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2014年

監修:東海中央病院 坂本純一(病院長)

胃癌に対する腹腔鏡下胃切除術の長期成績:韓国の大規模case-controlおよび
case-matched多施設共同試験

Kim H-H., et al. J Clin Oncol, 2014 ; 32 : 627-633

 早期胃癌に対する腹腔鏡下切除法は、1999年に日本で腹腔鏡下楔状切除が初めて行われて以来、一般的な術式として加えられている。最近のメタアナリシスで、腹腔鏡下手術は標準的な開腹手術に比べ早期胃癌患者の術後の回復が優れていることが示され、その他の試験でもリンパ節郭清を伴う腹腔鏡下切除術と開腹手術は術後成績が同等であることが報告されている。しかし腹腔鏡下胃切除術に関する大規模な長期成績のデータはなく、腹腔鏡下胃切除術は未だ種々の問題を抱えている。Korean laparoscopic gastrointestinal surgical society(KLASS)では、早期胃癌治療としての腹腔鏡下手術と開腹手術をプロスペクティブに比較する大規模な多施設共同ランダム化比較試験(KLASS-01)を実施中であるが、その前段階として、KLASS-01参加の10人の外科医による腹腔鏡下胃切除の長期成績を検討する解析を行った。
 解析対象として、1998年4月〜2005年12月に治癒目的で腹腔鏡下胃切除術(LG群)または開腹胃切除術(OG群)を受けた早期胃癌患者2976例(LG群1477例、OG群1499例)を抽出し、生存成績を調べた。RFS(recurrence-free survival)は追跡記録のある2907例(LG群1461例、OG群1446例)を評価対象とした。両群の手術法に対する適応の差から生じる交絡因子を除去するため、matched analysisとunmatched analysisを行った。matched analysisは各群から635例ずつを亜全摘/全摘術、D2/D1+、BMI、術者、病期について傾向スコアによりマッチさせた(case-matched コホート)。unmatched analysisはこれらの変数で補正した(case-control コホート)。
 LG群 vs OG群の平均年齢は57.68歳 vs 59.02歳(p=0.003)、男性は926例 vs 1044例(p<0.001)、幽門側胃切除術89.3% vs 70.6%、全摘術8.7% vs 28.3%、噴門側胃切除術1.6% vs 0.7%(術式のp<0.001)、<D2は43.9% vs 16.5%(p<0.001)、IA期76.8% vs 25.5%、IB期10.7% vs 11.2%、IIA期5.2% vs 10.4%、IIB期3.5% vs 12.5%、IIIA期1.6% vs 11.3%、IIIB期1.6% vs 11.5%、IIIC期0.6% vs 17.5%(p<0.001)であった。術後30日以内にLG群0.6%、OG群0.8%が死亡した(有意差なし)。 Case-control コホートのIA期患者の実測5年OSはLG群95.3% vs OG群90.3%でLG群が有意に優れていた(p<0.001)が、IB期91.8% vs 92.3%、IIA期85.7% vs 84.0%、IIB期75.5% vs 75.0%、IIIA期56.5% vs 68.8%、IIIB期45.8% vs 49.1%、IIIC期33.3% vs 30.5%と、IB期以降の患者については両群の有意差は認められなかった。実測5年DSS(disease specific survival)と5年RFSはどの病期においても両群間に有意差はなかった。
 Case-matched コホートのIA期患者の実測5年OSはLG群95.6% vs OG群94.0%、IB期では92.7% vs 96.9%、IIA期85.5% vs 88.4%、IIB期80.0% vs 80.3%、IIIA期61.9% vs 70.0%、IIIB期47.8% vs 68.8%、IIIC期33.3% vs 40.0%で、いずれの病期においても両群の有意差はみられなかった。case-control コホートにおける術後合併症発症率はLG群13.4% vs OG群17%(p=0.173)、case-matched コホートでは12.5% vs 15.1%(p=0.184)で、ともに有意差なしであった。またcase-matched コホートの死亡率にも有意差は認められなかった(0.5% vs 0.3%、p=1.000)
 腹腔鏡下胃切除術の経験曲線は42(範囲4-72)で、経験値によっておおむね合併症発症率を低下させ、切除リンパ節数が増加する傾向がみられた。
 以上のように、胃癌に対する腹腔鏡下切除術の長期予後に関する成績は開腹手術に比べて早期・進行期とも同等であった。IA期の患者では実質OSがLG群で有意に改善していたが、これは、OG群はLG群に比べて高齢で男性が多く、また臨床的にaggressiveな状態にある患者が多かったためと考えられる。そのため厳密なマッチングを行い再評価したところ、LG群の優位性は消滅し同等となった。しかし現在進行中のKLASS-01試験の長期生存成績が明らかになれば、こうした点は問題とならなくなるであろう。case-matched コホートでは合併症発症率、死亡率にも術式による差はなく、腹腔鏡下胃切除術は手術の範囲や程度に関係なく開腹手術と同等に安全であることが明らかになった。本結果は大規模なレトロスペクティブな解析では腹腔鏡下胃切除術の長期成績が開腹手術と遜色のないことを示唆するものであるが、この知見はよくデザインされたプロスペクティブなランダム化比較試験にて検証する必要があるだろう。

監訳者コメント

胃癌に対する腹腔鏡手術の新たな位置づけに期待

 胃癌に対する腹腔鏡下胃切除は、本邦の北野らによって1991年に開発され、日本や韓国を中心に急速に普及しその治療成績が報告されつつある。
 その短期成績については、本邦(JCOG0701)と韓国(KLASS Trial)ともに多施設共同RCTで、Stage I胃癌に対する腹腔鏡下胃切除の安全性が開腹手術と同等であることが報告された。
 しかし予後を含む長期成績の報告は少なく、本邦ではわれわれがT1-2、NO胃がん880例の検討で5年OSが98%、多施設ではJapanese Laparoscopic Surgery Study Group (JLSSG)が早期胃癌1294例の検討で5年DFS99.8%と良好なことを報告した。そして韓国からの報告が本論文で、KLASS Trial に参加の多施設による2976例をレトロスペクティブに解析した。結果Stage I-IIIc のいずれの病期でも腹腔鏡手術と開腹手術でその生存率に差がなく、予後が開腹手術と遜色ないことを示唆した。また本試験では手技的に難しいとされるD2以上の郭清例がLG群に56.1%含まれており、その合併症率や死亡率が開腹手術と変わらないことも報告されており興味深い。
 現在前向き試験として、本邦でStage I胃癌に対する腹腔鏡手術と開腹手術の予後の比較(JCOG0912)とT2-3、N0-2進行胃癌に対する第II/III相試験(JLSSG0901)が進行中である。韓国ではKLASS-01試験がcT1-2a、N0胃癌1400例を集積し解析待ちである。今後これら試験の結果によって胃癌治療の中での腹腔鏡手術の位置づけが変わるものと期待される。

聖マリアンナ医科大学 消化器・一般外科 福永 哲(教授)

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