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1月
監修:静岡県立静岡がんセンター 消化器内科 医長 山ア 健太郎

胃癌

初回治療後に増悪した進行胃癌患者におけるOlaparibとPaclitaxel併用療法の第III相試験(GOLD試験)


Bang YJ, et al.: Lancet Oncol. 18(12): 1637-1651, 2017

 胃癌においてプラチナ製剤とフッ化ピリミジン製剤による標準初回治療後の選択肢は乏しい1)。Paclitaxelは二次治療として広く使用されており、本試験開始後にはPaclitaxelとRamucirumabの併用療法が各国で承認された2,3)。Paclitaxel+Ramucirumabにより全生存期間(OS)の延長が達成されたが、初回治療後に増悪した進行胃癌患者に対するより有効かつ忍容性の高い治療開発は必要である。

 Olaparibは、経口のpoly(ADP-ribose) polymerase(PARP)阻害剤であり、DNA塩基除去修復を阻害する。Olaparibは相同組み換え修復異常のある腫瘍に対して合成致死を起こし、BRCA変異陽性の進行卵巣癌患者に対して40ヵ国以上で承認されている4)。進行胃癌のアジア人患者を対象に二次治療としてPaclitaxel+Olaparib vs. Paclitaxel+プラセボを比較したphase IIのStudy 39試験では、主要評価項目である無増悪生存期間(PFS)の延長は認めなかったが、副次的評価項目であるOSの有意な延長を認めた5)。その延長効果は、DNA二本鎖損傷応答の重要なアクチベーターであるataxia-telangiectasia mutated protein(ATM)陰性患者において顕著であった6,7)。よって、ATMもBRCA同様に相同組み換え修復に関与するため、ATM陰性腫瘍においてOlaparibの有効性が期待される5)。転移性胃癌患者の最大22%においてATM発現が低下または陰性と報告されている8)。今回のGOLD試験は、Study 39試験の後続として、アジア人における初回治療後に進行した進行胃癌を対象とした、Paclitaxel+Olaparib vs. Paclitaxel+プラセボの二重盲検無作為化第III相試験である。

 本試験は、アジア(中国、日本、韓国、台湾)で施行された。対象は、18歳以上(日本のみ20歳以上)のフッ化ピリミジン製剤とプラチナ製剤の併用による初回治療後または治療中に病勢進行を認めた食道胃接合部癌を含む胃癌患者である。

 対象患者群は、全患者とATM陰性患者の2つが設定された。全患者は、Paclitaxel+OlaparibかPaclitaxel+プラセボに1:1に無作為化割り付けされた。ATM陰性患者の同定は、無作為化後に完了した。層別化は行われなかった。治療内容は、Paclitaxel(80 mg/m2、day 1, 8, 15、4週毎)、Olaparib(1回100 mg、1日2回、day 1, 8, 15、4週毎)であった。Paclitaxelが病勢進行以外の理由で中止になった場合、Olaparib の1回投与量は300 mgに変更された。腫瘍の画像評価はRECISTに、有害事象判定はCTCAE version 4.0に基づいて行われた。ATM蛋白発現は、ATMに対するウサギモノクローナル抗体を用いた免疫染色によるVentana ATM(Y170)assayにより評価された。判定に際し、100個以上の腫瘍細胞の核の染色状態が評価され、25%以上にweak以上の強度の染色を認める場合を陽性、それ以外を陰性と定めた。

 主要評価項目は全患者もしくはATM陰性患者におけるOS、副次的評価項目はPFS、RR、EORTC QLQ-C30 global HRQoL scaleによるHRQoL悪化までの期間、安全性、忍容性であった。統計解析では、全患者とATM陰性患者の2つを対象患者群としており、両者においてtype Iエラーの確率を5%に保つためHochberg法が用いられた9)。Hochberg法による全患者、ATM陰性患者のOSの有意差検定には、p<0.025と97.5%信頼区間(CI)が必要であった。

 2013年9月3日〜2016年3月28日(データカットオフ時)の間に643人が登録され、Paclitaxel+Olaparib(Olaparib群)に263人、Paclitaxel+プラセボ(プラセボ群)に262人の合計525人(82%)が無作為化割り付けされた。データカットオフ時、Olaparib群181人(69%)、プラセボ群200人(76%)が死亡していた。ATM発現は、490人(93%)で確かめられた。94人(18%)がATM陰性(Olaparib群48人、プラセボ群46人)であった。35人(7%)でATM発現は不明であった。データカットオフ時、Olaparib群29人(60%)、プラセボ群35人(76%)が死亡していた。

 有効性について、全患者におけるOS中央値はOlaparib群8.8ヵ月(95% CI: 7.4-9.6)、プラセボ群6.9ヵ月(95% CI: 6.3-7.9)であり、両群に有意差は認めなかった(HR=0.79、97.5% CI: 0.63-1.00、p=0.026)。ATM陰性患者におけるOS中央値はOlaparib群12.0ヵ月(95% CI: 7.8-18.1)、プラセボ群10.0ヵ月(95% CI: 6.4-13.3)であり、両群に有意差は認めなかった(HR=0.73、97.5% CI: 0.40-1.34、p=0.25)。

