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2009年1月〜2015年12月の論文紹介
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10月
国立がん研究センター東病院 消化管内科 医長 谷口 浩也

大腸癌

切除不能進行・再発大腸癌患者におけるRegorafenibの最適用量を検証した多施設共同第II相無作為化非盲検化試験(ReDOS試験)


Bekaii-Saab TS, et al.: Lancet Oncol. 20(8): 1070-1082, 2019

 Regorafenibは血管新生に関与するVEGFR1-3・TIE2、腫瘍増殖に関与するKIT・RET・RAF-1・BRAF、腫瘍の微小環境に関与するPDGFR-β・FGFRなどを阻害するマルチキナーゼ阻害薬である。標準治療不応例に対してRegorafenibとプラセボを比較した第III相試験であるCORRECT試験では、主要評価項目である全生存期間(OS)の中央値がRegorafenib群6.4ヵ月(IQR: 3.6-11.8)、プラセボ群は5.0ヵ月(IQR: 2.8-10.4、HR=0.77、95% CI: 0.64-0.94、p=0.0052)とRegorafenibの有効性を証明した1)。またアジアでCORRECT試験と同様の患者を対象とした第III相試験であるCONCUR試験でもRegorafenibの有効性が認められた2)。しかし、治療効果が示された一方で、手足症候群(hand-foot skin reaction: HFS)や倦怠感といった有害事象によりRegorafenibの投与は制限されている現状がある。先の試験ではHFS倦怠感の有害事象は治療開始早期に出現することが報告されている。Regorafenibの標準用量・投与スケジュールは160mg/day、3週間内服、1週間休薬である。しかし、実臨床では有害事象の発生状況に合わせ、医師判断で投与量や投与スケジュールを変更し治療を行っており、切除不能進行・再発大腸癌患者に対してRegorafenibの忍容性を考慮した、用量最適化を目的とした観察研究が必要であると考えられる。そこで、Regorafenibの標準用量群と低用量で開始後1週間毎に漸増する群との忍容性を比較する多施設共同第II相無作為化非盲検化試験(ReDOS試験)が実施された。

 本試験は癌研究ネットワークACCRU(Academic and Community Cancer Research United)によって行われた。対象は18歳以上、ECOG PS 0/1、余命3ヵ月以上、組織学的/細胞学的に結腸/直腸の腺癌と認められ、標準化学療法(フッ化ピリミジン系薬剤、Oxaliplatin、Irinotecan、抗VEGF抗体薬、抗EGFR抗体薬が適格の患者においては抗EGFR抗体薬)不応となった症例である。

 対象患者は標準用量群と用量漸増群、PPES(plantar erythrodysesthesia syndrome)予防的にClobetasolを使用する群と症状出現後に使用する群との組み合わせの4群へ無作為に1:1:1:1で割りつけられた(A1群:用量漸増+PPES予防的Clobetasol使用、A2群:用量漸増+PPES症状出現時Clobetasol使用、B1群:標準用量+PPES予防的Clobetasol使用、B2群:標準用量+PPES症状出現時Clobetasol使用)。先行してClobetasolを使用するA1・B1群では治療開始日から手足症候群の予防的塗布を行い、A2・B2群は手足症候群が悪化した際に使用する。Regorafenibはいずれの群も28日間を1サイクルとして21日間内服する投与とした。

 用量漸増群では1サイクル目1週目に80mg/dayで開始後、薬剤の増量に伴う毒性がないことを確認しながら、最大の160mg/dayへと1週間毎に40mg/dayずつ増量していく。2サイクル目以降は1サイクル目で忍容性が確認できた最大用量で開始した。標準用量群は160mg/dayで開始し、用量調節もしくは休薬に至るまで160mg/dayを継続した。Regorafenibの減量基準はいずれの群も共通で、手足症候群高血圧はGrade 2以上もしくはベースから悪化がみられた場合とした。AST、ALT、ビリルビン上昇についてはGrade 3未満になるまで毎週モニタリングを行い、肝機能障害がGrade 2に改善がみられない場合は休薬とし、Grade 4まで増悪した場合には治験治療を中止とした。その他の有害事象についてはGrade 2以上で減量とした。最初の2サイクルの治療期間に薬剤による毒性がみられた場合、用量漸増群では、Regorafenibの用量を増量前の用量に減量した。Regorafenibに関連したGrade 3以上の有害事象が発生した場合にはRegorafenibを減量するが、8週以内にGrade 1以下に改善する場合には4週ごとに40mgずつ再度160mgまで増量可能とした。患者は病勢進行、毒性またはプロトコル治療が継続困難となるまでRegorafenib治療を行った。80mgより減量を必要とする場合、4週以上毒性により治療再開を延期した場合、2段階以上減量が必要な場合はRegorafenibの治療を中止とした。

