論文紹介 | 毎月、世界的に権威あるジャーナルから、消化器癌のトピックスとなる文献を選択し、その要約とご監訳いただいたドクターのコメントを掲載しています。

2013年

監修:東海中央病院 坂本純一(病院長)

化学療法抵抗性の切除不能進行再発胃癌に対するapatinib療法:並行群間プラセボコントロールランダム化比較第II相試験の結果

Li, J., et al. J Clin Oncol., 2013 ; 31(26) : 3219-3225

 切除不能進行再発胃癌では二次治療に抵抗性となるとその後の化学療法の治療成績は、奏効率0〜5%と不良であり予後延長が証明されていない。そのため、より有効な新しい治療オプションの開発が喫緊の課題となっている。肺癌や乳癌などではVEGF阻害薬の効果が認められているが、胃癌ではその抗腫瘍効果がOSやPFSの改善をもたらすというエビデンスは限定的である。
 VEGFR TK阻害薬apatinibは、前臨床試験ならびに中国人胃癌患者を対象とした第I相試験においてでも抗腫瘍効果を示すことが報告されている。そこで、胃癌患者の三次治療以降の治療としてのapatinib療法の有効性と安全性を評価するとともに、1日1回投与と1日2回投与のどちらが忍容性に優れるかを検討する二重盲検プラセボコントロールランダム化比較第II相試験を行った。
 対象は18〜70歳の切除不能進行再発胃癌患者(食道胃接合部腺癌も含む)で、2つ以上の化学療法レジメンに不応または不耐となったPS 0/1(ECOG基準)の症例とし、apatinibの850mg×1/日(850mg群)または425mg×2/日(425mg群)またはプラセボ(P群)に1:1:1でランダムに割り付けた。1コースは28日として病勢進行または忍容できない有害事象が認められるまで続けた。副作用が生じた場合は治療中断(1コースにつき14日間まで、かつ2コースまで)、750mgまたは500mgへの減量(2回まで。一度減量したら増量は認めず)、支持療法が行われた。主要評価項目は無増悪生存期間(PFS)、副次評価項目は病勢コントロール割合(DCR)、奏効割合(RR)、全生存期間(OS)、QOL(EORTC-QLQ C30にて評価)とした。P群のPFS中央値を2.0ヵ月、apatinib群を4.5ヵ月と期待し、登録期間と追跡期間をそれぞれ12ヵ月、αエラー両側0.05、βエラー0.2としてサンプルサイズが計算された。
 2009年6月から2010年10月までに中国の15施設から144例が登録され、141例が850mg群(47例)、425mg群(46例)、P群(48例)にランダム化された。年齢中央値はそれぞれ55歳、53歳、54歳、男性83%、74%、75%、IV期は91%、98%、100%、胃切除歴ありは79%、76%、75%、3レジメン以上の治療歴は32%、37%、33%と、主な患者背景は3群ほぼ同様であった。
 850mg群74.5%、425mg群69.6%、P群47.9%が割り付られた薬剤を2コース以上服用した。P群は病勢進行または病状悪化のために治療を中止する例が多く、用量の減量は425mg群で頻度が高かった(850mg群12.8%、425mg群32.6%、P群2%)。
 主要評価項目であるITT集団でのPFS中央値は850mg群3.67ヵ月、425mg群3.20ヵ月、P群1.40ヵ月であった。Cox回帰モデルでのP群に対する850mg群のハザード比(HR)は0.18(95%CI 0.10-0.34、p<0.001)、425mgは0.21(95%CI 0.11-0.38、p<0.001)と有意差がみられたが、425mg群vs 850mg群では1.22(95%CI 0.68-2.20、p=0.511)で有意差はなかった。
 OS中央値は850mg群4.83ヵ月、425mg群4.27ヵ月、P群2.50ヵ月であり、850mg群(HR 0.37、95%CI 0.22-0.62、p<0.001)、425mg群(HR 0.41、95%CI 0.24-0.72、p=0.0017)ともP群との有意差が認められたが、425mg群と850mg群には有意差はなかった(HR 1.28、95%CI 0.75-2.17、p=0.119)。
 850mg群3例、425mg群6例がPRに達したが、P群で奏効を得た例はなかった。ITT集団でのDCRは、850mg群51.06%、425mg群34.78%、P群10.42%でapatinib群がP群に比べて有意に優れていた(p<0.001)。
 有害事象については、apatinib群もP群も全般に忍容性は良好であった。5%以上の患者で発症したグレード3/4の有害事象は、手足症候群、高血圧、血小板減少症、貧血、肝障害、下痢であった。VEGF標的薬に特徴的な有害事象である手足症候群は825mg群4.26%、425mg群13.04%、P群2.08%、高血圧は8.51%、10.87%、0%と425mg群で10%以上の患者にみられたが、蛋白尿は2.13%、4.35%、0%と低頻度であった(いずれもグレード3/4)。血液毒性は軽度でグレード3/4の頻度は低かった。
 QOLには3群間の有意差はなかった。治療コース中に有意な変化がみられたのは不眠症スコアのみで、2コース後にP群に比べapatinib群で有意に改善した(p=0.002)。また、認知機能もapatinib群で改善傾向にあったが、P群との有意差は認められなかった。
 プラセボ群の病勢進行は想定以上に早かった。当初、apatinib群のPFS中央値は4.5ヵ月に達するか、プラセボ群に比べて2.5ヵ月改善することを予測していた。結果として2.5ヵ月の改善には至らなかったものの、PFSはapatinib群で有意な延長を示し、OSもapatinib群で有意に延長した。apatinib群のDCR は43%で、これは他の固形癌における抗血管新生薬での治療成績と同等の成績である。なお、apatinibは425mg1日2回投与より850mg1日1回投与で有害事象の頻度が低かったことから、現在実施中の第III相試験には850mg1日1回投与を推奨した。

監訳者コメント

胃癌に対するVEGF標的療法が再び脚光を浴びている

 VEGFに対するモノクローナル抗体薬であるbevacizumabは、切除不能進行再発胃癌初回治療例を対象にFP/XP療法への上乗せを検証する国際共同第V相試験(AVAGAST試験)が行われたが、OS延長を示すことはできなかった。一方、VEGFR-2に対するモノクローナル抗体薬であるramucirumabは、二次治療例を対象に行われた単剤療法のプラセボ比較第III相試験(REGARD試験)にてOS延長を示した。さらに、paclitaxelとの併用療法(RAINBOW試験)でもOSへの上乗せが示されたとプレスリリースがあり、詳細が2014年のASCO-GIで発表予定である。
 本報告は、三次治療以降の胃癌患者を対象としたVEGFR-2に比較的選択性の高い経口チロシンキナーゼ阻害剤apatinib(YN968D1)のプラセボ比較第II相試験である。結果、apatinib群はプラセボ群と比較してPFSおよびOSの延長を示した。前治療や後治療レジメンに関する記載がなく、胃癌でのキードラッグがどのように投与された集団か不明な点が少し気になるが、プラセボ群と比較してアパチニブ群のOSでのハザード比点推定値が約0.3というのは少数例の第II相試験とはいえ、期待できる結果といえる。また高血圧や手足症候群を含む有害事象も比較的軽度であった。現在、中国にて三次治療以降の胃癌患者を対象にアパチニブ単剤療法のプラセボ対照第III相試験が開始されている。良い結果を期待したいが、ラムシルマブと標的が同じであるため、両者の使い分けや位置づけの議論が必要になるだろう。

監訳・コメント:愛知県がんセンター中央病院 消化器外科部 伊藤 友一(医長)

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