 全患者におけるPFS中央値はOlaparib群3.7ヵ月(95% CI: 3.7-4.2)、プラセボ群3.2ヵ月(95% CI: 2.2-3.5)であり、両群に有意差は認めなかった(HR=0.84、97.5% CI: 0.67-1.04、p=0.065)。ATM陰性患者におけるPFS中央値はOlaparib群5.3ヵ月(95% CI: 3.5-9.0)、プラセボ群3.7ヵ月(95% CI: 1.9-5.3)であり、両群に有意差は認めなかった(HR=0.74、97.5% CI: 0.42-1.29、p=0.22)。

 また、全患者におけるRRはOlaparib群24%、プラセボ群16%であり、両群に有意差は認めなかった(Odds ratio=1.69、97.5% CI: 0.92-3.17、p=0.055)。ATM陰性患者におけるRRはOlaparib群38%、プラセボ群16%であり、両群に有意差は認めなかった(Odds ratio=4.24、97.5% CI: 0.95-23.23、p=0.031)。

 HRQoLについても両群に有意差を認めなかった。プロトコルに規定された探索的サブグループ解析(ATM発現[negative、positive、unknown]、国、胃切除状態、転移数、原発部位、性別、病変の広がり、測定可能病変の有無、PS、組織型、年齢、前プラチナ製剤治療における最良効果、ATM発現[null、not null])においても両群に差を認めなかった。

 全gradeの有害事象は、Olaparib群とプラセボ群で各々、好中球減少症(47% vs. 42%)、脱毛(42% vs. 45%)、貧血(39% vs. 24%)、食欲不振(33% vs. 27%)、悪心(29% vs. 25%)であった。Grade 3以上の有害事象は、好中球減少症(30% vs. 23%)、白血球減少症(16% vs. 10%)、貧血(15% vs. 7%)、発熱性好中球減少症(3% vs. 2%)、末梢神経障害(2% vs. 2%)であった。Investigator判断の重篤な全有害事象は、Olaparib群35%とプラセボ群25%であった。治療関連死は、Olaparib群における肝障害1例とプラセボ群における心不全1例であった。

 以上のように、フッ化ピリミジン製剤とプラチナ製剤併用による初回治療後に増悪した進行胃癌全患者、ATM陰性患者ともに、OSについてPARP阻害剤OlaparibのPaclitaxelへの併用効果は認めなかった。


日本語要約原稿作成:九州大学病院 血液・腫瘍・心血管内科 土橋 賢司



監訳者コメント:
胃癌におけるATM発現の有無はOlaparibの効果予測因子とは言えず

 Olaparibはプラチナ製剤感受性再発卵巣癌の維持療法として2018年1月19日に国内における製造販売承認を取得した。また、BRCA遺伝子変異陽性、HER2陰性の手術不能または再発乳癌に対し、2018年1月12日に米国食品医薬品局(FDA)が承認しており、国内では2017年10月23日に承認申請が行われている。

 胃癌領域においても第II相試験の結果から、特に作用機序からはATM陰性例での効果が期待されたが、GOLD試験の結果、全体集団でもATM陰性例でも有意差を示せなかった。実際のところOS中央値はOlaparib併用群では全体集団で1.9ヵ月、ATM陰性例で2.0ヵ月と同程度の上乗せ効果を示しており、ATMが効果予測因子となるか否かは再検討の余地がある。一方で、非併用群のOS中央値は全体群で6.9ヵ月、ATM陰性例で10.0ヵ月という結果であり、ATMと予後との関連が示唆されるがATM陰性例の症例数が少ないため明確ではない。そのほか、本試験がnegativeな結果に終わった要因としてOlaparibの投与量が他癌種と異なること、統計学的設定でeffect sizeを大きく見積もってしまったこと、ATMの測定系が第II相試験とGOLD試験で異なっていたことなどが考えられるが、実際のところは不明である。今後のさらなるバイオマーカーの探索が期待される。

  •  1) Wilke H, et al.: Lancet Oncol. 15(11): 1224-1235, 2014 [PubMed]
  •  2) Hironaka S, et al.: J Clin Oncol. 31(35): 4438-4444, 2013 [PubMed]
  •  3) National Comprehensive Cancer Network. NCCN Guidelines for Gastric Cancer.1.2014 - Follow-up 04/29/14. 2014
  •  4) O'Connor MJ: Mol Cell. 60(4): 547-560, 2015 [PubMed]
  •  5) Bang YJ, et al.: J Clin Oncol. 33(33): 3858-3865, 2015 [PubMed]
  •  6) Kurz EU, et al.: DNA Repair. 3(8-9): 889-900, 2004 [PubMed]
  •  7) Goodarzi AA, et al.: Int J Mol Sci. 13(9): 11844-11860, 2012 [PubMed]
  •  8) Kim HS, et al.: Pathobiology. 80(3): 127-137, 2013 [PubMed]
  •  9) Hochberg Y: Biometrika. 75(4): 800-802, 1988

監訳・コメント:JCHO九州病院 血液・腫瘍内科 牧山 明資

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