論文紹介 | 毎月、世界的に権威あるジャーナルから、消化器癌のトピックスとなる文献を選択し、その要約とご監訳いただいたドクターのコメントを掲載しています。

2015年

監修:東海中央病院 坂本純一(病院長)

術前補助化学療法後の病期は食道または胃食道接合部腺癌手術後の生存の予測因子である

Davies AR. et al. J Clin Oncol., 2014 : 32(27) : 2983-2990

 現在、英国では切除可能な食道癌治療として術前化学療法が確立しているが、絶対的ベネフィットは期待できない。最近実施された2つの試験でも患者の大半は延命効果を得られなかった。著者らは診断後のステージングではなく術前化学療法後のステージングが生存成績を決定するのではないかと考え、食道腺癌患者における術前化学療法の長期成績を追跡し、ダウンステージの有無による延命効果の違いを検討した。
 2000年1月〜2010年12月に、手術件数の多い英国国内2施設から食道/胃食道接合部腺癌患者584例のデータを前向きに収集した。ステージングは、術前化学療法実施前は内視鏡、CT、EUS、FDG-PETで、実施後はCTで判定した。全例が根治的切除術を受けたので、最終的な組織学的判定(ypTNM)が可能であった。ダウンステージは術前化学療法前の臨床的ステージング(cTNM)と術前化学療法後のypTNMとの比較で決定した。
 584例中、175例(30.0%)は術前化学療法を受けてダウンステージが得られ(D群)、225例(38.5%)は術前化学療法を受けたがダウンステージが得られなかった(ND群)。184例(31.5%)は、術前化学療法の必要がないか医療上の理由または患者の希望で術前化学療法を受けなかった(NC群)。術前化学療法適用範囲は、当初はT3またはリンパ節転移を含む腫瘍であったが、2005年後半にT2N0も適用とした。
 584例の平均年齢は63歳、男性は86%、入院期間中央値は16日、入院中の死亡は2.5%、1年OSは80%、2年OSは45%で、D群、ND群、NCに差はなかった。非開胸食道抜去術は232例(D群59例、ND群54例、NC群118例)、開胸食道切除術は353例(116例、171例、66例)が受けた。
 初回手術を受けた患者では78%が正確な臨床的ステージングをされており、アンダーステージングであったと判定されたものは16%、オーバーステージングであったとされたものは6%に過ぎなかった。
 Royal College of Pathologistsの断端陽性基準によるR0切除は60%だったが、これはAmerivan College of Pathologistsの基準では87%に相当する。D群はND群に比べ切除断端陰性率が有意に改善されていた(74.3% vs. 40.4%,p<0.001)。
 D群は局所再発率(6.3% vs. 13.3%,p=0.03)、全身転移率が有意に低かった(19.4% vs. 29.3%,p=0.027)。D群89% 、ND群82%でMandard腫瘍縮小スコアが1〜4であったが、D群のスコアは ND群に比べて有意に改善されていた(CRが15.4% vs. 0.0%、good responseが6.9% vs. 1.3%、moderateが36.6% vs. 23.6%、poorが23.4% vs. 45.8%、p<0.001)。
 生存成績に影響を与える因子は多変量Cox回帰解析にて検討した。OSおよびDFSの独立したマーカーはダウンステージ(HR=0.49, 95%CI:0.35-0.68)、リンパ管侵襲(HR=1.88,95%CI:1.39-2.55)、断端陽性(HR=1.69,95%CI:1.27-2.25)で、年齢、術式には生存成績との関連はみられなかった。
 ダウンステージの程度と生存成績の関係をみると、cT3/4N+からダウンステージした患者はダウンステージの認められなかった患者に比べて5年OSが有意に改善していた(52.5% vs. 12.6%,p<0.001)。また、術前化学療法を必要としない早期患者の成績と匹敵するものであった。cT3/4N+からypT0N0、
ypT1/2N−、ypT1/2N+、ypT3/4N−にダウンステージした患者ではいずれも術前化学療法奏効例で非奏効例に比べて有意な延命効果がみられた。
 本解析で示されたように、切除可能な食道腺癌におけるダウンステージは全身の再発率を低下させ、他の予後因子とは独立して生存成績を改善した。本解析ではオーバーステージングされていたのは6%と少なく、これがダウンステージによるOS改善に影響を与えたとは考えにくい。したがって、患者の生命予後を決定するうえで重要なのは診断後のステージングではなく術前化学療法後のステージングであると考えられた。個々の患者に適した治療を適切に行うには、術前化学療法に対する反応の評価を正確に行うことが求められる。

監訳者コメント

術前化学療法の効果判定の重要性を示す検討

 欧米では、進行食道癌に対する術前化学療法は広く行われており、community standardとなっているのが現状である。本邦においても、術前化学療法の代表的な臨床試験であるJCOG9907の結果をもって、腺癌と扁平上皮癌の違いはあるものの、cStageII/IIIには術前化学療法が標準治療となっている。responderとnon-responderとの予後の差は、以前から食道癌のみならず胃癌でも指摘されているが、responderにおいてダウンステージの程度によって予後が異なることを示し、術前化学療法後の評価の重要性を主張している。また、T3/4 N+といった進行食道癌では、術前化学療法後のStageの予後が術前化学療法を行わなかった同じStageの予後に近似するというデータを示しており、より強力な術前化学療法の必要性や、術後ステージングによる術後化学療法の差別化の必要性といった、今後の課題・ステップを示唆する検討であったともいえる。

監訳・コメント:岐阜大学大学院腫瘍制御学講座 山口 和也(准教授)

論文紹介 2014年のトップへ
このページのトップへ
MEDICAL SCIENCE PUBLICATIONS, Inc
Copyright © MEDICAL SCIENCE PUBLICATIONS, Inc. All Rights Reserved

GI cancer-net
消化器癌治療の広場