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2009年1月〜2015年12月の論文紹介
2003年1月〜2008年12月の論文紹介

8月
監修:愛知県がんセンター中央病院 薬物療法部 医長 谷口 浩也

大腸癌

KRAS野生型切除不能進行大腸癌に対する一次治療におけるCetuximab併用化学療法とBevacizumab併用化学療法の無作為化第III相比較試験(CALGB 80405試験)


Venook AP, et al.: JAMA 317(23): 2392-2401, 2017

 1990年代では大腸癌に対する化学療法として5-FUのみが効果的であり、全生存期間は12〜15ヵ月程度であった1,2)。その後FOLFIRIレジメンやmFOLFOX6レジメンの開発により全生存期間は18〜20ヵ月に延長した3,4)

 上皮成長因子受容体のモノクローナル抗体であるCetuximabや血管内皮細胞増殖因子に対する抗体薬であるBevacizumabは従来の殺細胞薬との併用が可能で、しかも殺細胞薬を単独で使用する場合よりも効果を示す5)。しかし、一次治療においてCetuximabとBevacizumabのどちらの併用が最適であるのかは明らかではない。

 そこでKRAS野生型の切除不能進行大腸癌に対してmFOLFOX6やFOLFIRIレジメンに上乗せする抗体薬としてCetuximabとBevacizumabのどちらが有用かを検討する無作為化第III相比較試験として本試験が行われた。

 本試験はCALGB 80405試験として、2005年9月より開始された。当初はKRAS変異の有無にかかわらず登録可能であったが、KRAS変異例には抗EGFR抗体薬が無効であることが明らかとなり、2008年11月からはKRAS codon 12、13の野生型を対象とするように変更となった6)。また当初はCetuximab併用群とBevacizumab併用群、そして両者の併用群の3群で開始されたが、他の試験にて抗EGFR抗体薬とBevacizumabの併用の有効性が示されなかったため、2009年9月からはCetuximab投与群とBevacizumab投与群の2群で試験が継続された7,8)

 主な適格基準は、18歳以上、ECOG PS 0または1、臓器機能が保たれていること、術後補助化学療法例では再発までの期間が12ヵ月以上経過していること、などであった。

 併用する化学療法としてmFOLFOX6かFOLFIRIを用いるかは患者、もしくは主治医判断で決定された。mFOLFOX6併用かFOLFIRI併用か、術後補助化学療法の有無、骨盤内の放射線治療の既往が層別因子とされた。

 Cetuximabの初回投与量は400 mg/m2、2回目以降は250 mg/m2、Bevacizumabの投与量は5 mg/kgとされた。

 主要評価項目は全生存期間で、副次評価項目は無増悪生存期間、奏効率とされた。Cetuximab群の全生存期間の中央値を27.5ヵ月、Bevacizumab群の全生存期間の中央値を22ヵ月(HR=0.80)と設定し、両側α=0.05、検出力を90%として、必要症例数は1,142例、主要評価項目のイベント数は849イベントと設定された。

 なお、本試験では、全体のイベント数の15%が確認された後に、6ヵ月ごとに中間解析が行われ、11回目の中間解析により2014年1月結果が公表された。

 計1,137例のKRAS野生型の患者が無作為に割り付けられ、Cetuximab群は559例、Bevacizumab群は578例であった。

 患者背景について、全体の年齢中央値は59.1歳(範囲20.8〜89.5歳)、男性は61.3%、ECOG PS 0が57.8%、PS 1が42.0%、原発巣ありが25.7%でいずれも両群間に差を認めなかった。また、人種や原発巣の部位についても両群間で差を認めなかった。層別因子について、併用化学療法のレジメンとしてmFOLFOX6療法が施行された割合は73.4%、FOLFIRI療法は26.6%、術後化学療法の施行割合は14.1%、骨盤内の照射が施行された割合は9.0%で、これらについても両群間で差を認めなかった。

 観察期間中央値47.4ヵ月において、全生存期間の中央値は、Cetuximab併用群で30.0ヵ月、Bevacizumab併用群で29.0ヵ月であった(HR=0.88、95% CI: 0.77-1.01、p=0.08)。無増悪生存期間の中央値は、Cetuximab併用群で10.5ヵ月、Bevacizumab併用群で10.6ヵ月であった(HR=0.95、95% CI: 0.84-1.08、p=0.45)。奏効率は、Cetuximab併用群で59.6%、Bevacizumab併用群で55.2%であった(p=0.13)。

 薬物療法と手術により腫瘍の消失が得られた患者は140人で、その患者群における全生存期間の中央値はCetuximab併用群で64.7ヵ月(95% CI: 51.6ヵ月-Not Reached)、Bevacizumab併用群で62.2ヵ月であった(95% CI: 49.4ヵ月-Not Reached)。

KRAS codon 12、13以外のRAS変異の解析が可能で、All RAS野生型と判明した症例においては、無増悪生存期間の中央値はCetuximab群(270例)で11.2ヵ月、Bevacizumab群(256例)で11.0ヵ月であった(HR=1.03、95% CI: 0.86-1.24、p=0.71)。

 mFOLFOX6併用例では、全生存期間の中央値はCetuximab併用群(426例)で30.1ヵ月、Bevacizumab群(409例)で27.7ヵ月であり、差が認められた(HR=0.83、95% CI: 0.71-0.98、p=0.03)。FOLFIRI併用例では、全生存期間の中央値はCetuximab群(152例)で29.1ヵ月、Bevacizumab群(150例)で32.2ヵ月であった(HR=1.04、95% CI: 0.79-1.35、p=0.76)。

