論文紹介 | 毎月、世界的に権威あるジャーナルから、消化器癌のトピックスとなる文献を選択し、その要約とご監訳いただいたドクターのコメントを掲載しています。

4月
2013年

監修:東海中央病院 坂本純一(病院長)

地域住民を対象とした研究でみるhospital volumeおよびsurgeon volumeと食道癌術後生存成績と関係

Derogar M, et al., J Clin Oncol, 2013 ; 31(5) : 551-557

 High-riskな食道癌切除術後の死亡率については手術症例数との関連があるのではないかとの議論がある。多くの研究でhospital volumeと短期死亡率に逆相関があることが指摘されているが、それが外科医個人の手術症例数の多寡によるものなのかどうかは明らかになっていない。また、長期生存成績との関係も確立されていない。そこで既知の予後因子を考慮に入れつつ地域住民を対象とした解析を行い、食道切除術後の長・短期生存成績とhospital volumeおよびsurgeon volumeとの関連を調べた。
 スウェーデンで1987年1月1日〜2005年12月31日に食道切除術を受けた食道癌患者をSwedish Cancer RegisterとSwedish Patient Registerから抽出し、全例を2011年2月まで追跡した。hospital volumeは1987〜2005年に各病院における年間食道切除術実施数で判定、surgeon volumeはその外科医が責任者である手術の年間症例数および調査期間の累積症例数で判定し、それぞれ四分位によりquartile 1・2(≦50% : 年間実施数が少ない病院および症例数の少ない外科医が多いため下位2つは1つにまとめた;Q1-2)、qurtile 3(51〜75% ; Q3)、quartile 4(>75%;Q4)の3群に分けた。
 結果判定には死亡率を用いた。術後すべての死亡を全死亡、術後3ヵ月以内の死亡を短期死亡、3ヵ月以降を長期死亡とした。いずれの死亡も死因は問わない。
 各volumeと死亡の関係は多変量モデルにて解析した。モデルの補正については、各解析で異なるので文末にまとめた。
 1,411例の患者を抽出し、そのうち手術に関する情報のある1,335例を解析対象とした。追跡期間1.2年(中央値)におけるリスク曝露は4,251人年であった。手術時の年齢中央値は66歳、73.6%が男性であった。1,125例(84.3%)が死亡しており、うち177例は術後3ヵ月以内の死亡で、食道癌の再発を死因とする死亡は1,012例(90%)にみられた。
 まず、死亡率と年間hospital volumeとの関係について解析した。比較の基準はQ1-2とした(以下、すべて同)。全死亡について有意な関連がみられたのはモデル1におけるQ4の病院で手術を受けた患者群で、リスクが有意に低下していた(低下率16%、HR 0.84、95%CI 0.72-0.98、p=0.03)。短期死亡は、モデル1ではQ3、4群のリスクが40%以上低下しており(p<0.01)、モデル2でも有意差はみられたが、モデル3では認められなかった。長期死亡リスクとhospital volumeにはどのモデルでも関連はみられなかった。
 年間surgeon volumeとの関係について解析したところ、全死亡ではモデル1でQ4の外科医の施術を受けた患者群のリスクが18%低下していた(HR 0.82、95%CI 0.69-0.99、p=0.02)。Q4群は短期死亡リスクがモデル1では51%と有意な低下を示したが(HR 0.48、95%CI 0.29-0.80、p<0.01)、モデル2〜4では低下率の差が縮まり、有意差はなかった。
 累積surgeon volumeと長期および短期死亡率には有意な関係は認められなかった。
 次に年間・累積のsurgeon volumeを組み合わせた場合の死亡率との関係を、年間・累積のvolumeが>中央値の群 vs ≦中央値の群とで比較した。年間・累積volumeともに≦中央値の群を基準とすると、モデル1では>中央値の群で全死亡のリスクが19%低下していた(HR 0.81、95%CI 0.70-0.93、p<0.01)。この有意差はモデル2〜4でも認められた。短期死亡リスクと年間・累積surgeon volumeに関連はみられなかったが、長期死亡リスクはモデル1〜4で>中央値の群と有意に関連していた(p<0.01)。
 最後に、年間hospital volumeとsurgeon volumeを合わせて、>中央値の群 vs ≦中央値の群で比較した。全死亡のリスクはモデル1において>中央値群で19%低下していたが(HR 0.81、95%CI 0.70-0.93、p<0.01)、モデル3、4では有意差はみられなかった。短期死亡はモデル1、2、4のみで有意なリスクの低下がみられた。長期死亡は、年間surgeon volume≦中央値かつ年間hospital volume>中央値群がモデル2で27%のリスク上昇がみられた(HR 1.27、95%CI 1.02-1.57、p<0.05)。
 以上のように、hospital clusteringを考慮に入れて解析すると、hospital volumeと食道切除術後短期死亡および長期死亡には関連がみられないことが明らかになった。surgeon volumeは累積および年間を組み合わせると長期死亡は予測できたものの短期死亡については関連が認められなかった。著者らが知る限り、術後長期生存に関してhospital volumeとsurgeon volumeを組み合わせて評価したのは本解析が初めてであり、独立して長期生命予後に関連するのはhospital volumeではなくsurgeon volumeであることを明らかにした。

