論文紹介 | 毎月、世界的に権威あるジャーナルから、消化器癌のトピックスとなる文献を選択し、その要約とご監訳いただいたドクターのコメントを掲載しています。

2014年

監修:東海中央病院 坂本純一(病院長)

進行胃癌に対するsecond-line治療としての2週ごとCPT-11+CDDP療法 vs CPT-11単独療法:第III相ランダム化比較試験(TCOG GI-0801/BIRIP trial)

Higuchi K., et al. EJC, 2014 ; 50(8) : 1437-1445

 進行胃癌の標準的なfirst-line治療レジメンは国によってさまざまで、東アジアではS-1をベースとしたレジメンが最も普及している。一方、second-line治療については、本試験がデザインされた当時、標準療法は確立されていなかったが、CPT-11単独療法と2週に1度のCPT-11+CDDP(BIRIP)療法が有望であるとされ広く用いられていた。近年のランダム化試験において、CPT-11単独療法がsecond-line化学療法として優れていることが示唆されたが、CPT-11単独療法には下痢や発熱性好中球減少といった副作用の問題がある。そこで、CPT-11との相乗効果があるとされるCDDPとの併用によりCPT-11の用量を減らして副作用を減弱するBIRIP療法が開発され、期待されている。本試験はS-1ベースのfirst-line治療を受けた進行胃癌患者において、CPT-11単独療法とBIRIP療法を比較した第III相試験である。
 対象は、切除不能進行病変または再発病変に対するS-1ベースのfirst-line化学療法(S-1+CPT-11療法は除く)に不応、またはS-1による術後補助療法完了後6ヵ月以内に再発した20歳以上の胃腺癌患者(ECOG PS 2以下)とした。その他の適格条件は、免疫療法歴・放射線療法歴のないこと、S-1ベースの治療は登録2週前までに完了していること、余命12週以上などとした。
 患者はBIRIP療法(BIRIP群)またはCPT-11単独療法(単独群)にランダムに割り付けた。BIRIP群にはCPT-11 60mg/m2(60分で静注)+CDDP 30mg/m2(90分で静注)を、単独群にはCPT-11 150mg/m2(90分で静注)をそれぞれ2週サイクルのday 1に投与した。治療は、病勢進行または管理不能な副作用がみられるまで継続した。
 主要評価項目はPFS、副次評価項目はOS、治療成功期間(TTF)、奏効率、安全性である。
 2008年4月〜2011年7月に日本の21施設から130例の患者が登録され、BIRIP群に64例、単独群に66例が割り付けられたが(ITT群)、単独群の3例は不適格のため、有効性の解析からは除外した。BIRIP群64例vs 単独群63例の主な患者背景は、年齢中央値66歳vs 67歳、男性77% vs 87%、前治療としてプラチナ製剤による化学療法を受けたのは56% vs 57%、術後補助化学療法としてS-1投与を受けたのは23% vs 27%であった。
 初回解析は最終患者登録後1年までのデータに基づいた。この時点でBIRIP群64例、単独群63例が治療を中止しており、治療実施コース数の中央値はBIRIP群6コース、単独群5コースであった。治療中止の原因は両群とも病勢進行が最も多かった(BIRIP群81%、単独群87%)。5コース目での相対的dose intensityはBIRIP群のCPT-11が84%、CDDPが83%、単独群のCPT-11は85%であった。両群のそれぞれ75%が主にPTXをベースとするthird-line治療を受けた。
 解析時、PFSに関して114イベントが生じていた。PFSの中央値はBIRIP群3.8ヵ月 vs 単独群2.8ヵ月とBIRIP群で有意な延長がみられた(HR 0.68、95%CI 0.47-0.98、p=0.0398)。TTFは3.3ヵ月 vs 2.5ヵ月(HR 0.73、95%CI 0.52-1.04、p=0.0817)、OSは10.7ヵ月 vs 10.1ヵ月(HR 1.00、95%CI 0.6-1.44、p=0.9823)で、両群に有意差はなかった。
 奏効率は22% vs 16%(p=0.4975)で有意差は認められなかったが、疾患コントロール率(CR+PR+SD)は75% vs 54%でBIRIP群が有意に優れていた(p=0.0162)。
 サブグループ解析を行ったところ、PFSは腹膜転移のある患者を除いたすべてのサブグループでBIRIP群が優れていた。
 安全性はITT解析で評価した。Grade 3以上の副作用の発生頻度は両群同等であった。しかし発熱性好中球減少はBIRIP群ではみられなかったのに対し、単独群では3例(5%)に生じ、全例がGrade 3以上であった。全Gradeでみると、単独群では下痢(17% vs 42%、p=0.002)、BIRIP群では血清クレアチニン上昇が(25% vs 8%、p=0.009)が高頻度に発生していた。治療関連死は両群ともなかった。
 以上のように、S-1ベースのfirst-line治療に不応であった進行胃癌患者に対するBIRIP療法はCPT-11単独療法に比べてPFSを有意に改善した。本試験は第III相試験でPFSに関するBIRIP療法の優位性を初めて示したものであるが、OSと奏効率には優位性はみられなかった。しかしBIRIP療法は忍容性に優れ、発熱性好中球減少は発症することなく、下痢の頻度も低かった。なお、本試験は日本1国で行われたものであり、サブグループ解析もパワー不足であることから、プラチナ製剤ベースの前治療実施状況の異なる西欧諸国にこの結果を外挿するには注意が必要である。

監訳者コメント

進行胃癌に対するsecond-line治療:何が明らかとなったか

 S-1単独もしくはS-1併用レジメをfirst-line治療として用いた後の増悪例および補助化学療法中もしくは補助化学療法終了後6ヵ月以内の再発例に対して、標準レジメを確立することは重要な課題であった。
 本試験は、上記対象に対してCPT-11単独療法とBIRIP療法を比較した第III相試験である。対象の30%がS-1単独、57% がプラチナ製剤併用レジメンを前治療として受けていた。主要評価項目はPFS、副次評価項目はOS、TTFである。PFS(3.8ヵ月 vs 2.8ヵ月)がBIRIP群で有意に延長しており、優越性が立証された。しかし、OS(10.7ヵ月 vs 10.1ヵ月)には全く差が認められず、奏効率および安全性にも差がなかった。
 5-FUとプラチナ製剤併用後のsecond-line治療として、paclitaxel(PTX)とCPT-11を比較したWJOG4007試験結果では、PFS(3.6ヵ月 vs 2.3ヵ月)および安全性において有意差はなくPTXがやや良好な結果であったが、主要評価項目であるOS (9.5ヵ月 vs 8.4ヵ月)に差がなく、両レジメンともsecond-line治療として妥当であると結論された。
 TRICS試験では、S-1 単独治療抵抗例(プラチナ製剤併用例を除外)に対するOSを主要評価項目とし、BIRIP とCPT-11を比較する第III相試験が行われた。その結果では、両群のOS (16.9ヵ月 vs 15.4ヵ月)とPFS (4.6ヵ月 vs 4.1ヵ月)には差がなかった。
 Second-line治療の主要評価項目としてOSとPFSのどちらが妥当かの議論は別にして、OSを最も重要な評価項目とする限りにおいて、PTX、CPT-11およびBIRIPのいずれを用いても良いと考えられる。患者背景と各レジメンの特性に基づいて使い分けを行うことが妥当である。

監訳・コメント:市立貝塚病院 辻仲 利政(院長)

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