論文紹介 | 毎月、世界的に権威あるジャーナルから、消化器癌のトピックスとなる文献を選択し、その要約とご監訳いただいたドクターのコメントを掲載しています。

2015年

監修:東海中央病院 坂本純一(病院長)

進行胃癌および胃食道接合部癌の2nd-line治療としてのアロステリックAKT阻害薬MK-2206に関する第II相試験 : SWOG Cooperative Group Trial(S1005)

Ramanathan RK., et al. Cancer, 2015 ; 121(13) : 2193-2197

 胃癌と胃食道接合部(GEJ)癌ではPIK3/AKT/mTOR経路の重要性が示唆されており、その阻害薬としてEverolimusが期待されたものの第III相試験ではbenefitが得られず、他の阻害法が求められている。MK-2206はヒトのさまざまな癌細胞において単剤および他剤との併用でAKT阻害と抗増殖作用を示している薬剤である。本試験開始時および登録中には1st-line治療中に病勢進行した胃/GEJ癌には標準療法がなかったが、1st-line治療後も十分なPSを有している患者は多く、2nd-lineを対象としてMK-2206療法が忍容性と有効性を示すかどうかを第II相試験にて検討した。
 対象はZubrod PS 0-1で、組織学的または細胞学的に胃/GEJ癌と診断され、手術不能、病勢進行がみられる患者である。1st-line治療後の病勢進行は、術後補助療法後6ヵ月以内に進行または再発が認められた場合とした。空腹時血糖値>150mg/dL、Grade 2以上の吸収不良、慢性下痢などの患者は不適格とした。
 MK-220は660mg を1日おきに投与し(食前または食後2時間)、28日を1コースとして病勢進行または忍容不能な有害事象がみられまで続けた。理由を問わず3週を超えて治療遅延を生じた場合は試験中止とした。
 主要評価項目はOS、副次評価項目は奏効率、PFS、安全性とした。MK-2206のOSに関する有効性は、historical controlの中央値5ヵ月と比較して6.5ヵ月とした。
 2011年1月〜2013年5月にSWOG 22施設から登録された75例中、適格患者は70例であった。年齢中央値は59.8歳、男性70%、白人89%、アジア人7%で、29%が放射線照射歴を有していた。
 2014年8月の解析時点で6例が生存していた。放射線学的にPRは1%(1例)、SDは20%(14例)で得られた。OS中央値は5.1ヵ月(95%CI:3.7-9.4ヵ月)で、有効性目標の6.5ヵ月に達しなかった。PFS中央値は1.8ヵ月(1.7-1.8ヵ月)であった。
 試験期間中、薬剤関連と思われる死亡が2例みられた。Grade 4の有害事象は高血糖症、貧血、肺感染症が1例ずつにみられ、Grade 3の有害事象は疲労の6%を除くとすべて5%未満と低頻度であった。Gradeを問わず(主にGrade 1/2)高頻度にみられたのは、貧血(17%)、食欲不振(30%)、下痢(26%)、疲労(50%)、高血糖症(30%)、悪心(40%)、嘔吐(22%)であった。皮膚障害としては乾燥(19%)、斑点状丘疹(30%)、搔痒症(22%)、ざ瘡様丘疹(13%)が認められた。
 以上のように、進行胃/GEJ癌に対する2nd-line治療としてのMK-2206は有害事象の大半がGrade 1/2であり、忍容性に優れていた。一方で奏効率はPRが1例と低く、OS中央値も有効性の目標である6.5ヵ月に達せず、効果が認められなかった。本試験では対象が非選択患者であること、腫瘍標本を採取していないこと、薬物動態を調べていないことが問題であり、今後は適切なバイオマーカーに基づく患者選択や、他剤との併用なども考慮して試験を行うべきであろう。

監訳者コメント

切除不能進行再発胃癌/GEJ癌に対するシグナル伝達阻害薬開発の困難さ

 胃/EGJ癌に対しては多くの分子標的治療薬が開発されてきたが、腫瘍細胞の増殖シグナルの伝達を阻害する治療薬としてはHER2陽性例に対するTrastuzumabしか延命効果を示すことができていない。
 AKTは胃/EGJ癌の約30%の症例で活性化されていることが報告されており、AKT阻害薬であるMK-2206の効果が期待されていた。主要評価項目のOSは中央値5.1ヵ月とほぼhistorical controlと変わらずネガティブであった。しかし、1例で奏功を認め、生存曲線をみると20%程度の症例では3ヵ月を超えるPFSを得られており、何らかの有効性があることは間違いない。筆者らが述べているように有効性を絞り込む適切なバイオマーカーをより早期の段階から調べておくことが必要であったと考えられる。
 胃/EGJ癌においてはdriverとなる遺伝子変異や融合遺伝子は分かっておらず、さらには腫瘍内heterogeneityがあることより、1つの標的を阻害する薬剤単独での治療では生存期間の延長に結びつかない可能性が高い。今後の開発にあたっては、バイオマーカーの探索に加えて併用療法も考慮に入れる必要がある。非常に難しい課題である。

監訳・コメント:四国がんセンター 消化器内科 仁科 智裕(医長)

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