※各解析のモデル補正
年間Hospital Volume と死亡率
モデル1: 7因子(年齢、性別、病期、腫瘍の組織型、術前化学療法の有無、Charlson comorbidity index、手術年)
モデル2:モデル1+年間および累計surgeon volume
モデル3:モデル2+ hospital clustering
モデル4:モデル3+ surgeon clustering.

年間 Surgeon Volume と死亡率
モデル 1:7因子+累計 surgeon volume.
モデル2:モデル1+年間hospital volume.
モデル3:モデル2+ hospital clustering.
モデル4:モデル2+ surgeon clustering.

累積Surgeon Volume と死亡率
モデル 1:7因子+年間surgeon volume.
モデル2:モデル1+年間hospital volume
モデル3:モデル2+hospital clustering.
モデル4:モデル2+ surgeon clustering.

年間および累積Surgeon Volume と死亡率
モデル 1:7因子
モデル2:モデル1+年間hospital volume.
モデル3:モデル2+ hospital clustering.
モデル4:モデル2+ surgeon clustering.

年間HospitalおよびSurgeon Volume と死亡率
モデル1:7因子
モデル2:モデル1+累計 surgeon volume.
モデル3:モデル2+ hospital clustering.
モデル4:モデル2+ surgeon clustering.

監訳者コメント

食道癌切除手術におけるVolumeの意義

 Volumeとは手術症例数のことである。High Volume Hospitalと言えば手術症例数の多い病院のことであり、High Volume Surgeonと言えば手術症例数の多い外科医のことである。この10年来欧米では規模の極めて大きな手術(食道癌手術、膵頭十二指腸切除術、大動脈瘤手術など)に関しては手術合併症軽減のためにいわゆるHigh Volume Hospitalへの集約化がすすめられてきた。食道癌手術は症例数の多い病院で行うことが推奨され、Volume-Quality Relationshipが認識されている。

 本論文は結語として食道癌手術では「病院の手術症例数ではなく外科医個人の手術症例数が独立した予後因子である」とし、従来言われているHigh Volume Hospitalは重要ではないとしている。冷静に判断すればきわめて当たり前の結果であり、多数の外科医が少数ずつ食道癌手術を行って病院の症例数が多くても決して予後はよくならないと読み替えることができる。もしも自らが食道癌と診断され、食道癌手術を受ける場合には「病院を選ぶ」時代から「外科医を選ぶ」時代に変わっていくのであろう。

監訳・コメント:順天堂大学 梶山 美明(教授)

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