論文紹介 | 毎月、世界的に権威あるジャーナルから、消化器癌のトピックスとなる文献を選択し、その要約とご監訳いただいたドクターのコメントを掲載しています。

12月
2015年

監修:東海中央病院 坂本純一(病院長)

切除不能進行・再発胃癌に対する1st-line治療におけるS-1+CDDPの投与スケジュールの比較 : 多施設共同第III相無作為化比較試験(SOS試験)

Ryu M-H., et al. Ann Oncol, 2015; 26(10): 2097-2101

 進行胃癌に対する標準的な1st-line治療は、日本ではSPIRITS試験の結果を受けてS-1+CDDPの5週ごと投与:CDDP 60mg/m2+S-1 80mg/m2(SP5)であるが、韓国では3週ごと投与:CDDP 80mg/m2+S-1 80mg/m2(SP3)、西欧諸国では4週ごと投与:CDDP 75mg/m2+S-1 50mg/m2であり、両薬剤の投与量と投与スケジュールは国・地域により異なり、国際的に統一されていない。そのため新規薬剤を含む化学療法レジメンを開発するための国際試験のデザインや実施は困難であり、またSP5は、他のスケジュールに比べてCDDPのdose intensityが低いという弱点がある。そこで日本と韓国の進行胃癌患者の1st-line治療においてSP3とSP5の有効性と安全性を比較する多施設共同第III相オープンラベル無作為化比較試験(SOS:S-1 Optimal Schedule Study)を実施した。
 対象は18〜74歳、ECOG PS 0-2、切除不能進行・再発胃癌または胃食道接合部腺癌患者であり、全身化学療法歴のあるものは除外した。ただし経口フッ化ピリミジン系製剤のみによる術後補助化学療法を試験登録6ヵ月以上前に完了した症例は登録可とした。
 対象患者はSP3群またはSP5群に1:1に無作為に割り付けられた。SP3群にはS-1 40mg/m2の1日2回経口投与(day1-14)およびCDDP 60mg/m2の静注(day1)を3週ごとに繰り返した。SP5群には体表面積に従ってS-1 40〜60mgを1日2回経口投与(day1-21)およびCDDP 60mg/m2の静注(day1またはday8)を5週ごとに繰り返した。これらの治療は各施設の研究者が評価して病勢進行、あるいは忍容不能の毒性がみられるまで継続した。
 主要評価項目は中央委員会の判定によるPFS、副次評価項目は奏効率、OS、安全性、QOLである。なお本試験はSP3群のSP5群に対するPFSの非劣性と優位性を判定するハイブリッドデザインを用いている。SP5群のPFS中央値はSPIRITS試験に基づき6ヵ月と想定し、非劣性試験ではSP3群のハザード比 1.15を非劣性マージンとし、優位性試験ではSP3群のPFS中央値を1.5ヵ月延長して7.5ヵ月と想定した。
 2009年2月から2012年1月までに登録した615例をSP3群306例、SP5群309例に無作為に割り付けた。データカットオフ時(2013年1月)における生存例の追跡期間の中央値は32.4ヵ月である。なお両群の患者背景に差はなかった。
 治療コース数中央値はSP3群が5コース、SP5群は3コースであり、dose intensityは両薬剤ともにSP3群が有意に高かった(S-1は331 vs 317 mg/m2/週、p<0.001 ; CDDPは18 vs 12mg/m2/週、p<0.001)。
 主要評価項目である中央委員会の評価によるPFS中央値はSP3群5.5ヵ月、SP5群4.9ヵ月(HR=0.82,95%CI:0.68-0.99)であった。この結果により95%CIの上限が非劣性マージンの1.15を下回っているため、SP3群の非劣性が確認された。さらに優位性に関してはSP3群のPFS中央値はSP5群に比較して有意に延長していた(p=0.0418)。また各施設の研究者評価によるPFS中央値は5.5ヵ月 vs 4.2ヵ月であった(HR=0.80,95%CI:0.66-0.96,p=0.019)。
 SP3群のPFSの優位傾向はほぼすべてのサブグループにおいて共通して認められた。また日本人患者では5週ごと投与(SP5)が優れる傾向にあったものの、統計学的有意差は認められなかった。奏効率はSP3群191例、SP5群189例で評価可能であり、それぞれ60%、50%であった。残念ながらOS中央値はSP3群14.1ヵ月、SP5群13.9ヵ月であり、有意差はみられなかった(HR=0.99,95%CI:0.81-1.21,p=0.91)。
 後治療に関しては、病勢進行後SP3群は163例、SP5群は166例が2nd-line治療を受け(p=0.91)、3rd-line治療はそれぞれ89例、100例が受けていた(p=0.38)。
 安全性の解析は各群303例で行った。SP3群98%、SP5群97%とほとんどの患者で何らかの有害事象が認められた。Grade 3以上の有害事象は貧血(19% vs. 9%)、好中球数減少(39% vs. 9%)をはじめ、全体としてSP3群で高頻度に発現した(73% vs. 51%)。しかし発熱性好中球減少症はSP3群2%、SP5群1%とわずかであった。Grade 3以上の非血液毒性は、食欲不振、疲労感を除いて発現率は5%未満であり、両群に有意差はなかった。また両群とも1例ずつに治療関連死がみられた(腎不全と感染)。QOLについては移動、疼痛/不快感以外は両群の差はみられなかった。
 以上のように、進行胃癌の1st-line治療としてS-1+CDDPの3週ごと投与は5週ごと投与に比べPFSが優れていたが、そのbenefitはあまり大きなものではなく、OSには有意差が認められなかった。安全性については、有害事象は5週ごと投与(SP5)に比べて3週ごと投与(SP3)で高頻度に発現したものの、どちらにも忍容性が認められた。こうした結果から、3週ごとおよび5週ごと投与のいずれも実施可能であり、投与スケジュールは個々の患者の治療的必要性に応じて選ぶべきであろうと考える。

