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5月
国立がん研究センター中央病院 消化管内科 医長 加藤 健

大腸癌

HER2陽性切除不能大腸癌に対するPertuzumab+Trastuzumabの多施設共同第IIa相バスケット試験


この論文は無料です


Meric-Bernstam F, et al.: Lancet Oncol. 20(4): 518-530, 2019

 切除不能大腸癌の約5割を占めるRAS変異型大腸癌においてはCetuximabやPanitumumabといったEGFR阻害剤の有用性は乏しい1)。また、切除不能大腸癌の2〜6%にみられるHER2増幅や過剰発現2-4)、あるいは、BRAFPIK3CAの変異は抗EGFR抗体療法への耐性機序として示されてきている1,5)。HER2異常に関していえば、その低い頻度によって同対象に対する十分な治療開発は困難であり結果的にアンメットニーズを生んでいるといえるが、HER2自体は治療のターゲットとして他癌種ではすでに複数の研究が報告されている6-9)。前臨床データにおいては、Trastuzumab、Pertuzumab、Lapatinib単剤はいずれもHER2増幅大腸癌組織モデルに対してほとんど抗腫瘍効果を示さないが、HER2標的治療を併用することでその活性は著しく上昇することが示されている6,8)。実際に第II相試験であるHERACLES試験9)においてはTrastuzumabとLapatinibの併用療法がHER2陽性、KRAS exon 2野生型大腸癌において27例中8例に奏効を認め有望な成績を示しており、HER2陽性乳癌においては一次治療としてPertuzumabとTrastuzumabのHER2標的併用療法が用いられている10)

 本試験のPertuzumabとTrastuzumabでは両薬剤はHER2 domainの異なる別部位に作用し乳癌においては併用療法によって相加性の阻害効果を認めるという報告があるものの11-12)、これまでにHER2陽性大腸癌におけるこれら併用療法の評価はなされておらず、KRAS変異のような併存する遺伝子変異や分子異常に対する抗HER2療法の効果についても評価されていない。

 MyPathwayは、現在進行中の多施設共同非無作為化オープンラベル、マルチバスケットデザインの第IIa相試験であり、分子異常を伴う固形癌に対しそれぞれのターゲットに対応する治療(Pertuzumab+Trastuzumab、Vemurafenib alone or plus Cobimetinib、Vismodegib、Erlotinib、Alectinib、or Atezolizumab)につき評価した試験である。

 本報告の対象となる症例は米国16州25施設より登録がなされた。対象は既治療に対し抵抗性のHER2増幅を伴う大腸癌であり、主な適格基準は18歳以上、測定可能病変あり、ECOG PS 0-2、血液検査により十分な臓器機能の保持が確認されている、少なくとも12週の予後が見込まれている、少なくとも1レジメンの既治療を必要とし、ほかに期待できる治療がない、などである。主な除外基準は抗HER2療法の既治療歴、血液悪性腫瘍、コントロール不良な重複癌、他の化学療法の併用、有症状の脳転移、癌性髄膜炎の既往、6ヵ月以内の心血管イベント、30日以内の肺塞栓症、Grade 2以上の不整脈、他の重篤な身体的・精神的異常を認める、などである。

 投与法はPertuzumab(初期投与量840mg、2回目以降420mg、3週毎)とTrastuzumab(初期投与量8mg/kg、2回目以降6mg/kg、3週毎)が不応・不耐もしくは継続不能となるまで投与された。

 安全性はCTCAE ver4.0に従って評価がなされた。Grade 3または4のPertuzumabもしくはTrastuzumabに関連する毒性が出現した場合にはGrade 1以下に改善するまで休薬を行い、改善後はfull doseで再開し、Grade 3もしくは4の有害事象が再度出現した場合には関連する薬剤は中止とした。腫瘍評価はRECIST ver1.1に従って最初の24週は6週毎に、その後は12週毎に行われた。安全性は各サイクルday 1と治療中止時に行われ、重要な有害事象はCTCAE ver4.0に従い収集され、左室駆出率や各種検体検査が各ポイントで施行された。

 検体の評価は本試験登録前に採取された組織検体にてFISH法もしくはCISH法・NGS・IHCによるHER2評価が施行された。アーカイブ検体が利用可能な症例においてはFoundationOne NGS13)が用いられ、HER2 gene-protein assayとしてはVentana gene-protein assayが用いられた。登録時にはHER2 statusやKRAS変異等のその他の分子異常やMSI statusは各施設の遺伝子検査によって評価されたが、アーカイブ検体が利用可能な症例ではFoundationOne NGSやVentana gene-protein assayによって評価がなされた。

 主要評価項目は奏効割合(ORR)、副次評価項目は病勢制御割合(DCR)、奏効期間、無増悪生存期間(PFS)、全生存期間(OS)、安全性であった。本試験の統計設計においてはSimonの二段階デザインが用いられた。閾値奏効割合10%、期待奏効割合25%、片側α=0.1、検出力80%とし計75例までの登録が許容された。ORRとDCR、PFS、OS、奏効期間は有効性評価集団(最低1回薬剤が投与されかつ腫瘍のベースライン評価がなされている群)で評価され、また各有効性指標はバイオマーカー評価集団でも評価がなされた。

 毒性は試験治療を受けた全症例を対象として評価された。各バイオマーカーと奏効の相関が事後解析として施行され、前治療での抗EGFR治療の有無、腫瘍部位、既レジメン数と各有効性指標の相関が解析された。

