟



監訳者コメント:
抗PD-1抗体と経口マルチキナーゼ阻害剤は胃癌において最も有望な免疫チェックポイント阻害剤の併用療法か?

 近年、免疫チェックポイント阻害剤は、がん化学療法領域における治療開発の中心であった。胃癌に対する抗PD-1抗体単剤の奏効割合は10~15%程度に留まっており、これまでさまざまな併用療法が試されてきた。抗PD-1抗体の耐性克服のためには、①他の免疫チェックポイント分子を標的とした薬剤との併用や、②腫瘍関連マクロファージや制御性T細胞に代表される免疫抑制性細胞を標的とした薬剤との併用が主な戦略として考えられる。最近、VEGF受容体を標的として含むマルチキナーゼ阻害剤は免疫抑制性細胞を減少させ、抗PD-1抗体の抗腫瘍効果を増強させることが非臨床試験で報告されている。実際、免疫チェックポイント阻害剤の有望な抗腫瘍効果の報告が、腎癌や子宮体癌を主に相次いでおり、胃癌や大腸癌においても、RegorafenibとNivolumabの併用療法の有望な結果が示されている。本試験においても、LenvatinibとPembrolizumab併用療法により、1次治療または2次治療において、胃癌に対して、ORR 69%と極めて有望な結果が示された。しかし、単施設の29例の試験かつ大部分の症例がPS良好例であることからあくまで予備的な結果であることは留意すべきである。また、1次治療の胃癌を対象としたPembrolizumabの第III相試験(KEYNOTE-062)において、欧米と比較してアジア人で成績が良いことがサブグループ解析で示されており、本併用療法が欧米人でも効果があるかどうかはさらなる検証が必要である。今後、胃癌に対する本併用療法のフロントラインでの開発や詳細な作用機序や耐性機序の解明が期待される。

  •  1) Shitara K, et al.: Lancet. 392(10142): 123-133, 2018 [PubMed]
  •  2) Tabernero J, et al.: J Clin Oncol. 37(18_suppl): LBA4007, 2019 [JCO]
  •  3) Kato Y, et al.: PLoS One. 14(2): e0212513, 2019 [PubMed]  この論文は無料です
  •  4) Taylor M, et al.: Ann Oncol. 27(6_suppl): vi267, 2016 [Ann Oncol]
  •  5) Makker V, et al.: Lancet Oncol. 20(5): 711-718, 2019 [PubMed]

監訳・コメント:国立がん研究センター東病院 消化管内科 川添 彬人

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