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7月
監修:愛知県がんセンター中央病院 薬物療法部 医長 谷口 浩也

食道癌

食道癌に対するNivolumab治療(ONO-4538-07)


Kudo T, et al.: Lancet Oncol. 18(5): 631-639, 2017

 欧州や米国における食道癌の組織型はこの半世紀ほどで変化しており、扁平上皮癌が減少し腺癌が増加している1)。一方で、日本をはじめとするアジア、アフリカ、南米では依然として扁平上皮癌が主たる組織型となっている2)。日本における切除不能/進行再発食道癌に対する標準一次化学療法はCisplatin+5-FU併用療法であり、二次治療としてはDocetaxelまたはPaclitaxel単剤が選択されている。これらの標準治療に耐性の食道癌に対しては効果がある治療法はない。

 近年多くの癌種で有効性が報告されている抗PD-1抗体Nivolumabだが、そのリガンドとなるPD-L1とPD-L2は食道癌の43.9%に発現しており、予後不良因子との報告がある3)。以上のことから標準治療に不応不耐の食道癌を対象にNivolumab単剤を用いた試験が行われた。

 本試験は本邦の8施設において多施設共同非盲検単群第II相試験として行われた。対象は20歳以上、ECOG PS 0-1、組織型は扁平上皮癌/腺扁平上皮癌/腺癌のいずれか、フッ化ピリミジンおよび、白金製剤、タキサンに不応不耐の食道癌患者とした。

 対象患者はNivolumab 3mg/kgを、許容できない毒性の発現または病勢増悪が認められるまで、6週間を1サイクルとして2週間毎に投与された。CTによる画像評価は、開始後1年間は6週毎に、それ以降は12週毎に行われ、RECIST version1.1に則って評価された。

 主要評価項目は中央判定による客観的奏効率(ORR)とし、副次的評価項目は全生存期間、担当医評価による奏効率、中央判定および担当医評価による無増悪生存期間(PFS)、免疫関連効果判定基準を用いた奏効率(ir-ORR)および無増悪生存期間(ir-PFS)、中央判定による奏効が持続した期間および奏効が認められるまでの期間とした。安全性はCTCAE version 4.0に則って評価された。

 二項検定に基づき閾値奏効割合を5%、期待奏効割合を15%、検出力80%、有意水準を片側2.5%と設定し、53例が必要と計算された。その上で約10%の不適格例が存在すると仮定し計60例を目標症例数と設定した。

 2014年2月から2014年11月に65人の扁平上皮癌の食道癌患者が登録された。1人は重複癌で除外された。年齢中央値は62(49〜80)歳、ECOG PS 0は29例(45%)、1が36例(55%)、組織型は全例扁平上皮癌であった。前治療としては、手術を行ったもの44例(68%)、放射線治療を行ったもの44例(68%)が含まれ、薬物療法は2レジメン以下が21例(32%)、3レジメンが24例(37%)、4レジメン以上が20例(31%)であった。追跡期間中央値は10.8ヵ月であった。

 主要評価項目である、中央判定によるORRは17%(95% CI: 10-28)[うち完全奏効(CR)2%、部分奏効(PR)16%]であり、安定(SD)25%、進行(PD)45%であった。担当医評価によるORRは22%(95% CI: 14-33)(うちCR 3%、PR 19%)、SD 31%、PD 45%であった。病勢コントロール割合(DCR)は中央判定および担当医判定でそれぞれ42%、53%、mPFSは1.5ヵ月および2.3ヵ月であった。ir-ORRは25%、ir-DCRは67%であった。奏効した11人における、奏効するまでの期間の中央値は1.5ヵ月(範囲1.4-3.0)であった。

 有害事象は65例中55例(85%)で認められた。主なものは下痢(20%)、食欲不振(18%)、便秘(11%)、疲労(11%)、発疹(11%)、肺炎(10%)などであった。Grade 3/4の有害事象は26%(grade 3: 23%、grade 4: 3%)に認められ、重篤な有害事象(SAE)は17%に認められた。治療に関連したSAEは肺感染(3%)、脱水(3%)、間質性肺炎(2%)、倦怠感(2%)、肝機能障害(2%)、低ナトリウム血症(2%)、呼吸困難(2%)であった。薬剤関連死は認められなかった。

 以上より、本邦における標準治療不応不耐の食道扁平上皮癌を対象にNivolumab単剤の有効性と安全性が示された。現在、フッ化ピリミジンおよび白金製剤に不応不耐の切除不能進行再発食道癌を対象に、二次治療としてNivolumab単独かDocetaxelもしくはPaclitaxelを比較するオープンラベル第III相試験が行われている(NCT02569242)。

日本語要約原稿作成:大阪大学大学院医学系研究科 先進癌薬物療法開発学 加藤 文



監訳者コメント:
食道癌に対するNivolumabのエビデンスが本邦より発信

 食道癌は世界的に死亡数の多い癌であるにも関わらず、他の癌種と比較すると有効性が証明されている薬剤が少ない。欧米では組織型として腺癌が多く、胃癌に準ずるようなレジメン選択が行われることが多い一方で、本邦に代表されるアジアでは扁平上皮癌が主たる組織型であるため、地域による組織型の違いが治療開発の進捗に影響を及ぼしている可能性はあるのかもしれないが、新たな治療開発は喫緊の課題ともいえる。

 本試験は食道扁平上皮癌における免疫チェックポイント阻害剤Nivolumabの有効性をみた第II相試験である。昨今の免疫チェックポイント阻害剤の治験ではPD-L1陽性症例に対象を絞って行われているものが多いが、本試験はバイオマーカーによる選択基準を設けずall comerで試験が行われた。本試験における奏効率は17%と、十分に高い値とは言えず、無増悪生存曲線においては、半分程度の症例が初回の画像評価で病勢増悪と判定されていることが見てとれる。しかしその一方で長期に奏効している症例が認められることから、奏効する症例を事前に如何に見分けるのかという点が重要となる。免疫チェックポイント阻害剤における治療効果予測因子はPD-L1でよいのか、もしくは他の有望なバイオマーカーが存在するのか、はたまた単一のバイオマーカーで効果予測を行うのは限界があり複数のバイオマーカーを複合的に用いる必要があるのか等、奏効する症例を絞り込む努力が今後も継続的に必要である。また本試験は検証的試験ではないため保険適用へ至るためには第III相試験の結果を待たねばならないとの見方が主流であるが、強力な治療効果予測因子を同定することで治療現場に新規薬剤が迅速に届くことを切に願う。

  •  1) Thrift AP: Cancer Epidemiol. 41: 88-95, 2016[PubMed
  •  2) Torre LA, et al.: CA Cancer J Clin. 65(2): 87-108, 2015[PubMed
  •  3) Ohigashi Y, et al. Clin Cancer Res. 11(8): 2947-2953, 2005[PubMed
  • 関連リンク
    副作用対策講座「下痢
  • 監訳・コメント:大阪大学大学院医学系研究科 先進癌薬物療法開発学 工藤 敏啓

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