 有害事象はCTCAE version 4.0で評価した。効果判定は8週ごとにRECIST 1.1を用いて評価した。1サイクル目はday 7/14/21の内服前、2サイクル目はday 1/21の内服前に採血を行いRegorafenibの薬物動態学的解析、代謝の解析を行った。QOL調査を治療開始前のベースラインと2/4/6/8週目終了時に手足症候群(HFS-14)、倦怠感(BFI)、治療に関する自己評価(LASA)において実施した。

 主要評価項目は治療を2サイクル完遂し3サイクル目に移行する割合、副次評価項目は無増悪生存期間(PFS)、全生存期間(OS)、無増悪期間(TTP)とした。

 2015年6月2日から2017年6月22日までに123名が登録され、4群に割り付けられた。データカットオフは2018年7月24日である。116名[用量漸増群(A群)は54名、標準用量群(B群)は62名]が主要評価項目の対象であった。両群間の患者背景に偏りはみられなかった。2サイクル治療を完遂し3サイクル目を開始できたのはA群がB群に比べ有意に高かった[A群43%(95% CI: 29-56)、B群26%(95% CI: 15-37)、p=0.043]。3サイクル目を開始できなかった主な理由は病勢進行であった。

 データカットオフ(2018年7月24日)までの追跡期間の中央値は1.18年(IQR: 0.98-1.57)であり、OS中央値はA群で9.8ヵ月(95% CI: 7.5-11.9)、B群で6ヵ月(4.9-10.2)であった(HR=0.72、95% CI: 0.47-1.10、p=0.12)。PFS中央値はA群2.8ヵ月(95% CI: 2.0-5.0)、B群2ヵ月(1.8-2.8)と両群間に有意差は認めなかった(HR=0.84、95% CI: 0.57-1.24、p=0.38)。用量調節はA群24%、B群21%で必要とされた。

 Grade 3以上のRegorafenib関連有害事象(倦怠感HFS高血圧下痢)は用量漸増群で少なく、QOL評価においても用量漸増群で良好な結果であった。

 本試験により従来の投与方法と比較し、用量漸増法による安全性・有効性の良好な治療成績が示され、新たな最適投薬戦略となる可能性が示唆された。


日本語要約原稿作成:国立がん研究センター東病院 消化管内科 中村 真穂



監訳者コメント:
切除不能進行・再発大腸癌にRegorafenibの減量開始は選択肢の1つになりうる

 CORRECT試験・CONCUR試験でRegorafenibの有効性が示され、本邦でも切除不能進行・再発大腸癌に対する治療の1つとして承認されている。しかし、CORRECT試験のサブグループ解析においてHFSは全体と比較して日本人患者に高頻度に発症(Grade 3以上が27.7%)し、HFSによる投与中止例も報告されている3)。実臨床においてもHFSにより休薬・中止せざるを得ない症例はよく経験される。そのため世界的にも減量開始・増量計画の臨床試験は多く行われてきた。本試験においては減量開始群においても有効性は標準用量群と変化なく、Regorafenib関連有害事象・QOL評価において有意に減量開始群で優れていた結果であり、日常診療において全身状態を考慮し減量開始することは十分選択肢の1つになりうると考えられる。

 さらに、ASCO 2019においてRegorafenibと抗PD-1(programmed cell death 1)抗体薬であるNivolumabの併用による高い抗腫瘍効果が報告された4)。免疫チェックポイント阻害薬の効果が乏しいと言われるマイクロサテライト安定性(microsatellite stable: MSS)/MSI-Low大腸癌においても有効性が示され、今後のさらなる検証が期待されるところである。この報告において、Nivolumabの併用下でのRegorafenibの推奨用量(RD)/最大耐量(MTD)は用量漸増パートの結果120mgとなったものの、拡大パートでのHFSの頻度が高く80mgへ用量が減量された。今後このようなRegorafenibとの併用療法においてもRegorafenibの最適用量・投与方法については検討が必要となってくるであろう。

  •  1) Grothey A, et al.: Lancet. 381(9863): 303-312, 2013 [PubMed]
  •  2) Li J, et al.: Lancet Oncol. 16(6): 619-629, 2015 [PubMed]
  •  3) Yoshino T, et al.: Invest New Drugs. 33(3): 740-750, 2015 [PubMed]
  •  4) Fukuoka S, et al.: J Clin Oncol. 37(15_suppl): abstr 2522, 2019

監訳・コメント:国立がん研究センター東病院 消化管内科 三島 沙織

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