論文紹介 | 毎月、世界的に権威あるジャーナルから、消化器癌のトピックスとなる文献を選択し、その要約とご監訳いただいたドクターのコメントを掲載しています。

10月
2012年

監修:東海中央病院 坂本純一(病院長)

合衆国において食道癌の組織学的サブタイプが治療と予後に与える影響

Merkow RP., et al., Cancer, 2012 ; 118(13) : 3268-3276

 近年、合衆国では食道癌の罹患率、死亡率が上昇しているが、この20年間で組織型の大半は扁平上皮癌から腺癌にシフトしてきている。現在合衆国で新たに診断される食道癌の大半は下部食道あるいは食道胃接合部の腺癌である。しかし臨床試験においては扁平上皮癌も腺癌も1つのコホートとして扱われ、組織学的分類に基づく治療や予後といった重要な問題があいまいになる可能性がある。扁平上皮癌と腺癌ではリスク因子も臨床病理学的特徴も異なり、したがって治療に対する反応も異なる可能性がある。そこで組織学に基づく評価と管理が重要になってくる。AJCCのマニュアルでは現在この2つを分けて考えているが、組織型による治療パターンの違いがどの程度であるかは明らかでないため、合衆国における食道癌治療のパターンとその成績を組織学的分類の観点から検討した。
 データはNCDB Participant Use Fileから収集した。
 施設は学術/研究的癌センターと地域の癌センターに分け、さらにそれぞれを年間取扱患者数によって2つに分けた。学術的癌センターでは、27名以上をhigh-volumeセンター(以下、HA)、27名未満をlow volumeセンター(LA)、地域の癌センターでは、10名以上をhigh-volumeセンター(HC)、10名未満をlow volumeセンター(LC)とした。
 治療法は手術単独療法、手術+放射線化学療法(術前/術後、またはその両方)、放射線化学単独療法、記録された治療なしの4つに分けた。
 患者は85歳未満、Charlson score 2未満、手術可能で、1998〜2007年にICD-O-2およびICD-O-3にて中部食道、下部食道、食道胃接合部癌(C15.1、C15.2、C15.4、C15.5、C16.0)と同定された80,961名を解析対象とした。
 主要評価項目は臨床病理学的特徴、治療法、OSである。
 80,961名中64,575名(79.8%)が腺癌、16,386名(20.2%)が扁平上皮癌と診断された。腺癌は1998年の76.2%から2007年には82.1%に増えており(p<0.001)、反対に扁平上皮癌の診断は年々減少していた。患者が治療を受けた施設は17,464名(21.6%)がHA、16,463名(20.3%)がLA、25,529名(31.5%)がHC、21,505名(25.6%)がLCで、HAで治療を受ける患者が年々増えていた(p<0.001)。
 腫瘍部位は、腺癌では下部食道(83.4%)、胃食道接合部(97.5%)が、扁平上皮癌では中部食道(72.5%)が多かった。多変量解析を行ったところ、扁平上皮癌と最も関連している因子は黒人(黒人65.1% vs 白人13.2%、RR 4.08)、中部食道(中部食道73.1% vs 下部食道14.4%、RR 4.13)であった。
 解析対象年全体を通して治療法をみると、腺癌は扁平上皮癌に比べて手術施行率が高く(65.7% vs 36.0%、p<0.001)、扁平上皮癌の患者では放射線化学単独療法が多かった(25.7% vs 54.1%、p<0.001)。しかし腺癌群では手術施行率は1998年から2007年にかけて、68.3%から62.9%へと低下しており(p<0.001)、一方で放射線化学単独療法実施率が23.5%から27.1%へと上昇していた(p<0.001)。同様に、扁平上皮癌群でも手術は1998年から2007年にかけて経年的に減少し(39.0%→33.6%、p<0.001)、放射線化学単独療法が増えていた(51.9%→56.4%、p<0.001)。放射線化学単独療法を受けた44,874名中82.6%においては一次療法としての手術は行われていなかった。これはどちらの組織型でも同様であった。
 治療施設のタイプ別解析では、どの施設でも手術療法は腺癌患者のほうで多く用いられていた。手術施行率は腺癌についても扁平上皮癌についてもHAが最も高く、LA、HCがそれに続き、LCは手術率が最も低かった。しかし手術率の高いHA内でみても手術はやはり扁平上皮癌よりも腺癌のほうで多く行われていた(79.3% vs 53.7%、p<0.01)。
 次に生存成績を解析した。ステージII/IIIの腺癌患者については、観察期間中央値18.7ヵ月で、OS中央値は手術+放射線化学療法群23.4ヵ月、放射線化学単独療法群10.6ヵ月で、多変量解析によれば放射線化学単独療法は観察期間中の死亡のリスクと関連していた(ハザード比 2.16、95%CI 1.78-2.63、p<0.001)。
 扁平上皮癌患者では観察期間中央値12.9ヵ月で、ステージII/III 患者のOS中央値は手術+放射線化学療法群21.8ヵ月、放射線化学単独療法群10.3ヵ月で、腺癌同様、放射線化学単独療法は観察期間中の死亡のリスクと関連していた(ハザード比 1.85、95%CI 1.50-2.29、p<0.001)。
 以上のように、合衆国において1998〜2007年の間に新たに診断された食道癌では腺癌が約80%を占めた。本解析からは高齢患者および重篤な合併症を有する患者を除外したが、切除可能な腫瘍であっても手術の実施率は低かった。手術の施行状況は治療施設によって異なっており、とくに年間患者取扱数の少ない地域センターにおける扁平上皮癌患者の手術率は3分の1以下ときわめて低かった。OSは腺癌においても扁平上皮癌においても、放射線化学単独療法に比べて手術+放射線化学療法で改善をみたが、食道癌、とくに扁平上皮癌患者に対する非手術療法が妥当であるかどうか、今後さらに研究する必要があるだろう。

