論文紹介 | 毎月、世界的に権威あるジャーナルから、消化器癌のトピックスとなる文献を選択し、その要約とご監訳いただいたドクターのコメントを掲載しています。

2014年

監修:東海中央病院 坂本純一(病院長)

T4a/b胃癌に対する術後補助化学療法としてのPaclitaxel→Tegafur+Uracil(UFT)またはS-1逐次療法vs UFTまたはS-1単独療法(SAMIT試験):第III相factorial無作為化比較試験

Tsuburaya A., et al. Lancet Oncol, 2014 ; 15(8) : 886-893

 胃癌患者の転移部位でもっとも多いのは腹膜であり、漿膜浸潤が大きなリスクとなっており、胃癌治療に広く用いられているPaclitaxel(PTX)はとくに胃癌の腹膜播種に対する有効性が認められている。一方、日本では一時期Tegafur+Uracil(UFT)が標準療法であったが、その後ACTS-GC試験の結果から、UFTにかわりS-1が標準的な術後補助化学療法になっている。著者らが行った局所進行胃癌患者単群に対する試験ではPTX→S-1逐次療法が有望な成績を示したが、UFTとS-1を直接比較した試験はなく、また同時療法と逐次療法の比較もこれまで行われていない。そこでPTX→UFTまたはPTX→S-1の各単独療法に対する優位性およびUFTのS-1に対する非劣性を検証する2×2 factorialデザインの第III相無作為化比較試験を行った。
 対象は、D2郭清を受けた20〜80歳の胃癌患者(T4a-b、N0-2、P0、H0、M0、R0/R1)で化学療法歴、放射線療法歴のない症例(ECOG PS 0/1)である。手術は開腹のみで、腹腔鏡は不可とした。適格患者をUFT単独療法(A群)、S-1単独療法(B群)、PTX→UFT逐次療法(C群)、PTX→S-1逐次療法(D群)にランダムに割り付けた。当初、対照はUFTの24週投与としていたが、ACTS-GC試験の結果を受け、2007年5月10日にS-1の48週投与に変更した。
 A群ではUFT(267mg/m2/日)を28日ごとに48週、B群はS-1(80mg/m2/日)を14日投与後7日休薬で48週、C群・D群はPTX(80mg/m2 を1コース目は21日を1コースとしてday 1、8にi.v.、2〜3コース目は28日を1コースとしてday1、8、15)を3コース(11週)実施後、UFTを9コース(36週)またはS-1を12コース(36週)投与した(どちらも実施週数は計48週)。
 主要評価項目はDFS、副次評価項目はOS、安全性、プロトコル完遂率で、すべてITT解析とした。なお、UFTのS-1に対する非劣性マージンは1.33と設定した。追跡期間の中央値はA群62.5ヵ月、B群62.8ヵ月、C群65.5ヵ月、D群61.3ヵ月である。
 2004年8月〜2009年9月に登録された適格患者1433例をA群359例、B群364例、C群355例、D群355例に割り付けた。4群の患者背景に差はなかった。プロトコルを完遂したのはA群60%、B群62%、C群68%、D群70%であった。
 3年DFSを単独療法群(A群・B群)と逐次療法群(C群・D群)で比較したところ、54.0% vs 57.2%で両群間に有意差はなかった(HR 0.92、95%CI:0.80-1.07、p=0.273)。またUFT群(A群・C群)とS-1群(B群・D群)との比較では53.0% vs 58.2%で、UFTのS-1に対する非劣性は認められず、S-1のUFTに対する優位性が認められた(HR 0.81、95%CI:0.70-0.93、p=0.0048[非劣性p=0.151])。サブグループ解析では、細胞学的また病理学的病期が進行している症例ではS-1の強力な治療効果がみられた。腹膜再発はA群26%、B群22%、C群22%、D群17%で生じた。
 3年OSは単独療法群55.8%に対し逐次療法群59.3%で、やはり両群間に有意差はなかった(HR 0.93、95%CI:0.79-1.09、p=0.342)。UFT群とS-1群の比較では54.3% vs 60.7%であった(HR 0.81、95%CI:0.69-0.93、p=0.013)。
 全群でみるとGrade 1/2の有害事象で高頻度に発生したのは貧血(77%)、好中球減少(54%)、白血球減少(50%)、食欲不振(42%)、疲労感(38%)だったが、これらの有害事象はA群では他の3群に比較して少なかった。Grade 3/4の血液学的有害事象は好中球減少(A群11%、B群13%、C群13%、D群23%)で最も高頻度であったが、白血球減少は各群7%未満、血小板減少、発熱性好中球減少症は1%未満と少なかった。Grade 3/4の非血液学的有害事象は食欲不振を除いていずれの群も5%未満であった。治療関連死は認められなかった。
 本試験は胃癌の根治術後補助化学療法に関する最大の試験であり、PTX→UFTまたはS-1逐次療法の単独療法に対する優位性、およびS-1に対するUFTの非劣性を検討したものである。逐次療法は単独療法に比べてDFSを改善することはなく、またUFTの非劣性は認められなかった。ACTS-GC試験の結果と本試験の結果を併せて鑑みるに、少なくともアジアではT4a/b胃癌患者の標準的な術後補助化学療法はS-1単独投与であると言えよう。一方で逐次療法は安全でコンプライアンスもよく、延命効果の改善もみられたことから、進行期胃癌の治療オプションとして考慮されてもよいであろう。

