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2009年1月〜2015年12月の論文紹介
2003年1月〜2008年12月の論文紹介

5月
監修:聖マリアンナ医科大学 臨床腫瘍学 教授 中島 貴子

膵臓癌

切除後膵癌に対するGemcitabineへのCapecitabine上乗せ(ESPAC-4試験)


Neoptolemos JP, et al.: Lancet. 389(10073): 1011-1024, 2017

 近年、Gemcitabine+Capecitabine1)/nab-Paclitaxel2)、FOLFIRINOX3)などの化学療法併用療法1-4)により、進行膵癌患者の1年生存率は改善されてきている5)。また、手術手技も大幅に改善され切除可能例は増加したが、手術単独での5年生存率は10%未満である6-8)。5-FU/LV、Gemcitabineによる術後化学療法により5年生存率は16〜21%と倍増しており6-10)、術後における放射線療法の役割は疑問視されているものの、化学療法は標準治療として確立されている5-7,11,12)

 Gemcitabineは5-FU/LVと比較して、術後化学療法として延命効果は示せていないが13)、毒性プロファイルが良好なため選択されてきた6-8,13)。一方、DNA合成に関与するチミジル酸シンターゼにおけるGemcitabineとCapecitabineの細胞内代謝物には相乗作用を認め、進行例における臨床試験では、Gemcitabine+CapecitabineはGemcitabine単独と比較して許容可能な毒性プロファイルを維持しながら、良好な奏効、PFSの改善が認められ、メタアナリシスではOSの改善が示されている1,4)。そこで、切除後膵癌に対する術後化学療法としてGemcitabineへのCapecitabineの上乗せ効果を検討する、オープンラベルランダム化第III相試験、ESPAC-4試験が行われた。

 対象は、英国、スコットランド、ウェールズ、ドイツ、フランス、スウェーデンの92施設においてR0/1切除14)が行われた18歳以上の膵管癌患者であった。

 対象患者は、切除断端(陰性/陽性)、国を層別因子とし、手術の12週間以内にGemcitabine(1,000mg/m², day 1,8,15, 4週毎, 6サイクル)群とGemcitabine+Capecitabine(1,660mg/m², 3週投与1週休薬, 6サイクル)群に1:1でランダム化された。

 主要評価項目はOS、副次評価項目は24ヵ月OS割合、5年OS割合、RFS(relapse-free survival)であった。Gemcitabine群に対するGemcitabine+Capecitabine群のOSのハザード比を0.74と仮定し、両側α=0.05、検出力90%で、480イベントが必要であり、必要症例数は722例とした。

 2008年11月10日〜2014年9月11の間に732例がGemcitabine群367例、Gemcitabine+Capecitabine群365例にランダム化された。なお、ランダム化において術後CA19-9に制限はなかった。本試験は有効性が明確になったことから、独立データモニタリング委員会から試験の早期公開が勧告され、2015年12月11日に試験運営委員会により承認された。

 観察期間中央値43.2ヵ月において、主要評価項目のOSの中央値はGemcitabine群25.5ヵ月、Gemcitabine+Capecitabine群28.0ヵ月であり、Gemcitabine+Capecitabine群で有意に良好であった(HR=0.82, 95% CI: 0.68-0.98, p=0.032)。また、12ヵ月OS割合はGemcitabine群80.5%、Gemcitabine+Capecitabine群84.1%、24ヵ月OS割合はそれぞれ52.1%、53.8%であった。切除断端陽性(R1切除)例におけるOS中央値はGemcitabine群23.0ヵ月、Gemcitabine+Capecitabine群23.7ヵ月であり、切除断端陰性(R0切除)ではそれぞれ27.9ヵ月、39.5ヵ月であった(χ²1df,trend=14.83, p=0.0001)。なお、事前に規定されたほぼ全てのサブグループにおいて、Gemcitabine+Capecitabine群で良好であった。

 単変量解析の結果、喫煙、術前および術後CA19-9、術前CRP、切除断端、腫瘍grade、リンパ節転移、最大腫瘍サイズ、腫瘍stage、門脈切除、局所浸潤がOSと有意な相関を認めた。そして、多変量解析の結果、治療(Gemcitabine群 vs. Gemcitabine+Capecitabine群, HR=0.79, 95% CI: 0.66-0.96, p=0.016)、切除断端、術後CA19-9、腫瘍grade、リンパ節転移、最大腫瘍サイズが有意な独立因子として同定された。なお、術後CA19-9中央値は切除断端陰性例17.7KU/L、切除断端陽性例20.0KU/Lであった(p=0.11)。

 RFS中央値はGemcitabine群13.1ヵ月、Gemcitabine+Capecitabine群13.9ヵ月であった(HR=0.86, 95% CI: 0.73-1.02, p=0.082)。また、3年RFS割合はGemcitabine群20.9%、Gemcitabine+Capecitabine群23.8%、5年RFS割合はGemcitabine群11.9%、Gemcitabine+Capecitabine群18.6%であった。なお、Gemcitabine群の再発例243例中94例(39%)、Gemcitabine+Capecitabine群の再発例236例中77例(33%)で追加治療を受けており、Gemcitabine群の再発例243例中38例(16%)でCapecitabineによる治療を受けていた。