監訳者コメント

米国における食道癌の治療実態に驚愕

 腺癌は肥満に伴う逆流性食道炎によるバレット食道によるものであり、扁平上皮癌は喫煙とアルコールによるものとされている。米国では腺癌80%、扁平上皮癌20%で、腺癌が増加、扁平上皮癌が減少傾向にある。両組織型の治療と予後の比較をするならば、占居部位により治療成績が異なるので、下部食道のみを対象とするべきであろう。本論文から日米の食道癌治療の違いについて述べる。
 第1に、米国では手術施行率が日本と比べて低いことである(腺癌66%、扁平上皮癌36%)。日本の食道癌登録(2003年)では、腺癌3%、扁平上皮癌92%で組織型の構成が全く異なり、cStage I〜III(食道癌取扱い規約)患者の手術施行率は72%(835/2186, data改変)であった。日本では外科医が食道癌を扱うことが多いとはいえ、扁平上皮癌では米国は日本の手術施行率の半分である。扁平上皮癌に関するGerman study、French study(FFCD9102)の報告では、根治的化学放射線治療(CRT)と手術を含む治療の比較で2年生存割合に差がなく、手術死亡率が各々12.8%, 9.3%と高かった。どちらのstudyもlocal controlは手術が良かった。これを受け扁平上皮癌は根治的CRTの流れになり、この手術施行率の低さになったと推測される。その他の原因として、高額な医療費、高い合併症率/手術死亡率、人種、医療保険制度など米国特有の事情もあろう。
 第2に、米国では両組織型とも治療成績が悪いことである。cStage II、IIIの腺癌、扁平上皮癌の手術+CRTの5年生存割合は各々25%(Table 3の数字は逆)、28.2%で、CRT単独の5年生存割合は各々8%、9.9%であった。一方、日本では、cStage IIA、IIB、III(UICC, TNM 5th)の手術の5年生存割合は、各々47.5%、45.1%、33.3%であった。単純には比較できないが日本がはるかに優れている。
 本論文では、治療成績は両組織型で手術+CRTがCRT単独よりもよいことが示唆された。local controlができないと食べられないため、excellent palliationの意味でも、手術は重要なmodalityと思われる。
 腺癌と扁平上皮癌とは分けて考えるべきか?
 他の癌腫の肺癌では腺癌と扁平上皮癌があり、非小細胞肺癌として同じカテゴリーに分類されている。肺癌外科切除例の全国集計(2004年)では、組織型の頻度は腺癌67.9%、扁平上皮癌22.3%で、腺癌が増加し、扁平上皮癌は減少する傾向にある。5年生存割合は各々74.9%、59.1%と腺癌が有意に良好であった。どちらの組織型でも切除可能であれば手術が行われ、病期により化学療法が施行される。ただし最近では、bevacizumab、pemetrexed、gefitinibやerlotinibなどのEGFR-TKI(Epidermal growth factor receptor-tyrosine kinase inhibitors)、crizotinibのALK(Anaplastic lymphoma kinase)阻害剤は、腺癌に特異的効果があり、治療の細分化が進んでいる。食道癌の化学療法では、肺癌のように組織型で分けて考える時代が来るかもしれない。

監訳・コメント 一宮西病院 波戸岡 俊三(呼吸器外科部長)

論文紹介 2012年のトップへ
このページのトップへ
MEDICAL SCIENCE PUBLICATIONS, Inc
Copyright © MEDICAL SCIENCE PUBLICATIONS, Inc. All Rights Reserved

GI cancer-net
消化器癌治療の広場