論文紹介 | 毎月、世界的に権威あるジャーナルから、消化器癌のトピックスとなる文献を選択し、その要約とご監訳いただいたドクターのコメントを掲載しています。

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2013年

監修:東海中央病院 坂本純一(病院長)

TNM分類第7版の優位性は患者コホートの全生存率如何である : 日英胃癌患者におけるTNM第6版と7版の比較

Hayashi T. et al. Cancer, 2013; 119(7) : 1330-1337

 2010年、American Joint Committee on Cancer は胃癌患者の予後予測の改善を目標として、新たなエビデンスを採り入れたTNM分類第7版(TNM 7)を発表した。第6版(TNM 6)からの主な改善点は、T1がT1a(粘膜浸潤)とT1b(粘膜下浸潤)に細分化されたこと、N1(リンパ節転移1〜6個)がN1(1〜2個)、N2(3〜6個)に分かれ、N2がN3(>6個)に変更されたことである。臨床使用では、TNMの組み合わせでステージを決定するが、TA期を除いて個々のTNMステージはTNM 6の6ステージからTNM 7の8ステージへと大きく変わった。
 これまでに東西10試験がTNM 6と7を比較研究してきたが、多くの研究は浸潤の深さとリンパ節転移に焦点を当て、TNMステージ分類を比較していないため、TNM 7がTNM 6より優れているかどうかについては未だ議論がある。
 そこで、@TNM分類の原理に基づけば、同じTNMステージ内の患者生命の予後はほぼ同等でなければならず、この変更により予後の異なる患者に関する識別能力は改善されるはずである、ATNM分類は普遍的に認められていることから、洋の東西を問わず改善の度合いは同じはずであるという仮説を立て、胃癌患者診察数の多い東西2つの施設における患者コホートに関して、TNM 6と7の予後識別能力を比較した。
 解析対象は2000〜2005年に神奈川県立がんセンター(KCCH)で診断・手術を受けた胃癌患者と、1988〜2005年に英国のLeeds Teaching Hospital National Health Service Trust(LTHT)で手術を受けた胃癌患者のうち、以下の適格条件を満たした症例である。@組織学的に切除可能と認められた胃腺癌、A術前の画像診断で遠隔転移が認められないこと、B初回治療はD1以上のリンパ節郭清を伴う胃全摘または亜全摘術、C手術時、肉眼的残存腫瘍の認められないこと、D術後の臨床的追跡5年以上。術前/術後補助療法歴、接合部癌等は除外した。
 適格患者はKCCH 538例、LTHT 519例、追跡期間の中央値はそれぞれ62ヵ月、21ヵ月で、KCCHコホートの70%、LTHTコホートの30%が5年以上生存していた。手術時の年齢中央値はそれぞれ64歳、72歳、男性74%、65%であった。
 KCCHコホートではTNM 6から7への変更で82例がアップステージ、26例はダウンステージとなった。5年OSはTNM 6のT期92%(TA期92%、TB期92%)、U期79%、V期65%(VA期74%、VB期39%)、W期13%で、TNM 7で分類し直した結果、T期92%(TA期はTNM 6と同人数で92%、TB期93%)、U期は84%(UA期76%、UB期91%)、V期は50%(VA期73%、VB期60%、VC期25%)、W期8%となった。TB期→UA期にアップステージとなった群とTB期→TB期に残った群の5年OSを比較すると89% vs 93%でわずか4%の差しかなかったが、ステージが進行するとその差は大きくなった。
 LTHTコホートではアップステージは253例、ダウンステージは53例であった。5年OSはTNM 6のT期64%(TA期81%、TB期54%)、U期39%、V期13%(VA 期17%、VB期9%)、W期10%、TNM 7ではT期72%(TA期はTNM 6と同人数で81%、TB期は58%)、U期44%(UA期55%、UB期35%)、V期16%(VA期32%、VB期13%、VC期10%)、W期7%であった。
 TB期→UA期にアップステージとなった群とTB期→TB期に残った群の5年OSの差はKCCHコホートと同様わずかであり(52% vs 58%で6%の差)、ステージの進行とともに差が大きくなるのもKCCHコホートと同様であった。
 U期、V期、W期のOSのハザード比をTNM 6と7とで比較した。ステージを連続変数とすると、1ステージ進行するごとのlogHRはKCCHコホートではTNM 6が1.06、TNM 7は1.16で、TNM 6と7の差は0.11(p=0.024)であった。LTHTコホートではそれぞれ0.57、0.79で、差は0.21(p=0.0002)であった。したがって両コホートともTNM 6に比べTNM 7の識別能力は有意に上昇していると考えられた。
 以上の解析から著者らの仮説@が実証された。しかし改善の度合いはKCCHコホートに比べLTHTコホートのほうが大きく、洋の東西を問わず改善の度合いは同じはずだという仮説Aとは異なっていた。すなわち、TNMステージ分類の識別能力の差は各患者コホートのステージごとのOSの特質によるものであると考えられる。今後TNM分類に変更があるとしたら、十分に大規模で多様な患者コホートに基づいて地域や国に関係なく普遍的に適用できるようにするべきであろう。

監訳者コメント

TNM分類第7版の改訂による予後識別能力の向上

 TNM分類は胃癌の治療方針決定のために重要な分類である。2010年に北米・日本・韓国などのデータを基にTNM分類はTNM7に改訂された。改訂の目的は、TNM分類の予後識別能力の向上である。改訂後、T因子やN因子に着目し比較検討を行った報告はあったが、本検討にように異なる2つの地域の症例を用いてTNM 6とTNM 7の予後識別能力の比較とその改善度合を比較した論文はなく、今回の検討がはじめての報告である。
 検討の結果、日本と英国の異なる地域のコホートともTNM 6に比べTNM 7の予後識別能力は有意に改善し、TNM7の予後識別能力の向上が認められた。しかし、TNM分類の予後識別能力の改善度合は、英国のコホートの方がより改善効果が大きく、結果コホートの生存率により異なった改善効果を示す結果となった。
 今回の検討は、TNM分類の評価方法としていままでにはないアプローチである。今回のような検討は、TNM分類における次の課題提示にもつながる可能性があり、興味深い検討と考えられた。

監訳・コメント:三浦市立病院 青山 徹(外科)

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