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1月
監修:静岡県立静岡がんセンター 消化器内科 医長 山ア 健太郎

大腸癌

Stage III結腸癌における予後因子としての原発部位とRASBRAF変異の関連


Taieb J, et al.: JAMA Oncol. November 22, 2017 [Epub ahead of print]

 近年、マイクロサテライト不安定性(MSI)、KRASBRAF等の分子生物学的要素は、転移を有さない大腸癌において予後因子であることが提唱されており、将来実施される術後補助療法における層別因子として用いられることが予想される1)

 転移性大腸癌において原発部位が予後因子であることが、ここ数十年報告により明らかとなってきているものの、Stage III結腸癌においてもそれが当てはまるかどうかは不明である。また、近年報告されている転移性大腸癌の原発部位は、抗EGFR抗体が投与された患者を対象としており、RAS変異の患者における原発部位の報告は極めて少ない。さらに、転移性大腸癌では、左側結腸に対する抗EGFR抗体薬は、より効果が大きくなることが報告されている2)

 そこで、Stage III大腸癌の術後補助化学療法としてFOLFOX療法もしくはFOLFOX+Cetuximab療法を受けた患者を対象とし、腫瘍占拠部位(右側 vs. 左側)と無病生存期間(DFS)、全生存期間(OS)、再発後の予後の関連を検討した。さらに、MSI、RASBRAFステータスと治療レジメンによる検討も行った3,4)

 本研究はThe Pan-European Trials in Alimentary Tract Cancer(PETACC-8)試験に登録された患者の中で腫瘍検体が得られた患者を対象としている。PETACC-8試験は、術後病理診断にてStage IIIの結腸腺癌と診断された患者を、6ヵ月間のFOLFOX療法群もしくはFOLFOX+Cetuximab療法群に無作為化割り付けした5)。なお、原発部位は脾弯曲を境界として左側と右側に分類した。

 腫瘍検体は、前向きにバンキングされ、MSI、KRASNRASBRAFが測定された。DFS、OS、再発後の生存期間(survival after recurrence: SAR)の曲線は、カプランマイヤー法で推定し、両群の差はログランク検定、COXモデルを用いた。p値は、片側検定で0.05未満を有意差有りとした。

 無作為化された2,559名のうち、1,900名が次世代シークエンス法により測定された。その中で1,869名の腫瘍占拠部位が判明した。755名(40%)が右側結腸、164名(10%)がMSI変異あり、942名(50%)がRAS変異あり、212名(11%)がBRAF変異ありであった。

 左側結腸癌と右側結腸癌の3年DFS割合は、それぞれ75.5%(95% CI: 72.5-77.6)と74.3%(95% CI: 71.0-77.3)であり両者に有意差を認めなかった(HR=1.00、95% CI: 0.85-1.19、p=0.98)。しかし、SARとOSは左側結腸のほうが良好であり、5年SAR割合は左側で31.1%(95% CI: 24.9-37.6)に対して右側では18.6%(95% CI: 12.3-25.8)(HR=1.54、95% CI: 1.23-1.93、p=0.0001)、5年OSは左側で84.2%(95% CI: 81.8-86.3)に対し右側は78.6%(95% CI: 75.4-81.5)であった(HR=1.25、95% CI: 1.02-1.54、p=0.03)。

 多変量解析では、以下の項目においてDFSが短くなる傾向にあった。病理組織学的にgrade 3または4、TNM分類にてpT3、pT4またはpN2、RAS変異、ECOG PS1または2、腸閉塞もしくは穿孔があった場合。また、OSを悪化させる因子は以下であった。病理組織学的にgrade 3または4、TNM分類にてpT3、pT4 またはpN2、RAS変異、ECOG PS1または 2、腸閉塞もしくは穿孔があった場合、マイクロサテライト不安定性がない(microsatellite-stable: MSS)。さらに、右側結腸に限れば、病理組織学的にgrade 3または4、pN2、BRAF変異、がSARの悪化に関連していた。