監訳者コメント

胃癌1st-line治療スケジュールの選択肢が増えた日韓共同試験

 本研究は、東アジア地域における標準治療を確立する目的で日韓共同の臨床試験として行われた。韓国アサン医療センターのカン・ユング先生が試験調整医師を務めた。韓国からは13施設が参加し、512例がITT解析された。日本ではWJOGの兵頭一之介先生が同消化器グループ代表として指導され、朴成和先生が研究代表者を務めた。日本からは計39施設(WJOG参加施設33施設)が参加して103例がITT解析された。試験デザインの立案や症例登録数からはソウル市のhigh volume centersに患者が集約される韓国が主導的立場をとったといえる。両国合わせて625例が登録され、615例を対象としてITT解析が行われた極めてクオリティーの高い臨床試験である。
 本研究では胃癌に対する1st-line治療としてSP3とSP5が比較検討された。主要評価項目のPFSではSP3がSP5を上回ったが、OSではカプラン・マイヤー生存曲線がほぼ一致しており、ハザード比も0.99であり、SPIRITS試験におけるCDDP+S-1群の成績が再現された。後治療を受けた患者割合は2nd-line治療53%、54%、3rd-line治療34%、37%と日本における臨床試験・日常臨床と比較して低かったのは残念である。過去にAVAGAST試験公表時には国際的に2nd-line治療移行率や社会保険制度の地域差が問題視された。本試験では両群における移行率の隔たりを認めなかったため、従来、2nd-line治療のOSに及ぼす影響が議論されてきたが、本試験では両群における移行率の隔たりを認めなかったため、新たな結果は導かれていない。胃癌2nd-line治療の臨床試験としては2013年WJOG 4007試験、2014年TCOG GI-0801試験(BIRIP)、2015年TRICS試験およびJACCRO GC-05試験の結果が文献報告されている。RAINBOW試験(Ramucirumab+Paclitaxel)における日本人サブセットの結果が日本臨床腫瘍学会の年次総会で報告されており、両剤併用群で奏効率41%、PFS中央値5.6ヵ月、OS中央値11.4ヵ月と極めて良好であった。
 胃癌に関連する遺伝因子の全貌はまだ明らかにされていないが、両国での臨床試験結果は互換性があると考えられる。PFSにおけるサブグループ解析では概ねSP3群に良好な傾向があったが、日本ではSP5に良好な傾向であった。これは日本においてSP5レジメンが広く深く浸透しており、各施設の研究者が習熟していることが原因として考えられる。患者側の状況のみならず各施設のおかれた状況に応じて治療レジメンを選択すべきである。ところでOGSGを中心として行われたHERBIS-1試験は、HER-2陽性胃がんに対するCDDP+S-1+トラスツズマブの第II相試験である。HERBISは、ラテン語で薬草を意味する。この試験ではSP3レジメンを採用しており、今後新たな分子標的薬剤が開発されるにあたり、SP3レジメンを用いることのrationaleがこの試験と本研究により検証されたと考える。

監訳・コメント:兵庫県立西宮病院 楢原 啓之
(化学療法担当部長、化学療法センター長、治験センター長、内科部長、消化器内科部長)

論文紹介 2015年のトップへ
このページのトップへ
MEDICAL SCIENCE PUBLICATIONS, Inc
Copyright © MEDICAL SCIENCE PUBLICATIONS, Inc. All Rights Reserved

GI cancer-net
消化器癌治療の広場