 重篤な治療関連有害事象は、Gemcitabine群366例中94例(26%)で151イベント、Gemcitabine+Capecitabine群359例中86例(24%)で154イベント認めたが、有意差は認めなかった。Grade 3/4の好中球減少はGemcitabine群(24%)と比べてGemcitabine+Capecitabine群(38%)で多く認めたが、発熱性好中球減少症の発現頻度は両群とも低かった。Grade 3/4の下痢はGemcitabine群(2%)と比べてGemcitabine+Capecitabine群(5%)で多く、Grade 3/4の手足症候群はGemcitabine+Capecitabine群でのみ発現したが(7%)、手足症候群はCapecitabineの用量調節により管理可能であった。なお、QOLに関するアンケート調査では、両群のQOLに経時的な有意差を認めなかった。

 以上のように、切除後膵癌においてGemcitabine+CapecitabineはGemcitabineに対してOSで有意な延長を認めた。本試験の結果より、切除後膵癌における術後化学療法として、Gemcitabine+Capecitabineは新たな標準治療であることが示された。



監訳者コメント:
欧州から新たな膵癌の術後化学療法の標準レジメンが示された。

 欧州で行われた膵癌の術後化学療法に関するランダム化第III相試験の結果で、従来の標準レジメンであるGemcitabine単剤に対して、Gemcitabine+Capecitabineが有意な延命効果を示したことを報告する、重要な研究結果である。効果安全性評価委員会からの早期有効中止の勧告により解析が行われている。両群間の背景因子にも大きな違いはなく、併用療法群における有意な延命効果が示されており、事前に規定されたほぼ全てのサブグループにおいて併用療法群で良好な結果であった。有害事象やQOLについても併用療法群に大きなデメリットはなさそうで、Gemcitabine+Capecitabineは膵癌の術後化学療法の新たな標準レジメンとして今後受け入れられていくであろう。2017年度版のNCCN Guidelineでもすでにこのレジメンは術後化学療法の治療オプションとしてcategory 1で推奨されている。

 一方で、日本ではJASPAC 01試験により膵癌の術後化学療法としてGemcitabine単剤に対してS-1単剤療法の有意な延命効果が示されている。JASPAC 01試験とESPAC-4試験では患者背景も異なるし(PS0の患者が69% vs. 42%、N0が37% vs. 20%、R1切除が13% vs. 60%;ただしR1の定義が両試験で異なる、など、JASPAC 01で良好な背景が比較的多い)、そもそも2つの臨床試験の成績を一概には比較できないが、Gemcitabine単剤療法に対するハザード比も、実際の予後もS-1療法でより良好であり、少なくとも今回のESPAC-4試験の結果がJASAPC 01試験を否定するものではない。Capecitabineが膵癌に対して保険診療として使用できない現状も考えると、日本では今後もS-1単剤療法が膵癌の術後化学療法の標準療法と考えてよいだろう。なお、膵癌切除患者を対象としたGemcitabineとS-1の併用療法(GS療法)をGemcitabine単独療法と比較する術後化学療法のランダム化第III相試験(JSAP-04)も登録が終了しており、結果公表待ちの状況である。

  •  1) Cunningham D, et al.: J Clin Oncol. 27(33): 5513-5518, 2009[PubMed
  •  2) Von Hoff DD, et al.: N Engl J Med. 369(18): 1691-1703, 2013[PubMed
  •  3) Conroy T, et al.: N Engl J Med. 364(19): 1817-1825, 2011[PubMed
  •  4) Sultana A, et al.: J Clin Oncol. 25(18): 2607-2615, 2007[PubMed
  •  5) Kleeff J, et al.: Nat Rev Dis Primers. 2: 16022, 2016[PubMed
  •  6) Neoptolemos JP, et al.: Lancet. 358(9293): 1576-1585, 2001[PubMed
  •  7) Neoptolemos JP, et al.: N Engl J Med. 350(12): 1200-1210, 2004[PubMed
  •  8) Oettle H, et al.: JAMA. 310(14): 1473-1481, 2013[PubMed
  •  9) Neoptolemos JP, et al.: Br J Cancer. 100(2): 246-250, 2009[PubMed
  • 10) Valle JW, et al.: J Clin Oncol. 32(6): 504-512, 2014[PubMed
  • 11) Liao WC, et al.: Lancet Oncol. 14(11): 1095-1103, 2013[PubMed
  • 12) Neoptolemos JP, Cox TF: Lancet Oncol. 14(11): 1034-1035, 2013[PubMed
  • 13) Neoptolemos JP, et al.: JAMA. 304(10): 1073-1081, 2010[PubMed
  • 14) Campbell F, et al.: Histopathology. 55(3): 277-283, 2009[PubMed

監訳・コメント:国立がん研究センター中央病院 肝胆膵内科 森実 千種

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