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静岡県立静岡がんセンター 消化器内科 医長 山ア 健太郎

大腸癌

BRAF V600E変異型の転移性大腸癌に対するBinimetinib、Encorafenib、Cetuximabの3剤併用療法を検証する第III相試験(BEACON CRC試験)における安全性導入期(safety lead-in)結果


Van Cutsem E, et al.: J Clin Oncol. 37(17): 1460-1469, 2019

BRAF V600E変異は転移性大腸癌の約8〜15%に認められ、予後不良因子とされている1-4)BRAF V600E変異とRAS変異は、そのほとんどが相互排他的であり5)BRAF V600E変異型大腸癌は、RAS野生型大腸癌の標準レジメンで治療されることが多い。1次治療において強度が高いレジメンを用いてもBRAF V600E変異型大腸癌はBRAF野生型と比較して予後不良であり、後治療の効果は限定的である。

BRAF V600E変異型大腸癌においてBRAFを阻害するのみではわずかな効果しかなく6-9)BRAF V600E変異型大腸癌細胞において、BRAFを阻害することでEGFRに急なフィードバックがかかり、MAPK経路を活性化し細胞増殖が促進されることがvitroで確認されている。一方、xenograft modelにおいてBRAFとEGFRを同時に阻害することで、腫瘍増殖が相乗的に阻害されることが実証されており10,11)、実臨床でもBRAF V600E変異型大腸癌においてBRAF阻害剤に抗EGFR抗体薬を併用することでBRAF阻害剤の効果が向上することが分かっている12-14)。また前臨床試験ではBRAF阻害剤にMEK阻害剤を追加することでMAPK経路を深部で阻害し、より高い抗腫瘍効果が得られていた11,15,16)。BRAF阻害剤であるEncorafenibとMEK阻害剤であるBinimetinibは欧米でBRAF V600E変異型悪性黒色腫の1次治療として承認されている。また1レジメン以上の治療歴のあるBRAF V600E変異型大腸癌に対してEncorafenibとCetuximabの併用療法が第II相試験で有望な結果として報告されている17)

 BEACON CRC試験は無作為化非盲検化第III相試験であり、1〜2レジメンの治療歴を有するBRAF V600E変異型大腸癌患者においてEncorafenib、Cetuximab、Binimetinibの3剤併用療法と、EncorafenibとCetuximabの2剤併用療法、CetuximabにFOLFIRIまたはIrinotecanを併用する治療の3つの群の有効性と安全性を評価することを目的としている。3剤併用療法は臨床的に検討されておらず、試験の無作為化パートの用量を決定するにあたり、3剤併用療法の安全性/忍容性および予備的な有効性を検証するため、30人を対象として安全性導入期(SLI: safety lead-in)が設けられた。

 対象となったのは1〜2レジメンの治療歴があり、組織学的または細胞学的に大腸癌と診断され、腫瘍組織からBRAF変異型と診断されている患者である。SLIは4ヵ国7ヵ所の施設で行われ、まず9人が用量漸増コホートとして参加した。治療内容はEncorafenib 300mg 1日1回、Binimetinib 45mg 1日2回、Cetuximab初回400mg/m2、その後週1回250mg/m2で点滴静脈内注射とし、28日を1サイクルとした。その後、9人の安全性情報をもとに、拡大コホートとして30人に拡大した。

 SLIにおける主要評価項目は安全性と忍容性であった。これにはdose-limiting toxicities(DLTs)も含まれる。有効性の評価項目は奏効率(ORR)、奏効期間(DOR)、無増悪生存期間(PFS)、奏効までの期間(time to response)、全生存期間(OS)とされた。治療効果判定は担当医による評価と、中央判定による評価が行われた。

 2016年11月1日から2017年4月24日までに30人が登録された。2018年9月2日の時点で6人が治療継続となっている。24人(80%)が試験終了となり、このうち21人(70%)が病勢進行(PD)によるものであった。

 DLTsは30人中5人で認めた。2人がCetuximabによるGrade 2/3の薬剤過敏症を発症したがBinimetinibとEncorafenibは継続可能であった。2人がGrade 2の漿液性脈絡網膜症を発症したがBinimetinibの中止により試験継続可能であった。1人がGrade 2の左室駆出率低下を発症したがBinimetinib中止により可逆的であり、Binimetinibを減量することで試験継続可能であった。

 有害事象はGrade 1が2人(6.7%)、Grade 2が7人(23.3%)、Grade 3が16人(53.3%)、Grade 4が5人(16.7%)であった。Grade 5は認めなかった。治療下で発現した有害事象で多かったものは下痢(77%)、ざ瘡様皮疹(67%)、倦怠感(63%)、悪心(63%)であった。Grade 3/4が多く報告されたのは倦怠感(13%:全例Grade 3)、貧血(10%:2人Grade 3、1人Grade 4)、AST上昇(10%:1人Grade 3、2人Grade 4)、CK上昇(10%:全例Grade 3)、尿路感染症(10%:全例Grade 3)であった。有害事象の影響で6人(20%)が1剤以上の休薬を要した。1人(3.3%)がGrade 2の倦怠感のため3剤の休薬、2人(6.7%)がそれぞれ血性クレアチニン値上昇と網膜剥離の影響でBinimetinibのみ休薬、2人(6.7%)がアレルギー反応によってCetuximabのみ休薬となっていた。血中ビリルビン値上昇のため1人(3.3%)でEncorafenibとBinimetinibが休薬されていたが、原病による閉塞性黄疸が原因であった。