 MSSとMSIを比較した場合、右側結腸と左側結腸でDFSに有意差を認めなかった。RASBRAFのdouble wild typeでは、右側結腸は左側結腸と比較しDFSが短くなる傾向にあり、3年DFS割合は右側結腸で75.7%に対して左側結腸は81.9%であった(HR=1.39、95% CI: 1.01-1.92、p=0.04)。しかし、病理組織学的なgradeや切除後検体の病理学的深達度、リンパ節転移、ECOG PS、腸閉塞と腸管穿孔の有無で調整した場合に有意な差を認めなかった(HR=1.22、95% CI: 0.86-1.72、p=0.27)。

 RAS変異に関しては、右側結腸においてDFSが長くなり、3年DFS割合は右側結腸で73.4%(95% CI: 71.2-75.6)、左側結腸は69.6%(95% CI: 67.6-71.6)であった(HR=0.80、95% CI: 0.64-1.00、p=0.046)。これらの結果は、病理組織学的なgradeや深達度、リンパ節転移、ECOG PS、腸閉塞と腸管穿孔で調整した場合にも有意差を認めた(HR=0.75、95% CI: 0.59-0.95、p=0.02)。BRAF変異についても同様の傾向が認められた。

 治療内容で分けた場合、FOLFOX群とFOLFOX+Cetuximab群を比較すると、原発部位とDFS、OS、SARの関係は全体での結果と同様であった。また、double wild typeについて検討すると、FOLFOX群とFOLFOX+Cetuximab群を比較したがDFSに有意差はなく、右側と左側それぞれの解析でも差を認めていない[右側でのDFS(HR=0.89、95% CI: 0.78-1.26、p=0.94)、左側でのDFS(HR=0.84、95% CI: 0.59-1.21、p=0.34)]。

 本研究では、右側結腸のほうが高齢で組織学的に未分化である傾向にあり、静脈やリンパ管侵襲、MSIやBRAF変異も多かった6,7)。同様に、再発した場合は右側結腸で予後不良であった。これらの結果は、転移性大腸癌における原発部位が予後因子となり得るという報告に一致していた2)。一方、再発までの期間に注目した場合、右側結腸はRASBRAF変異があるほうがDFSは長い傾向にあり、double wild typeでは既報通り右側結腸でDFSは短かった。

 腫瘍占拠部位が、RAS野生型の転移性大腸癌患者に対する化学療法とCetuximabの併用療法の効果予測因子であることが近年報告されている2,8-11)。しかし、本試験の結果、Stage III結腸癌に対しては、左側結腸も右側結腸もCetuximabの上乗せ効果は認めておらず、腫瘍占拠部位は効果予測因子ではなかった。

 以上の結果より、全体でみると腫瘍占拠部位はDFSと関連がないように思われる。しかし、RAS/BRAFのdouble wild typeとRAS変異ありのそれぞれの集団において、腫瘍占拠部位はDFSと関連しており、両者で反対の関連を認めた。本研究ではBRAF変異とMSIの患者数が少ないため、今後、より正確なデータを得るためには、分子生物学的解析が実施された術後補助化学療法の臨床試験データを用いた、consensus molecular subtypes12)の予後因子を考慮した大規模な解析が必要である。


日本語要約原稿作成:国立がん研究センター中央病院 消化管内科 伊藤 卓彦



監訳者コメント:
現時点でStage III結腸癌の術後補助療法におけるバイオマーカーは確立していない

 大腸癌において腫瘍占拠部位が予後因子であること、また生物学的特徴が異なることは以前より報告されていたものの、腫瘍占拠部位をもとにした治療選択は行われておらず腫瘍占拠部位は脚光を浴びていなかった。しかし、治癒切除不能大腸癌一次治療において、BevacizumabとCetuximabを比較した第III相試験であるFIRE-3試験およびCALGB/SWOG 80405試験の追加解析の結果、腫瘍占拠部位が予後因子であり効果予測因子であることが報告されて以降、腫瘍占拠部位は治療選択を行う上で重要な因子となった。実際、NCCNやESMOガイドラインでは、治癒切除不能大腸癌に対する一次治療において、腫瘍占拠部位をもとにしたBevacizumabと抗EGFR抗体薬の使い分けが記載されている。また、腫瘍占拠部位によりMSI、RASBRAFPIK3CA等の分子生物学的特徴が異なることが報告されており、腫瘍占拠部位はこれらの有望な代替マーカーと考えられている。