監訳者コメント

漿膜浸潤胃癌症例を対象とした術後補助化学療法のランダム化比較試験結果

 SAMIT試験は我が国で行われた多施設共同試験で、プロスペクティブに232という多施設の共同研究で行われた。すなわちオールジャパンで取り組んだ大規模なランダム化第III相比較試験で、D2郭清された胃癌術後補助化学療法に関して2×2のfactorialデザインによりPTX先行逐次併用療法の単剤療法に対する優越性とUFTのS-1に対する非劣性の2点が検証された。
 本試験の研究背景は以下のとおりである。(1)S-1の4週投与2週休薬のコンプライアンスが良好とはいえないこと。(2)乳癌領域でタキサン製剤の逐次併用投与は毒性が低くおさえられる利点が報告されていること。(3)PTXは胃癌腹膜転移に有効な薬剤として評価されており、最も制御すべき腹膜再発の抑制に期待できる薬剤であること。(4)NSAS-GCとACTS-GCの結果が報告されてS-1が標準療法となったが、UFTとS-1を直接比較する試験がないこと。
 注意点としては、患者背景でstage IVがACTS-GCでは含まれないが、本試験では10%含まれる点は明記しておきたい。
 本試験結果は、主要評価項目のDFSでUFT ベースの治療が53.0%であったのに対してS-1 ベースでは58.2%と良好でUFTのS-1に対する非劣性は証明されず、S-1はHR 0.81、p=0.0057でUFTに対して優越性が示された。またDFSについて逐次投与では57.2%、単独投与では54%で、逐次投与の優越性はp=0.273と証明されなかった。しかし、各グループの治療完逐率はUFT単独で60.7%、S-1 単独62.2%、PTX→UFTで69.7%、PTX→S-1で70.8%と逐次投与例で治療完逐率が高かったことが明らかになった。すなわち、PTX→S-1逐次投与は漿膜浸潤胃癌の補助化学療法において安全で有効と思われた。近年の報告では胃癌術後の体重減少がS-1補助化学療法の継続困難とするリスク因子となることや胃癌の術後3ヵ月間は約10〜50%の症例が術後障害に悩まされていることを考慮すると術後早期では有害事象の少ないPTXを先行投与し、補助化学療法のコンプライアンスを高めることは補助化学療法の戦略として重要なことと思われる。

監訳・コメント:東京慈恵会医科大学附属柏病院 高橋 直人(外科医長、講師)

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