 本報告は2014年10月20日〜2017年6月22日までに登録された計57例のHER2陽性大腸癌における中間解析の報告である。2017年8月1日時点で7/57例(12%)が試験治療継続中、18/57例(32%)が観察期間中、32/57例(56%)が試験を終了している。試験中止の理由としては増悪が48例(96%)と最多である。57例全例で各施設でのNGSもしくはFISH or CISH法によるHER2増幅が確認されており、NGSとFISH or CISH法の両方が施行された32例中26例(81%)ではHER2増幅の一致をみた。35例にIHC法が施行され、うち27例(77%)にHER2過剰発現を認めた。HER2変異については検査された47例中3例(6%)に認められた。有効性評価集団34例のうち13例(38%)がPRを達成し主要評価項目を満たした。

 治療期間中央値は2.1ヵ月、全体57例のうち18例(32%)でPertuzumab+Trastuzumabに対する奏効を得た。うち1例(2%)でCR、25例(44%)で病勢制御を得た。奏効期間中央値は5.9ヵ月、奏効例中4例(22%)で12ヵ月以上の奏効を得た。カットオフの時点で50例(88%)に増悪を認め、25例(44%)が死亡した。PFSは2.9ヵ月、OSは11.5ヵ月であった。HER2変異を有する3例中1例はPR、1例はSD、1例はPDであった。HER2増幅ありかつHER2過剰発現なしの8例のうちには奏効例はいなかった。

HER2増幅と共存する遺伝子変異のデータは登録時において55症例から得られた。10%以上の症例に認められた変異はTP53、APC、KRAS、PIK3CA、SMAD4であり1例にBRAF変異を認めた。MSI statusについては測定できた28例(49%)全例においてMSI lowもしくはMSSであった。KRAS変異群では有意にPFS、OSが短く、KRAS野生型群においては抗EGFR抗体治療群が未治療群に比して予後不良であった。

 またPIK3CA変異を有する群は8例のみであり、KRAS、PIK3CA、BRAFのいずれにも変異がない群(33/48例)では16例(48%)で奏効を認め、22例(67%)で病勢制御を得た。BRAF変異の1例は最良効果がPDであった。右側結腸癌では左側結腸癌に比して奏効、病勢制御、生存のいずれも不良であった。事後解析としてのHER2遺伝子コピー数と奏効の関係性の解析では、全体でのHER2遺伝子コピー数の中央値は77、KRAS野生群では84、変異群では67であった。KRAS野生群においてHER2コピー数が中央値より少ない群においては高い群に比して奏効や病勢制御が不良であった。

 登録時のHER2測定法が本試験内において均てん化していなかったため、HER2活性を単一検査法で再検査した。検査法としてはFoundationOne NGSによる評価を行い、KRAS野生型でありHER2増幅を認める13/30例(43%)において奏効を認めた一方で、HER2によらないKRAS野生型43例のうち17例(40%)が奏効を認めた。病勢制御に関してはそれぞれ13例(43%)対24例(56%)であった。

 治療開始後に出現した有害事象は53例(93%)に認め、うち重篤な例は10例(18%)に、Grade 3もしくは4は21例(37%)に認めた。3例(5%)が有害事象によって減量を必要とし、1例(2%)が有害事象によって治療中止となった。頻度の多かった有害事象は下痢(33%)、疲労(32%)、嘔気(30%)であった。Grade 3もしくは4で頻度が多かった有害事象は低カリウム血症(5%)と腹痛(5%)であった。治療関連有害事象は43例(75%)に認めた。2例(4%)に重篤な治療関連有害事象を認め、それぞれinfusion reactionと悪寒であった。治療関連死亡はいなかった。

 以上よりHER2陽性大腸癌に対しPertuzumab+Trastuzumab併用療法が有望であることが示され、また、その対象の選択においてはKRAS statusも併せて考慮する必要があることが示唆された。


日本語要約原稿作成:がん研有明病院 消化器化学療法科 鈴木 健



監訳者コメント:
HER2陽性大腸癌に対し抗HER2療法(Pertuzumab+Trastuzumab療法)は有効

 本報告はHainsworth JD, et al.: J Clin Oncol. 36(6): 536-542, 201814)に先行発表された固形腫瘍を対象としたmulti-basket designの第IIa相試験であるMyPathway試験におけるHER2 module、大腸癌cohortの中間解析である。これまでHERACLES-A試験(Trastuzumab+Lapatinib併用療法)および同耐性例を対象としたRESCUE試験(T-DM1療法)においてHER2陽性大腸癌に対し抗HER2療法の有効性が示されていたが、本報告もこれを支持する結果である。これらの結果からHER2陽性大腸癌はrare fractionであるものの抗HER2療法の一貫した有効性のdataが出揃ったといえ、早急な実臨床への応用が期待される。本試験では認識する細胞外ドメインが異なる抗HER2薬2剤の併用療法で有効性が示されたが、先行試験では対象に含まれない下流シグナルのKRAS変異例で予後が不良であることが確認された。一方、乳癌で抗HER2治療の耐性機序の一つと考えられているPIK3CA変異に関しては一定の有効性がみられ、癌種による抗HER2治療の有効性や耐性機序が異なる可能性が示唆された。現在、本邦発のTrastuzumabにDeruxtecanをconjugateしたDS8201の試験が臓器横断的に進行中であるが、大腸癌でも有効性を示せるか非常に期待されるところである。

  •  1) Zhao B, et al.: Oncotarget. 8(3): 3980-4000, 2017 [PubMed]
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  •  14) Hainsworth JD, et al.: J Clin Oncol. 36(6): 536-542, 2018 [PubMed]

監訳・コメント:がん研有明病院 消化器化学療法科 篠崎 英司

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