 本論文は、Stage III結腸癌を対象として行われたPETACC-8試験のデータを用いて腫瘍占拠部位とKRASBRAF、MSIとDFS、SAR、OSとの関連を検討した追加解析の報告である。右側結腸と左側結腸を比較するとDFSでは大きな差を認めなかったものの、再発後の予後は右側結腸が悪く、再発後の予後が悪いことで全体の予後も右側結腸が悪いことが示唆された。これは、治癒切除不能大腸癌において右側結腸が予後不良因子であるとの既報と一致しており、Stage III結腸癌においても、腫瘍占拠部位が予後因子であることが示されたことになる。RAS/BRAFのdouble wild typeにおけるDFSは左側結腸が良好であるが、RAS変異におけるDFSは、右側が良好であることが示されている。また残念ながら、Cetuximabの上乗せ効果は、RAS/BRAFのdouble wild typeにおいても腫瘍占拠部位に関係なく有効性は示されなかった。なお、MSI/MSSそれぞれのグループにおいて、腫瘍占拠部位とDFS/OS/SARに関連を認めていない。

 Stage III結腸癌に対する術後補助化学療法の世界的な標準治療は、フッ化ピリミジンとOxaliplatinの併用療法である。一方、本邦では、Stage III全例にOxaliplatinが併用されているわけではなく、リスクに応じてOxaliplatinが併用されている。本試験結果をもとにすると、DFSでは差は認めないものの予後不良であることを考慮すると右側結腸に対しては、より積極的にOxaliplatinの併用を検討しても良いであろう。IDEA試験が報告され、術後補助化学療法の期間が6ヵ月から3ヵ月へ短縮されることが議論されているが、腫瘍占拠部位に関する報告はされておらず追加解析の結果を待ちたい。

 現時点でStage III結腸癌の術後補助療法における有望なバイオマーカーは確立していない。本論文ではRAS/BRAF/MSIが検討されたが残念ながら日常診療を変えうる結果は得られなかった。今後のさらなる検討により、より有望なバイオマーカーの開発が望まれる。

  •  1) Taieb J, et al.: J Natl Cancer Inst. 109(5): djw272, 2016 [PubMed]
  •  2) Arnold D, et al.: Ann Oncol. 28(8):1713-1729, 2017 [PubMed]
  •  3) Taieb J, et al.: JAMA Oncol. 2(5): 643-653, 2016 [PubMed]
  •  4) Taieb J, et al: Ann Oncol. 28(4):824-830, 2017 [PubMed]
  •  5) Taieb J, et al.: Lancet Oncol. 15(8):862-873, 2014 [PubMed]
  •  6) Benedix F, et al.: Dis Colon Rectum. 53(1):57-64, 2010 [PubMed]
  •  7) Jess P, et al.: BMJ Open. 3(5): e002608, 2013 [PubMed]
  •  8) Venook AP, et al.: J Clin Oncol. 34(15_suppl): 3504-3504, 2016
  •  9) Heinemann V, et al.: J Clin Oncol. 32(15_suppl): 3600-3600, 2014
  • 10) Douillard JY, et al.: J Clin Oncol. 28(31):4697-4705, 2010 [PubMed]
  • 11) Schwartzberg LS, et al.: J Clin Oncol. 32(21):2240-2247, 2014 [PubMed]
  • 12) Guinney J, et al.: Nat Med. 21(11):1350-1356, 2015 [PubMed]

監訳・コメント:国立がん研究センター中央病院 消化管内科 島 淳生

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