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8月
監修:九州大学大学院 消化器・総合外科 診療准教授 沖 英次

大腸癌

切除不能進行・再発大腸癌に対するTrastuzumab+Lapatinib(HERACLES試験)


Sartore-Bianchi A, et al.: Lancet Oncol. 17(6): 738-746, 2016

 切除不能進行・再発大腸癌における分子標的療法としては、EGFR経路を特異的に阻害する抗EGFR抗体薬が主軸となるが、抗EGFR抗体薬はKRASNRASBRAF変異を持たない患者に対して、より大きな治療効果が認められている。これらの変異はEGFR下流を恒常的に活性化させEGFRシグナル阻害から逃れるため、抗EGFR抗体薬の効果が減少することが知られている。一方、大規模ライブラリーを用いて、抗EGFR抗体薬に対する自然耐性のメカニズムを検討した結果、複数のCetuximab抵抗性の大腸癌xenograft modelはHER2遺伝子の増幅を認めたものの、KRASNRASBRAF変異を認めなかった。このxenograft modelに対してHER2標的療法は単独では有効性を認めなかったが、抗HER2抗体薬(PertuzumabまたはTrastuzumab)とチロシンキナーゼ阻害薬(Lapatinib)を併用することで腫瘍縮小を認めた。PertuzumabとLapatinib併用療法は認可されておらず、毒性評価が十分ではない一方で、Trastuzumab+Lapatinib併用療法はHER2陽性乳癌に対するstandard therapyであった。この様な背景を基に、標準治療に不応となったHER2陽性KRAS exon 2(codon 12, 13)野生型切除不能進行・再発大腸癌患者に対するTrastuzumab+Lapatinibの有効性を検討するHERACLES試験を行った。なお、本試験に先行して、IHC法とFISH法によるHER2陽性評価の大腸癌における基準を設定する研究を行い、その結果を本試験の診断基準とした。

 対象は18歳以上、ECOG PS 0/1、標準治療による治療中または治療後6ヵ月以内に増悪したKRAS exon 2(codon 12, 13)野生型でHER2陽性の1つ以上の測定可能病変を有する切除不能進行・再発大腸癌患者であり、HER2陽性は50%以上の細胞でIHC法のHER2スコアが3+、またはHER2スコア2+かつ50%以上の細胞でFISH法のHER2/CEP17比が2以上とした。対象患者にはTrastuzumab(初回4mg/kg, 2回目以降2mg/kg, 1週間毎)+Lapatinib(1,000mg, day 1-21)を投与し、有害事象が発現した場合は減量した。HER2陽性のスクリーニングとして、最も直近で入手可能なホルマリン固定パラフィン包埋腫瘍サンプルを用い、本試験の診断基準に従って参加施設においてIHC法で評価された後、HER2陽性の検体は中央施設でIHC法およびFISH法により再評価された。

 主要評価項目は奏効率、副次評価項目はPFSおよび安全性である。奏効率の帰無仮説を10%以下、対立仮説を30%以上とし、片側α=0.05、検出力85%で、必要症例は27例であり、Trastuzumab+Lapatinibの有効性の証明には6例の奏効が必要であった。

 2012年8月27日〜2015年5月15日の間にKRAS exon 2(codon 12, 13)野生型患者914例がスクリーニングされ、HER2陽性は48例(5%)であった。また、そのうち2例は登録前に死亡し、19例は不適格であったため、27例が登録された。HER2評価は27例中20例(74%)が中央判定、7例が施設判定と中央判定の再評価で行われ、施設判定と中央判定の一致率は71%であり、判定に使用された検体は原発巣が10例(37%)、転移巣が17例(63%)であった。登録患者の前治療回数は多く、20例(74%)は4レジメン以上による治療が行われていた。なお、前治療の抗EGFR抗体薬による奏効の評価が可能であった15例のうち奏効した症例は認めなかった。

 2015年10月15日カットオフ時点において、CR 1例(4%)、PR 7例(26%)、SD 12例(44%)で、奏効を達成した症例は8例(奏効率30%)と、事前に設定されていた6例を上回った。SDの12例中8例は16週以上のSDを認めた。また、2例(7%)は初回CT評価前に臨床的に増悪を認めた。初回評価前に腫瘍進行を認めた2例は腫瘍評価が困難であったことから、この2例を除きCT評価が可能であった25例中21例(84%)で何らかの腫瘍縮小を認めた。なお、奏効を認めた8例中7例(88%)はIHC法のHER2スコアが3+で、FISH法およびqPCR法評価によるHER2遺伝子コピー数が多く認められた。一方、SDおよびPDの17例でHER2スコア3+だったのは10例(59%)のみであった。

 カットオフ時点において3例は奏効が持続しており、PDとなった22例中11例(50%)には新規病変が発現したが、そのうち7例(64%)では原発巣の標的および非標的病変は奏効が持続していた。

 PFS中央値は21週間、OS中央値は46週間であったが、27例中12例(45%)は治療開始1年時点で生存していた。

 最も多くみられた有害事象は下痢(78%)、皮疹(48%)、疲労(48%)、爪囲炎(33%)、結膜炎(19%)であった。Grade 4/5の治療関連有害事象は認めず、grade 3の有害事象は6例(22%、疲労4例、皮疹1例、ビリルビン濃度上昇1例)であった。

 奏効を決める分子的因子の探索的解析では、9例が遺伝子コピー数9.45以下で、18例が9.45以上であった。このカットオフ値以上の症例におけるPFS中央値は29週間、カットオフ値未満の症例では16週間であった。

 以上のように、抗EGFR抗体薬抵抗性のHER2陽性切除不能進行・再発大腸癌患者において、Trastuzumab+Lapatinib併用療法は有効性を示し、有害事象の多くはgrade 1/2であった。本試験の結果はHER2増幅と抗EGFR抗体薬抵抗性の関連性の報告を支持し、サルベージラインにおいて抗EGFR抗体薬が有効でないと考えられる患者に対して二重HER2標的療法を使用することの意義が示唆された。



監訳者コメント:
HER2をターゲットとした治療戦略は大腸癌においても非常に期待される

 HER2陽性乳癌で効果が実証されているTrastuzumab+Lapatinib併用療法は、本試験において標準治療に不応となったHER2陽性KRAS exon 2(codon 12, 13)野生型切除不能進行・再発大腸癌患者に対しても奏効率30%というpositiveな結果を示した。また、PFS中央値は21週間、OS中央値は46週間、1年生存割合が45%と、標準治療不応という設定で比較的長期の病勢制御および生存が得られており、大変有望な治療戦略と考えられる。ただし、本試験におけるHER2陽性の定義は、先行研究において得られた基準が採用されていることには留意が必要である。

 2016年のASCO-GIのTPS(trials in progress)においては、本試験治療に不応となった患者に対しT-DM1の投与を行うHERACLES-RESCUE試験が報告された1)。この試験は、HERACLES試験でTrastuzumab+Lapatinib併用療法に獲得耐性を示した患者由来のtumorgraftを用いた前臨床試験において、有望な結果が得られたことを基に計画されている。このようなHER2 alterationをtargetにした治療開発は非常に期待のできるものであり、今後の動向に期待したい。しかしながら本報告でも示されたようにHER2陽性割合は約5%という決して多くはないpopulationであり、より効率的なスクリーニングシステムが今後の治療開発と臨床応用には不可欠と考える。

  • 1) Siena S, et al.: 2016 Gastrointestinal Cancers Symposium. abstr #TPS774

監訳・コメント:JCHO 九州病院 血液・腫瘍内科 牧山 明資

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