 有効性の評価はBRAF変異がG466Vであった1人を除いて29人で行われた。試験治療の投与期間中央値は7.9ヵ月(1.0〜21.4ヵ月)、追跡期間中央値は18.2ヵ月(16.6〜19.8ヵ月)であった。担当医評価でORRは48%(95% CI: 29.4-67.5)(中央判定では41%)、完全奏効(CR)が3人(10%)、部分奏効(PR)が11人(38%)であった。1レジメンの治療歴のある患者では腫瘍縮小が得られたのは17人であり、ORRは59%(95% CI: 32.9-81.6)であった。2レジメンの治療歴のある患者は12人で、ORRは33%(95% CI: 9.9-65.1)であった。奏効までの期間は、2ヵ月以内が78.6%、4ヵ月以内が92.9%であり、全例で6ヵ月以内に奏効が得られていた。DORは中央値5.5ヵ月(95% CI: 4.1-NR)で、85.7%は3ヵ月、42.9%は6ヵ月、25.7%は15ヵ月間奏効が持続した。PFS中央値は8.0ヵ月(95% CI: 5.6-9.3)であり、1レジメンの治療歴がある場合は8.0ヵ月(95% CI: 5.6-9.7)、2レジメンの治療歴がある場合は7.7ヵ月(95% CI: 4.1-10.8)と、前治療のレジメン数によらなかった。観察期間中央値18.2ヵ月(16.6-19.8)に対してOS中央値は15.3ヵ月(95% CI: 9.6-NR)であった。12ヵ月時点でのOSは62%(95% CI: 42.1-76.9)であった。中央判定も行われているがいずれの評価項目も同様の結果であった。

 以上より、本試験の3剤併用療法は忍容性/安全性ともに良好と思われる。現在、BEACON CRC試験の無作為化パートが進行中であり、有効性が検証されれば、Binimetinib、Encorafenib、Cetuximabによる3剤併用療法がBRAF V600E変異型大腸癌の標準治療となる可能性がある。


日本語要約原稿作成:愛知県がんセンター 薬物療法部 松原 裕樹



監訳者コメント:
BRAF V600E変異陽性転移性大腸癌に対するEncorafenib、Cetuximab、Binimetinibの3剤併用療法の有効性検証が期待される

BRAF V600E変異陽性転移性大腸癌は一般的に薬物療法の効果が乏しく、予後不良とされている。特に2次治療以降では奏効割合(ORR)が0〜5%、無増悪生存期間(PFS)中央値が2ヵ月程度とされており、通常の薬物療法はほとんど効果がないと考えられていた。BEACON CRC試験のsafety lead-in(SLI)は、Encorafenib、Cetuximab、Binimetinibの3剤併用療法の主に忍容性をみることが目的であることから、一般的なBRAF V600E大腸癌よりも全身状態が良好な症例が登録されていると予測されるが、ORRが48%、PFS中央値が8.0ヵ月と極めて有望な治療成績であった。

 SLIの結果をもって上記3剤併用療法は2018年8月に米国FDAのBreakthrough Therapy Designation(重篤または生命を脅かす疾患に対して、予備的な臨床試験の結果が有望な場合に優先審査を認める制度)を受けている。BEACON CRC試験はすでに症例登録が終了しており、3剤併用療法の有効性が検証されれば今後速やかな承認が期待される。BEACON CRC試験には本邦の施設も参加し、症例登録を行っていることから、有効性が検証されれば本邦でも米国に遅れることなく承認されることが期待できる。

  •  1) Davies H, et al.: Nature. 417(6892): 949-954, 2002 [PubMed]
  •  2) Loupakis F, et al.: Br J Cancer. 101(4): 715-721, 2009 [PubMed]
  •  3) Tie J, et al.: Int J Cancer. 128(9): 2075-2084, 2011 [PubMed]
  •  4) Clarke CN, et al.: J Gastrointest Oncol. 6(6): 660-667, 2015 [PubMed]
  •  5) De Roock W, et al.: Lancet Oncol. 11(8): 753-762, 2010 [PubMed]
  •  6) Hyman DM, et al: N Engl J Med. 373(8): 726-736, 2015 [PubMed]
  •  7) Kopetz S, et al: J Clin Oncol. 33(34): 4032-4038, 2015 [PubMed]
  •  8) Seligmann JF, et al.: Ann Oncol. 28(3): 562-568, 2017 [PubMed]
  •  9) Prahallad A, et al: Nature. 483(7387): 100-103, 2012 [PubMed]
  •  10) Corcoran RB, et al: Cancer Discov. 2(3): 227-235, 2012 [PubMed]
  •  11) Hong DS, et al: Cancer Discov. 6(12): 1352-1365, 2016 [PubMed]
  •  12) Connolly K, et al.: Curr Oncol. 21(1): e151-e154, 2014 [PubMed]
  •  13) Corcoran RB, et al: Cancer Discov. 8(4): 428-443, 2018 [PubMed]
  •  14) Corcoran RB, et al: Sci Signal. 3(149): ra84, 2010 [PubMed]
  •  15) Corcoran RB, et al.: J Clin Oncol. 33(34):4023-4031, 2015 [PubMed]
  •  16) Robert C, et al.: Eur J Cancer. 51(suppl 3): S663, 2015 (abstr 3301)
  •  17) Van Cutsem E, et al.: Ann Oncol. 29(suppl 5), 2018 (abstr O-027)

監訳・コメント:愛知県がんセンター 薬物療法部 坂東 英明

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