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監修:国立がん研究センター中央病院 消化管内科 医長 加藤 健

TRK融合遺伝子陽性癌

TRK融合遺伝子陽性成人・小児癌患者に対するLarotrectinibの効果


Drilon A, et al.: N Engl J Med. 378(8): 731-739, 2018

 神経栄養受容体チロシンキナーゼ遺伝子NTRK1NTRK2およびNTRK3は、それぞれトロポミオシン受容体キナーゼ(TRK)タンパク質であるTRKA、TRKBおよびTRKCをコードする。 胚発生後、TRKの発現は、主に神経系に限定され、これらのキナーゼは疼痛、自己受容、食欲および記憶を調節するのに役立つ1)。TRKのカルボキシ末端キナーゼドメインおよび種々の上流のアミノ末端パートナーを含む再発性染色体融合が、小児および成人において生じるさまざまな癌にわたって同定されている。TRK融合遺伝子は、キメラタンパク質の過剰発現をもたらし、リガンド非依存性下流シグナリングの活性化をもたらす。 生物学的モデルおよび早期の臨床的エビデンスから、これらの融合遺伝子は、全固形癌の最大1%に関与することが知られている2,3)

 本研究では3種類のTRKタンパク質を強力にかつ高い選択性で阻害する小分子化合物であるLarotrectinibの有効性を評価した。今回の研究は3つの臨床試験の統合解析であり、成人を対象とした第I相試験、小児を対象とした第I/II相試験、青少年および成人を対象とした第II相のバスケット試験が含まれる。今回の解析ではTRK融合遺伝子陽性の患者55人の安全性および有効性が報告された。

 適格基準は個々の試験により異なるが、標準治療の終了した局所進行または転移性の固形癌患者で、PSが0-3の症例が対象とされた。

 第I相試験に参加した全患者はdose escalationパートで治療されており、55人目の患者を登録した際には第II相部分は始まっておらず、そのため今回の解析には第II相部分に参加した患者は含まれていない。

 第II相試験では成人を対象に経口にてLarotrectinib 100 mgが1日2回投与された。最大耐用量(MTD)は定義されなかったが、体表面積が1 m2以上の患者には100 mg 1日2回が、それ以下の子供には1 m2あたり100 mgの2回投与が選択された。投薬は病勢増悪か患者申し出、もしくは許容できない有害事象が出現するまで継続された。

 第II相のバスケット試験では遺伝子融合は必須であったが、第I相試験では必須ではなかった。しかし第I相試験においてTRK融合遺伝子が認められた患者が、今回の解析に含まれた。TRK融合遺伝子は次世代シークエンスまたはFISHにて同定した。

 統合解析の主要評価項目は中央判定での奏効率、副次評価項目はinvestigator評価の奏効率、PFS、安全性である。

 効果判定はCTまたはMRIにて1年間は8週毎、それ以降は12週毎に病勢増悪まで評価された。有害事象は同意取得日からLarotrectinibの最終投与28日後まで評価され、判定はCTCAE version 4.0に基づいて行われた。

 今回の解析は最初の55人の患者で行われた。適格基準はTRK融合遺伝子をもつ非中枢神経系の腫瘍で測定可能病変をもつものである。データカットオフまでに144人の患者にLarotrectinibが投与された。

 解析はITT解析でなされ、期待奏効率が50%、閾値が30%、検出力が80%、両側α=0.05として必要症例数が55人と見積もられた。奏効率が閾値の30%を超えた場合に臨床的に意義があるとみなした。手術を行って、viableな腫瘍細胞がなく断端陰性のものはCRとみなした。奏効期間と無増悪生存期間はKaplan-Meier法を用いた。

 2015年の3月から2017年の2月まで測定可能病変をもつTRK融合遺伝子陽性の患者55人が登録された。

 登録された癌種は乳腺相似分泌癌(12例)、乳児型線維肉腫(7例)、甲状腺腫瘍(5例)、結腸癌(4例)、肺癌(4例)、メラノーマ(4例)、消化管間質腫瘍(3例)、および、その他の癌(16例)であった。このような患者登録には、唾液腺癌および乳児型線維肉腫にTRK融合遺伝子が認められることが知られていることが影響していると考えられる。TRK融合には、TRKA(NTRK1)(45%)、TRKB(NTRK2)(2%)およびTRKC(NTRK3)(53%)と、その他14の遺伝子が含まれていた。これらのTRK融合遺伝子は15施設で次世代シークエンスやFISHで同定された。

 データカットオフは2017年7月17日に行われた。中央判定では奏効率は75%(95% CI: 61-85)であった。CRは13%(7例)、PRは62%(34例)、SDは13%(7例)、PDが9%(5例)であった。

 Investigatorの評価では奏効率は80%(95% CI: 67-90)であった。奏効は腫瘍の種類、患者の年齢、TRK融合遺伝子に関係なく認められた。奏効までの平均期間は、1.8ヵ月(範囲0.9〜6.4)であり、初回の評価期間とほぼ同じであった。局所進行乳児型線維肉腫を有する2人の子供は十分な腫瘍縮小を示し、治癒切除が可能になった。R0切除ができ、4.8ヵ月または6.0ヵ月の間Larotrectinibによる治療は行っていないが、再発は認められていない。

 奏効期間の中央値は8.3ヵ月(範囲0.03+〜24.9+:+はデータカットオフ時点で継続中を意味する)で未到達であった。無増悪生存期間中央値も9.9ヵ月(範囲0.7〜25.9+)で観察期間では未到達であった。投与1年では71%が奏効を持続しており、55%の患者が無増悪であった。カットオフ時では奏効した患者のうち86%の患者が治療を継続しているか根治目的の手術を受けていた。最も長期間奏効を認めている患者は最初に治療を受けたTRK融合遺伝子陽性患者で、この患者は今もなお治療を受けて27ヵ月になる。