 解析対象となった1,137人のうち、1,092人(96%)に少なくとも1つの有害事象が認められた。584人(53%)はgrade 3以上、153人(14%)はgrade 4以上の有害事象が認められた。10%以上の頻度で認められる有害事象の発症頻度については両群間で有意差は認められなかった。Grade 2以下の有害事象については、Cetuximab群ではざ瘡様皮疹、Bevacizumab群では高血圧が多く認められた。

 60日以下の死亡率はCetuximab群で2.0%、Bevacizumab群で1.4%であり、有意差は認められなかった。

 以上のように、KRAS野生型の切除不能進行大腸癌の一次治療におけるCetuximab併用療法とBevacizumab併用療法は、全生存期間における有意差は認められなかった。


日本語要約原稿作成:東北大学病院 腫瘍内科 小峰 啓吾



監訳者コメント:
大腸癌一次治療の抗EGFR抗体 対 抗VEGF抗体を検証した最大規模の第III相試験

 RAS野生型切除不能進行大腸癌一次治療において、抗EGFR抗体と抗VEGF抗体のどちらを使用すべきかの論議が近年活発であったが、明確なコンセンサスは定まっていなかった。

 欧州での第III相試験のFIRE-3試験ではFOLFIRI+Cetuximab群がFOLFIRI+Bevacizumab群に対して、RAS野生型の解析にて、全生存期間での優越性が示されている9,10)。またランダム化第II相試験ながら、PEAK試験ではmFOLFOX6+Panitumumab群がmFOLFOX6+Bevacizumab群に対して、全生存期間の優越性の傾向が示されている11,12)。しかし、両試験ともに全生存期間は主要評価項目ではなかったこともあり、RAS野生型全ての患者で抗EGFR抗体を一次治療で使用すべきという結論にまでは至っていなかった。

 本試験は、北米で行われた大腸癌一次治療における化学療法+Cetuximabと化学療法+Bevacizumabの比較試験である。試験開始当初はKRAS変異にかかわらず患者が登録されていたが、2008年からKRAS野生型のみが対象とされた。主要評価項目である全生存期間について、KRAS野生型、さらに、RAS野生型においても統計学的有意差を認めなかった。登録期間が長く途中で試験デザインが変更されている、化学療法がFOLFOXとFOLFIRIが混在している、などの、結果の解釈が複雑になりうる点はある。ただし、最も重視すべき点は、本試験は主要評価項目を全生存期間とし、さらに前述のFIRE-3やPEAK試験より登録患者数が多く、大腸癌で抗EGFR抗体治療と抗VEGF抗体治療を比較したこれまでで最大規模の第III相試験であったことである。この結果により、現時点では、RAS野生型大腸癌の全体を対象とした場合、抗EGFR抗体と抗VEGF抗体のいずれを一次治療に用いても良いという考えが妥当と思われる。

 ただし、最近、原発部位、つまり左側結腸原発か右側結腸原発かが抗EGFR抗体の有効性を予測するバイオマーカーとなりうることが本試験も含めた複数の試験の後解析として報告されている13)。右側結腸では抗EGFR抗体の有効性がほとんど期待できず、左側結腸では抗EGFR抗体の有効性がより大きい。これらの結果から、現時点では、RAS野生型の一次治療で抗EGFR抗体を用いる場合、左側結腸原発例に限定することは妥当と思われる。しかしながら、原発部位という解剖学的因子のみでは、抗EGFR抗体という分子標的治療での正確な効果予測バイオマーカーとはならないことも明らかである。RASや原発部位に加えて、より精度の高い分子バイオマーカーの開発が切に望まれる。

  •  1) J Clin Oncol. 10(6): 896-903, 1992 [PubMed]
  •  2) O'Dwyer PJ, et al.: J Clin Oncol. 8(9): 1497-1503, 1990 [PubMed]
  •  3) Douillard JY, et al.: Lancet. 355(9209): 1041-1047, 2000 [PubMed]
  •  4) De Gramont A, et al.: J Clin Oncol. 18(16): 2938-2947, 2000 [PubMed]
  •  5) Saltz LB, et al.: J Clin Oncol. 26(12): 2013-2019, 2008 [PubMed]
  •  6) Lièvre A, et al.: J Clin Oncol. 26(3): 374-379, 2008 [PubMed]
  •  7) Tol J, et al.: N Engl J Med. 360(6): 563-572, 2009 [PubMed]
  •  8) Hecht JR, et al.: J Clin Oncol. 27(5): 672-680, 2009 [PubMed]
  •  9) Heinemann V, et al.: Lancet Oncol. 15(10): 1065-1075, 2014 [PubMed]
  • 10) Stintzing S, et al.: Lancet Oncol. 17(10): 1426-1434, 2016 [PubMed]
  • 11) Schwartzberg LS, et al.: J Clin Oncol. 32(21): 2240-2247, 2014 [PubMed]
  • 12) Rivera F, et al.: Int J Colorectal Dis. 32(8): 1179-1190, 2017 [PubMed]
  • 13) Arnold D, et al.: Ann Oncol. 28(8): 1713-1729, 2017 [PubMed]

監訳・コメント:東北大学加齢医学研究所臨床腫瘍学分野 高橋 雅信

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