 臨床的に重大な有害事象はまれであり、有害事象の多く(93%)がgrade 1またはgrade 2であった。Grade 3以上の有害事象としては貧血(11%)、ASTまたはALT上昇(7%)、体重増加(7%)、および好中球数減少(7%)であった。治験薬が関連していると判断されたgrade 4または5の有害事象はなく、5%以上の患者に認められた治療に関連するgrade 3の有害事象は認められなかった。

 55人の患者のうち、8人(15%)はLarotrectinibの減量投与がなされた。用量減少につながる有害事象は、ASTまたはALTの上昇(4人)、めまい(2人)、好中球数減少(2人)であった。原因となった有害事象は全てgrade 2またはgrade 3であった。減量投与したすべての症例において、低用量で奏効を維持した。奏効した患者で有害事象のためにLarotrectinibを中止した患者はいなかった。

 最良総合評価がPDである6人の患者の一次耐性のメカニズムを探索した。1人の患者は以前に別のTRK阻害薬で治療されており、Larotrectinib投与前の腫瘍の解析ではキナーゼドメインのATP結合部位にNTRK3 G623R変異が認められた。NTRK3 G623R変異およびそのパラログであるNTRK1 G595Rは、"solvent front"変異と呼ばれており、キナーゼドメインのヌクレオチド結合ループの親水性溶媒部分を改変し、Larotrectinibの結合を立体的に妨げ、Larotrectinibの阻害効力を低下させる4)。また残り5人のうちの3人の腫瘍検体を解析したところ、中央判定の免疫染色ではTRK遺伝子融合が認められなかった。これは実施施設の検査が偽陽性または認められた遺伝子融合がタンパク質を発現しなかったことが原因と考えられる。これらが奏効しなかった原因と考えられた。

 Larotrectinibに対する獲得耐性も調べられた。獲得耐性は6ヵ月以上の奏効またはSDのあとの病勢増悪と定義され、10人の患者に認められた。病勢増悪後に血漿または腫瘍検体が得られた9人すべての患者からNTRK遺伝子に影響を及ぼすキナーゼドメインの遺伝子変異が同定された。Solvent front position、gatekeeper position、xDFG positionでキナーゼドメインの遺伝子変異が認められ、これらはほかのキナーゼ阻害薬で報告のあるものであった5,6)。3人の患者では2つ以上の変異が認められた。獲得耐性が現れた10人の患者のうち8人の患者でclinical benefitがあると判断され、病勢増悪後も治療が継続された。

 本研究ではTRK融合遺伝子陽性患者に対するLarotrectinibの有効性が示された。有害事象も軽微であり、本研究のpopulationに対して有望な薬剤と考えられる。また耐性機序についても調べられており、今後は耐性を克服するための治療戦略も考えていく必要がある。


日本語要約原稿作成:近畿大学医学部内科学腫瘍内科部門 武川 直樹



監訳者コメント:
Precision Medicineが目指すもの:The Right Drug, the Right Patient, and the Right Timing

 本論文では、TRK融合遺伝子に対し、その阻害剤であるLarotrectinibの高い有効性(investigator評価で80%、中央評価で75%の奏効率)が、生後4ヵ月から76歳までと幅広い年齢の患者において、また癌種を超えて認められることが報告された。次世代シークエンスによる網羅的な遺伝子スクリーニングによってバイオマーカーをもつ患者を抽出し(Right Patient)、その患者に対して適切な薬剤を投与すれば(Right Drug)望ましい結果が得られることを示した、いわゆる「precision medicine」の成功例といえる。今回の試験はPS 0-3とさまざまな状態の患者が参加した試験であったが、臨床試験の適格条件によっては遺伝子スクリーニングを行う時期も重要である(Right Timing)。さらにPD例におけるde novo耐性や獲得耐性の分子生物学的機序についても追加検討を行っている点も評価できる(これもRight Timingといえよう)。「効くべき人でなぜ効かなかったのか」の検討こそが、次の新しい治療開発の重要なきっかけになりうる。

 TRK融合遺伝子は肺癌、胃癌、大腸癌など一般的な癌患者では〜1%に生じる一方、唾液腺癌、乳児型線維肉腫のような稀な癌では高率に認められる遺伝子異常である。癌がもつ特定の遺伝子異常をターゲットとする分子標的薬が現在の薬剤開発の中心にあるが、一方で"actionable"、"druggable"なターゲットはこれまでに開発が進み、残されているのは、今回のTRK融合遺伝子のように癌患者全体に占める割合が極めて低い遺伝子異常となりつつある。このようなターゲットに関しては、バスケット試験のように癌種を超えて症例を集積するデザインが有効であり、今後こうした試験は増えていく傾向にあると考えられる。

  •  1) Chao MV: Nat Rev Neurosci. 4(4): 299-309, 2003 [PubMed]
  •  2) Russell JP, et al.: Oncogene. 19(50): 5729-5735, 2000 [PubMed]
  •  3) Tognon C, et al.: Cancer Cell. 2(5): 367-376, 2002 [PubMed]
  •  4) Drilon A, et al.: Cancer Discov. 7(9): 963-972, 2017 [PubMed]
  •  5) Katayama R, et al.: Sci Transl Med. 4(120): 120ra17, 2012 [PubMed]
  •  6) Kobayashi S, et al.: N Engl J Med. 352(8): 786-792, 2005 [PubMed]

監訳・コメント:近畿大学医学部内科学腫瘍内科部門 川上 尚人

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